白き永遠

主にエロゲーの感想や考察について書いていきます。楽しいエロゲー作品に、何か恩返しのようなことがしたくてブログを始めました。

アストラエアの白き永遠 考察_儚く舞い散る雪に、想いの結晶は降り積もる(45662字)

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背後に散る雪や桜と同じで、いつだって儚い笑顔だと感じていた。

だけど、

雪も桜も、一度散っても、またこうして舞うのだから





【ジャンル】雪の舞う空に恋を唄うファンタジーADV


この記事は、「アストラエアの白き永遠」という作品の、雪々ルート単体の考察記事です。

※以下からは完全ネタバレですので、プレイ済みを推奨します















この記事は、「アストラエアの白き永遠 -ELFIN SONG’S AN UNLIMITED EXPANSE OF WHITE.- 」の、雪々グランドルートの感想を交えながらの考察記事になります。

まずこの雪々グランドルートでの、「死生観」と「永遠性」という対立する2つのテーマの中で描かれる、なかひろ先生独自の「想いの永遠性」という非常に大きな題材にはすごく惹かれるものがありました。

(「想いの永遠性」こそなかひろ先生独自のテーマであることは、同ライター作である星空のメモリアでも示されています。それについては以下の記事にて別に考察しています)
星空のメモリア 考察_永遠の想いを、輝く星空にのせて(5500字) - 白き永遠

このアストラエアの白き永遠では、OPテーマのフレーズにある、人が分かり合うためにという題材から、「心」や「他者」、「共感」という観点から、星空のメモリアの内容を引き継いで「想いの永遠性」について書かれているのではないかと私は思います

さて本記事ですが、私は本作を有限と無限、終わりと始まりを象徴する「死生観」や「永遠性」という考え方で捉えています。この作品の違った観点での良さを、1ファンとしてお伝えすることができたらいいなと思います。

雪々など様々なキャラの想いや本心を大切にしたのが、私が本作で大好きなところですので、以外からその良さについて書きたいと思います。みなさんにとって本作が好きになってくだされば幸いです。

※画像の著作権は全て、有限会社FAVORITEに帰属します。

















一人よりも、二人のほうが嬉しかった

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ここは自由に駆け回れる庭だった。
好きに生きることを許された世界だった。
それ以上に求めるものはない。
やわらかい雪の上に、想うだけの足跡をつけたなら、この心は簡単に満たされる。


ーー雪々(プロローグ)

このプロローグの雰囲気や言い回しはすごく独特で、始まりからすごく心に残るようで私は好きです。このテキストの良さは、さすがといったところでしょうか。雪々にとって降り積もる雪の世界がどれだけ心の多くを占めていたかが分かります。

雪々にとってはこの降り積もる雪が全てでした。この雪の世界には雪々以外の存在などなかったから、遊び道具であった雪だけが全てでした。雪が積もった世界はまさに自分の庭そのもので、そこで自由に駆け回って、その分だけ足跡をつけて......。‬
そんなふうに、ここならば好きに生きることができる。足跡は自分がここにいることの存在の証明で、自分の足跡を続けたら自分が生きているという実感までもが得られていたのではないでしょうか。

雪々の心はそれで満たされたし、それ以上に求めるものはないくらい、雪々にとっての全てだったのでしょう

寂しいなんて気持ちもなかったと、雪々は今まではそう思っていました。彼と出会うまでは。

「ゆきゆきは、そう思う......」
「そう、思ってたんだよ」

ある日に気づいた。
たぶんそれは、彼との出会いがキッカケだった。

……一人よりも、二人のほうが楽しいんだ。
……一人で遊ぶよりも、二人で一緒に遊んだほうがうれしいんだ。

知らなかった。
彼から初めて教わった。

その想い出は今も心に積もっている。
その結晶だけは、溶けて消えてしまうことはない。

だけど今はもう遊び相手がいないから、遊び道具だったはずの白い雪は、ひたすらに冷たいだけで。
だからきっと、そんな雪の上で眠ってしまったら、自分は二度と目覚めないのではないか......。

だったらいっそ、結晶のひとかけらさえ、積もらなくていいと願った。


ーー雪々

これまでの雪々は、雪が積もる世界、つまり自分だけの世界で心は満たされ、それ以上は求めていませんでした。しかし彼と出会い、そして遊び相手になっていくうちに、一人よりも二人のほうが楽しいこと、一人で遊ぶよりも二人で一緒に遊んだほうがうれしいことを、雪々は心のどこかで知ったのでしょう

そんな気持ちを彼から教わり、知ってしまった雪々は、今まで自分の全てで、それ以上望むことのなかったはずの雪が、いつの間にか遊び道具にまで成り下がってしまっていました。それだけ、彼という存在が雪々の心を占めるようになり、満たしてくれるようになっていました。

そして雪々は知ってしまった。彼の温かさを、人の温かさを......。だから遊び道具にまで成り下がってしまった雪は、ただ冷たいだけで、遊び相手になってくれた彼の温かさには変えられなくなっていました。
今までの雪々は冷たさしか知らず、だからそれが全てだと満足していましたし、それが全てだと思っていたから満足という感情以外は抱けませんでした。雪が冷たいと感じることさえありませんでした。

だけど、彼の温かさを知ってしまったら、雪は冷たいものでしかないことに雪々は気づいてしまいます。雪は溶けて心に積もることはないけれど、想い出は心の降り積もり、想い出の結晶は溶けて消えることはない。心に積もることのない雪では、溶けずに残り続ける想い出には、到底変えられないものになっていました。

そんな彼との想い出は、ずっと雪々の心に積もり残っているのに、遊び相手だった彼はいなくなってしまいます。雪々に残されたのは、今まで心を満たしてくれた、そして今ではもう冷たいだけの雪のみでした。そんな雪がいくらあったとしても彼の代わりにはならなくて、その冷たさは失くしてしまった彼の温かさの悲しみをよりはっきりと感じさせてしまいます。だから、そんな寂しい雪はむしろ無くしたいと雪々は思ったのではないでしょうか。

想い出は温かくて、でも今まで温かいと思っていた雪は冷たかった。そんな雪の上で眠ってしまったら、眠っている間にだけ浸れる想い出や夢から覚めないのではないか。覚めたら儚く消えてしまう、彼との想い出の夢から目を覚ましたくなくなるのではないか。それに、冷たいだけの雪を拒絶して目覚めないかもしれないーー

しかし雪々は、別れが寂しいから見る、温かな想い出と夢の中で眠り続けないため、今まで生きることの全てだった雪の結晶のひとかけらさえ積もらなくてもいいと願いました。

あの日、なぜ彼はわたしに声をかけたのか。
なぜ彼は、このわたしを見つけてくれたのか……。
そんな彼だから、わたしは友だちになりたいと思ったんだろう。
彼と一緒に遊ぶのはとても楽しかった。
一人よりも二人のほうがうれしいのだと教えてくれた。

だけど……。
だけど、あとで知った。
大きな秘密を知ってしまった。
わたしは、本当は、彼と友だちになってはいけなかったのかもしれない……。

「りっくん……」
「ゆきゆきは、変わってないよ……」
「だけどりっくんは、変わっていく……」
「だったらゆきゆきも、変わらないと……」
「りっくんのために、変わらないとって思うんだよ……」

時計台の鐘が鳴る。
わたしはまだ見上げている。
雪は降り続いている。

風の冬が過ぎ、剣の冬が過ぎ。
そしてついに、狼の冬が始まる――――


――雪々(グランド√プロローグ)

そして3年目の冬。雪々が願った降り積もらない雪は2年間降り続け、3度目の冬を迎えます。北欧神話の世界では、剣の冬、風の冬の後に、狼の冬を迎えます。この3年目の狼の冬では、生きるもの全てが滅んでしまう冬を迎えます。では月ヶ咲が迎えたこの3年目の冬では何がなくなってしまうかというと、雪々自身のことでした。それは雪々自身の後悔から、この3年の冬が始まり、そして自分自身がいなくなることで、この3年目の冬の物語の終わりにしようとしていました

ずっと一人でいて、二人で遊ぶようになって、また一人に戻ってしまった雪々。今まで何も知らなかったけれど、その出会いと別れが教えてくれたのは、愛しい心や孤独の寂しさといった感情でした。出会いを知って、別れを経験して。本当はずっと二人で一緒にいたかったのに、一人取り残されてしまったらもう寂しいだけで、しかしやがて出会わなければ良かったのではないかという後悔へと変わっていきます。

一人よりも二人でいることのあたたかさを知ったのに、それを手放してしまうほどの後悔と、隠された3年の冬の意味とは何だったのでしょうか。まずは雪々が願った、この3年の間の降り積もらない雪に込められた願いとそこに秘められた想いについて、ここでは整理してみます。









雪道の足跡と想い出

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想い出は降り積もる。
夢から覚めると、それは儚く消えてしまう。
雪は積もることなく、人の心に溶けてゆく。

妖精の想いが届くことはない……。
妖精と人は重ならない。
つながりたいと願っても――――



ーーグランド√プロローグ

雪々は独特の言い回しが多く、伝えたい想いを遠回しに言っていることが多いです。そのためここでは、その秘められた想いについて考えてみたいと思います。

まずプロローグでは、想い出と雪について一緒に語られています。想い出は降り積もり、雪は積もらない。しかし、普通は雪は積もるものではないでしょうか。なぜ積もらないと書かれたのか?そんな疑問が出てきます。それはその雪を、心象的に捉えたからでしょう。想い出と雪それぞれが、雪々の願いそのものだったのです。では想い出と雪それぞれに存在した願いは何だったのか、それぞれ考えてみます。

まず先に、なぜ雪が積もらないと言っているかの解釈をしてみます。プロローグでも同じような語りがありましが、グランドではそのあとに、「妖精の想いは届くことはない〜」となっています。雪々は一緒にいるのはあたたかく、だから一緒にいられたらいいなというような想いがありました。しかし一緒は続かず離ればなれになってしまい、重ねて出会わなければよかったという負い目まで負うようになってしまっていました。そしてこの「雪々の想い=雪の結晶」だとすると、雪々の想いは誰にも届くことがなく、誰の心に積もることもなく、そしてその想いは誰かの心に溶けて消えていくだけでした。

結晶のひとかけらさえ積もらなくていいと願った雪々ですが、冷たいだけの雪では満たされなくなったという想いだけではなく、一緒にいたいのにその想いが誰にも届かない寂しさ、そんな心を誰かに見つけて欲しいという本心がありました。だからこそ優しい雪は、寂しかったのでしょう。

この雪々の本心については本作で大々的に扱われる内容ですので、後ほど詳しく取り上げます。


次に想い出が降り積もるのは、それだけ想い出が心に在り続けるものだということです。雪々にとって雪は、かつては全てを満たしてくれた遊び道具で、降り積もる雪には大切だという思い入れがありました。しかしその雪と入れ替わるように、想い出が大切になっていったから、雪に代わり、想い出は降り積もるようになったと言っているのです。雪が降り積もるというのは、それは大切な想い出はずっと覚えているという雪々の気持ちなのでした。


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「今日は、どこにいこっか」
「この足跡を、どこまで続かせてみよっか」

「どこまでだって、いいんだよ」
「足跡は、二人が歩いたって証だから」
「途中で、誰かの足跡にまぎれても……そのあとに溶けて、全部なくなっても」
「ゆきゆきは、覚えてるんだよ」

「りっくんと一緒にいたってこと、ずっとずっと、覚えてるんだよ――――」


――雪々(二人で歩いた想い出)

今までは雪に思うだけの足跡をつけたなら、全てが満たされていた雪々。しかし二人で一緒に足跡をつけることが、いつの間にか全てになっていました。

想い出は大切で、だから忘れることはない。そうした想いはずっとありました。そのことが最も分かるのが、次の「誰かの足跡にまぎれても、さらに雪が溶けてなくなっても、雪々は二人の足跡を覚えている。」という一文です。雪々は足跡を必死に探そうとしたり、覚えようとしていたわけではないので、足跡のことを細かく覚えているということを言いたいわけではないのでしょう。なので雪々が足跡を覚えているというのは、二人が歩いた証を雪々は覚えているということを言いたいのでしょう。二人で歩いた証とは何か?それの意味しているものこそが、二人の想い出そのもののことを指しています。足跡を覚えているというのは、雪々はずっと想い出のことを覚えているということを言いたかったのです。つまりここでも、降り積もる想い出と同じで、足跡というのは心象的なものとして捉えています。それ足跡が現実に残るものではなく、心に残るものということを意味し、それを想い出を言い換えて足跡だと言っているのでしょう。想い出とは、二人で歩いた証、二人で歩いた想い出のことになります。

だから足跡が誰かとまぎれても、溶けてなくなっても、見かけにはわからなくなっても、ずっと雪々の心には思い出に残っているんだよ、という意味になるかと思います。

雪々は足跡のことに続いて、一緒にいたことを、想い出をずっとずっと覚えてるんだよ、と続けています。その言葉のとおり、プロローグでの雪々は、想い出は心に降り積もり、溶けて消えてしまうことはないという言葉に繋がりました。つまり雪々は想い出(=雪の足跡)を覚えている、決して忘れることはないというお話だったのではないでしょうか。

ここで語られているのは、想い出の愛おしさや尊さは、かけがえのないものだということです。

後ほど語る「不変と普遍に憧れていた」に登場しますが、この想い出の大切さについては、時計台への憧れと重ね合わせられています。

雪ちゃんはこんなふうに言葉が足りなくて、言っている意味があまり飲み込めないのだけれど。
でも僕は、誰かが遊びに来るなんて初めてで、そのことに驚いたせいかあまり気にはならなかった。


――雪々、陸(Episode2翌日)

幼かった陸には、雪々の言っていることは伝わっていなかったかもしれませんが、誰かと一緒に遊べたら嬉しくて楽しくて、誰かが遊びに来るのは驚いてしまったくらい心に残る出会いでした。その二人の想いは言葉にしなくとも、心では想いが通じ合えていました。想いが言葉になることよりも、一緒にいることが雪々たちにとっては大切なことでした。

陸は両親を失った経緯から孤児院で過ごしていましたが、その輪の中に入ることができないことに少し虚しさのような感情を抱いていました。そして雪々は、一人でいることで全てが満たされていましたが、その表情にはどこか寂しさを浮かべていました。それがふたりが得た、初めての共感でした。

そのような想いが分かち合えていたから、何も気にはならないと思えるくらいに、この時は満たされていたのでしょう。


しかし雪々の外見は変わらずとも、昔と全てが同じわけではありませんでした。変わらないように見えて、何かが変わっていったから、やがてそうした想いは届かず、重ならなくなっていました。ただ一緒にいられたら満たされた雪々の想いは、変わらなければいけないという胸に秘めた決意によって叶わなくなっていました。









背負った罪


「その後、雪ちゃんはキミと別れることになった」
「雪ちゃんは、すごく落ち込んだ……」
「私の前では明るく振る舞ってたけど、それが逆に痛々しくて見てられなかった」

「だから私は、雪ちゃんを慰める意味で真実を教えた」
「榛名陸という男の子は、私たちが死なせてしまった人の子どもなんだって」
「だからもう、会わないほうがいい。忘れたほうがいい」
「この別れは、必要なことだったんだって……」

「…………」

「雪ちゃんにとっては、それがいいと思ったんだ」
「キミのことを忘れてくれれば、哀しみも溶けてなくなると思ったんだ」
「だけどそれは、間違いだったのかもしれない」
「私は雪ちゃんに、よけいな罪を背負わせてしまったのかもしれない……」


――幸(グランド√)

罪とは、ここでは相手との関係の間で発生する、他者ありきの概念です。ここでの罪とは、相手への負い目だと掘り下げられてもいます。雪々は人に対する負い目を抱いていました。

幸は離れてしまった寂しさが少しでもなくなるように、この別れは必然だった、彼の父親を死なせてしまったのだからと言ってあげることで、別れの寂しさを忘れてもらえたらと思い、この事実を伝えていました。しかし別れることになった人が大切な相手だったら、簡単に忘れられるのでしょうか。そして大切な相手の、大事な父を奪ってしまった後悔は、忘れることで解消されるものなのでしょうか。そうして忘れられるはずもなく、さらに死なせてしまったことで孤独にさせてしまったという後悔と負い目を背負い続けていました。
幸にとって雪々を思っての言葉だったのですが、死なせてしまったという事実の裏にあった、決して取り戻せない孤独の状況に彼を置いてしまったという負い目が重くのしかかってしまっていました。大切な誰かに負わせた傷が、自分にも消えることのない傷をつけていました

かつてはずっと一人だった雪々ですが、誰かと一緒にいられる楽しさや嬉しいを知ったから、孤独の寂しさも知っていました。だから陸の父を死なせて孤独にさせ、ずっと苦しい思いをさせていた原因が自分自身にあったことは、自身の負い目となってしまいます。一緒にいられて幸せだと思っていたのに、彼を孤独にさせて不幸な想いをさせていた原因だと知ったと同時に、その原因である自分自身が一緒にいてしまったことは心が苦しかったのでしょう。

陸の父を死なせてしまい、孤独の苦しさを与えてしまったという事実が、一緒にいたいと願うことさえ許すことはありませんでした。一人はつらいから、そんな深い孤独を与えた自分が一緒にいてはならなかったのかもしれない。そんな想いが相手に対する負い目と背負った罪でした。

幸の雪々を思っての言葉はより哀しませてしまうだけで、雪々の一緒にいたいという想いは、別れによって叶わなず、お互いの傷からそう願うことすら深い負い目になっていました。ここでも想いは重ならず、届くことはありませんでした。そうしてそれぞれの想いは途絶えてしまっていたのか?ということについてここでは考えていきます。









食い違っていた想い

「姉さんは俺に対して、負い目を感じていたから」
「俺の父親を、姉さんたちが死なせたから……」
「…………」

だからきっと、雪ちゃんもまた俺に負い目を感じている。
雪ちゃんは一時期、俺と一緒に遊ぶことを拒んでいたのだから。

「もしそうなら、誤解だ。能力の暴走は事故なんだ。誰も悪くないんだよ」
「だから、なにも気にすることはないんだ。姉さんだけじゃない、雪ちゃんだって……」

この言葉を一刻も早く伝えたかったから、俺はこうして雪ちゃんと会っている。

 
 

「だけどシラハは、外を出歩けなくて……」
「そのうちにりっくんは、いなくなって……」
「それからシラハは、眠っちゃった……」
「全部、ゆきゆきのせいなんだよ……」

「ゆきゆきは結局、なんにも知らなかった……」
「何にも知らないくせに、勝手に遊びまわって、りっくんとシラハを困らせちゃった……」
「二人は、ゆきゆきを助けてくれたのに……」
「シラハのおかげで、ゆきゆきは自由に歩き回ることができた……」
「りっくんのおかげで、ゆきゆきは誰かと遊ぶ楽しさを知った……」

「だから今度は、ゆきゆきの番……」
「ゆきゆきが、二人を助ける番なんだよ」

「雪ちゃん……?」

雪ちゃんの姿は闇に溶けた。
再び探しても、もう見つけることはできなかった。

「なんだよ、これ……」

この違和感はなんだ。
この焦心はなんなんだ。

「なんでこんなに、食い違ったんだ……?」

――雪々、陸(グランド√)

ずっと変わらずに想いを通わせているように装っていましたが、幸から伝えられた真実は、一緒にいたい気持ちの負い目になっていました。ですがもう一度想いを通わせたくて、父親を失ったのは誰も悪くないと伝えれば、きっと心の負い目は無くなると思ってこの言葉を伝えたかったのです。ですがその言葉も届いていませんでした。

雪々の負い目は大切な人たちの父親を死なせてしまっただけではなく、その大切な相手に、不自由で不幸な人生を強要させてしまいました。日に日に弱っていく幸も、陸がこの街にいられなくなってしまった原因も、知らなかっただけで自分がそうさせてしまっていました。雪々の負い目と本当の罪は、陸たちが考えていたものとはずれていました。雪々とかけ違っていた陸の言葉は、届きませんでした。

そして父親の死だけをなかったことにしても、生きている相手まで傷付けてしまう負い目と罪は、一緒にいたいという雪々の想いさえ許しませんでした。陸がもういちど一緒だった頃に戻りたいとどれだけ願っても、変わらざるを得なかった雪々は、一緒にいた頃に戻ることはできないと思うしかなくなっていました。

ずっと分かり合えていたと思っていた二人ですが、しかし見えないところで、それぞれの想いは少しずつ変わっていっていました。父親を死なせてしまったことから始まった小さなすれ違いは、気づいたときには大きく違和感や食い違いを起こしていました。二人はどうしてすれ違ってしまったのか。それはどれだけ通じ合っているように思えても、人の心は分かりませんでした。

人の気持ちは、わからない。
それなのに、理解したいという欲求は尽きない……。


――陸、雪々(琴里√)


なぜ、確保しなければならなかった能力者が、逆に減っているのだろうか……。

「いいえ……能力者だけじゃないわ」

この研究所に勤めていた多くの研究員もまた、美晴に同行していったのだ。
それは部下が、白羽よりも美晴を選んだに等しかった。

「心理学なんか学んでも、人心を掌握することはできないのね……」


――白羽(グランド√)

人の心はわからない。それでも理解したうという欲求は尽きない。しかしそれは同時に、心とは決して分からないものだということを意味しています。

白羽は心理学により、人の心を理解することができていました。しかし人の心を理解はできていても、掌握まではできませんでした。それは人の心が理解できても、それが心のすべてではないからです。人の心は、完全には理解できないのです。相手の心を知っていた白羽ですが、それでも仲間たちの心が離れて失ってしまっていました。人の心を理解できたにも関わらず、この白羽がすれ違いからも、人の心は分からないことを
心理学を通して人の心を理解したはずなのに、それでは人の心を得られませんでした。それは人の心を確実に得られる方法がないということでもあり、だから雪々たちも離ればなれになってしまったのです。心は確実に得られずすれ違いが起こってしまうように、どうしても自分と他人の心は同じでないから、自分と他人の心には決して交わることのない壁があるのです

人の心は決して分かりません。しかしそれでも理解したいのは、分からないからこそ理解したいということなのでしょうか。個人的には、もう少し深いところに理由があるように思います。









自我・他我論と死生観


彼女はなにを思って、僕に見つけてほしいと願うのか。
その思いは、もしかしたら、僕と同じなのだろうか。

僕は、いつだって誰かに見ていてもらいたかった。
でないとこの世界で独りになった気がして辛かった。

今はこんなふうに、雪ちゃんが僕を見ているから、寂しさとは無縁だった。
これまでずっと、誰かとのつながりが欲しかったんだろう。


――雪々、陸(Episode3)

自我は他我の存在を前提として、初めて存在が確かなものになります。そしてここで世界に独りになったような気がした、というのは少し変わった言い回しです。このことが言い表しているのは、ただ単に孤独であることを示しているわけではなく、孤独によって世界に独りになったような感覚のことを示しています。

世界に独りになったような感覚とは、どのような状態を表しているのでしょうか。

橘落葉は今、一面の銀世界に放り出されたような心地だった。
ここは一体どこだろう。
天井がどっちにあるかわからない。自分は立っているかどうかもわからない。

怖かった。
孤独というものを理解した。
まるで迷子になったかのようで、誰かを探して必死に手を伸ばしていた。


ーー落葉(落葉√)

最も孤独を感じていた落葉は、孤独とは何なのかを理解しています。孤独とはどこが天井か分からず、自分は立っているのかも分からない感覚なのでしょうか。

世界に自分一人しかいなかったら、どんな心地なのでしょう。誰もいなかったら、(ここでは一面の銀世界と書かれていますが)どこまでも同じ景色が広がっているのと変わらないのでしょう。そしてこの雪の原風景は誰かの心象ーー心の存在が形作る風景でした。誰かの心に触れられなければ、自分の世界は何も変わらないのかもしれません。

心はその存在自体が不明確であり、自分の心と身体の境界がどこにあるかは分からず、そして心と世界の境界さえどこにあるのか分かりません。心の存在は不明確であり、どこに存在するのかは分かりません。自己の存在を認識するのが自身の心だとして、その心の存在が曖昧な状態だと、自分の存在さえ曖昧で希薄に感じてしまうのでしょう。自分の心が世界のどこにあるかも分からない。自分がどこにいるかも分からない。自分がここにいるかも分からない。心は変化するものでなければ、その存在の何もかもが分からなくなってしまいます。

孤独で自分が見出せず、心の居場所を見つけられず、心が彷徨っているようなのが迷子という意味でした。何度か登場する言葉なので印象的な言葉ですが、迷子とは道に迷っているというような意味ではなく、そうした行き場所のない心の状態を表しています

自分が一人だけの孤独は、心が迷子であるようで怖かったのかも知れません。心は絶えず変化するものであり、そのためには誰かが必要なのでしょう。心が確かにここにあると信じられるために、心が心であるために、自分以外の心の存在がなければならないのかもしれません。だから誰かと一緒にいたいと、手を伸ばさずにはいられないのかもしれません。

「りっくんだって、誰かに守られてもいい。家族を守るだけじゃなくて、家族にもっと頼ってもいいと思うんだよ」
「じゃないと、ひとりじゃないのに、ひとりみたいになっちゃうんだよ......」


ーー雪々(アストラエアの白き永遠 Finale)

世界にはたくさんの人がいるので、世界に独りになることは考えられないことのように思えます。ですが雪々たちにとってはそうではないのかもしれません。

世界にはたくさんの人がいますが、誰とも心を通うことがなければ、自分が世界にひとりしかいないのと変わらないように感じます。心で感じた孤独は、想いが通い合わせられない寂しさでした。そこに自分一人の心が取り残されたような寂しさがありました。

誰かと心が通じあっていないと、まるで世界に誰もいないような寂しさと、強い孤独を感じます。孤独で誰かが見てくれないと、自分が世界に存在するのかさえ分からない気持ちになるーー世界に独りになったような気持ちとは、こうした心で感じていた孤独のことです。

これまで雪々がずっと抱えていた孤独は、世界から存在を認められていないようで寂しかったのかもしれません。ひとりじゃないのに、ひとりみたいになるという雪々のこの言葉は、想いの通わない寂しさを知っているからこその想いがあったのでしょう。

ある日に気づいた。
たぶんそれは、彼との出会いがキッカケだった。

……一人よりも、二人のほうが楽しいんだ。
……一人で遊ぶよりも、二人で一緒に遊んだほうがうれしいんだ。

知らなかった。
彼から初めて教わった。


ーー雪々(プロローグ)

一人でいるより二人でいると嬉しくて楽しいという感情は、雪々は彼から教わった感じでした。雪々が誰かと一緒になって初めて嬉しい、楽しいという感情を知ったように、心や感情は誰かがいるからそこにあるのかもしれません。その後に誰かと一緒にいる嬉しさと楽しさを知ると同時に、雪々は一人の冷たさと寂しさを知っていました。その感情もまた、誰かと一緒にいるあたたかさを知ったからこそ得た感情でした。それは心が常に、他者に向けられているからのように思います。

誰かと一緒にいないと、寂しいという感覚さえ雪々は知りませんでした。一緒にいて嬉しい、楽しいと思うことや、自分が独りではないという実感も。心を通わせ、そばにいる誰かを想うことには何か意味があるのかもしれません。

誰とも心を通わせられない孤独で、生きているか死んでいるかさえ分からない寂しさと、満たされない気持ちは、心が死んでしまっているようです。だから生きている充足を得たい、生きていたという証が欲しい、そんな心のつながりが欲しい。そういった心から生きることを願わずにはいられません。









永劫回帰の死生観


雪原の真ん中で、彼女は唄う。
ひとりで。
いつから独りだったのだろう。
それは、俺や姉さんが抱えていた孤独よりも、遥かに永い時だと感じた。

「だから私は、せめて希望を託したかった」
「生きていたという、命の証を遺したかった」

「もうすぐ滅ぶ、この命……」
「ただ死ぬのではない……」
「私は、生きるために死にたかった――――」


――???(グランド√)

雪々が独りを憂いながら唄うように、彼女もまた遙かに永い時間を思いながら唄っていました。その中で彼女が持った希望は、生きていたという命の証を残すことーーーー生きるために死ぬことでした。彼女の言う「生きるために死ぬ」とはどういう意味になるのでしょうか。彼女の言葉の意味は、夕凪主任によって本編中にて解説されています。

「生きるために死ぬとは、どういうことか……」
「……どういうことなんですか?」

「利己的でいるために、利他的でいることだ」
「種には選別能力というものが備わっており、優れた細胞を残すために劣った細胞を殺すことがある」
「進化の過程では、利他的に自己を消去することで、利己的に他を生かすことが起こるんだ」
「それが、生きるために死ぬ――次世代につなぐという意味だ」


――美晴、コロナ(グランド√)

雪原の彼女は利他的な行動をしながら、利己的でありました。生命は細胞を例として、他を生かすために自ら死ぬことがあります。そこには生命を続かせるという明確な目的があります。では彼女の願いはなんだったのでしょうか?それは自らの命と引き換えに次世代へとつなぐ――――命をつなぐことです。

「私は、命を増やしたかった」
「私は、種の存続を我が子に委ねたかった」


――???(グランド√)


永続的な時間上で連綿と紡がれる生命の中で、命がひとつながりであるのならば、その命は永遠のような生を生きているとなるのではないでしょうか。だから彼女はこの連綿とした生命の中の一つとなることで、永遠の生の中を生きるために死にたかったのです

小さな足跡を残しながら、母はまだ生まれていないわたしに語りかけていた。
まるで歌声のように聴かせてくれた。

「この星は、もうすぐ滅ぶ」
「だけど、この命は終わらない」
「永遠とは、次代につなぐことで生まれるのだ」

「だから、もし叶うのならば、私の娘に継いで欲しい」
「この、白き永遠の夢を」


――???(グランド√)

枯れかけていた星に住んでいた彼女は、命の滅びを迎えようとしていました。その滅びが避けられないのなら、せめて生命を続かせたい。その受け継がれ続けていく生命こそが永遠でした。このような永遠を仮定した生命観を、なんと呼べばよいのでしょうか。それは消失から再生へとつながれ永遠となる、そんなとあるルーンから、こんな名称で呼ぶのがふさわしいのだろうと思います。

一夏の特化型能力である、回帰能力(リカレンス)――――
それは、消失と再生を司る能力。

―中略―

消失と再生。
生まれた能力を、失ってしまうこと。
その意味をどの能力者よりも知っている。
夕凪一夏という少女は、能力の本質を最も理解している能力者だった。

「失うというのは、還すこと……」
「還すというのは、寄り添うこと……」
「寄り添うというのは、つなぐこと――――」


一夏(グランド√)

命とはやがて尽きて、失われてしまいます。しかし次の命へとつながれることは、再生ということになります。
そうした回帰することで、永遠となるような生命観は、永劫回帰の思想へと通じているのではないでしょうか。

永劫回帰とは経験が一回限り繰り返されるという思想ではなく、超人的な意思によってある瞬間と全く同じ瞬間を次々に、永劫的に繰り返すことを確立するという思想です(Wikipedeiaより)。
永劫回帰は無限に繰り返される事象を肯定することで、ただ現在のその在り方ーーーーつまりただ私が生きているだけで生の価値はあるとされ、生への圧倒的な肯定となります。彼女は自身の生を、この永劫回帰により力強い肯定を得るために、次代へと命を繋いでいます。

神話に登場するウロボロスという空想上の蛇がいます。ウロボロスは自らの尾を噛み、始まりと終わりのない無限の象徴として、この宇宙の成立と連関されます。宇宙が始まりと終わりのない円環構造を形成するように、遠い惑星に存在していた彼女は、自身の命もまた永劫回帰であるために永遠だと考えていました。その永遠へとつながれる命を彼女は望んでいました。

「そんなときに出会ったのが、彼女だった」
「私と同じ願いを抱く、白羽幸という少女だった」
「少女は、友だちを欲していた」
「私もまた、私の命を継いでくれる者を欲していた」

「独りは、嫌だ」
「早く誰かに見つけて欲しい……」

「そんなふうに、同じ願いを抱く少女になら、私は託せると思った」

「新たに生まれた真っ白な命」
「その子は、雪々と名付けられた」
「孤独とは無縁の意味が込められた名前だったのに、雪々もまた私たちと同じように独りだった」

「だけど、出会うことができたようだ」
「私が、白羽幸と出会ったように」
「共に歩んでくれる命と」
「出会いがあって初めて、春を呼べる。絆があって初めて、仲間を作れる」
「つながりがあって初めて、新たな命は生まれる……」


――???(グランド√)

誰よりも永い時を一人でいた彼女は、結局は孤独でした。独りは嫌だ。早く誰かに見つけてほしい。それは白羽幸の想いでありながら、同時に彼女の想いでもありました。彼女も一人は寂しいと感じていました。そんなときに彼女が出会ったのは、病気がちで部屋から出られず、ずっと独りでいた白羽幸でした。永い孤独を知っていた彼女だからこそ、孤独だった白羽幸の「友達が欲しい」という願いに共感していました。自身の悲願を叶えるだけでなく、孤独だった白羽幸の哀しさを、少しでも癒してあげたいという思いもあったのでしょう。

「出会った彼女もまた、哀しみに満ちていた」
「友だちが欲しい、誰かに自分を見て欲しいと願う、幼い私とおんなじだった」
「だから私は、彼女に共感した」
「彼女もまた、私に共感してくれたんだと思う」


――幸(グランド√)

 
 

すべての始まりは、そんなふうに人間と妖精が出会ってしまったこと。
その人間は病弱で、孤独で寂しくて、だから遊び相手が欲しかった。
その妖精は生き残りで、やっぱり孤独で寂しくて、だから遊び相手が欲しかった。

種が違っても二つの命の願いは同じだったから、かさなり、つながって、新しい命が生まれ落ちた。

人と妖精のあいのこ――ルーンが生まれた。
望みや願いといった、心のエネルギーという形で、雪ちゃんは生まれたのだ。


――???、陸(グランド√)

病弱で孤独だった白羽幸と、生き残りで孤独の運命にあった彼女。それがふたりが出会い、そして得ていた共感でした。

そうして命が寄り添いあうことが孤独でないことだと思っていた彼女は、白羽幸の命に寄り添う相手に出会いたいという願いを叶えようとしました。それが2つの雪(=幸)と雪(=雪の星の彼女)が寄り添い合った名前を持つ、雪々でした。彼女と白羽幸が寄り添いあって、孤独ではないことを願った二人の希望がその名に込められていました。

「だけど、いくら訴えかけても、我が子は最後までそれを選ばなかった……」
「その結末は、私にとっては悲願の夢でも、我が子にとっては悪夢のようだ」

「この子は、優しい」
「私ではなく、白羽幸に似たのだろう」
「キミの影響もあるのかもしれないな」
「この子はきっと、幸せ者だ」
「我が子が幸せであれば、私も納得できるだろう」
「良い夢を、ありがとう」
「できるなら、この子の夢も、叶えて欲しい」


――???(グランド√)

しかし雪々は、命をつないでいたいという母の願いを選ぶことはありませんでした。母の望みは雪々の想いとは違いましたが、そんな雪々のたった1つの想いは、雪々の母の願いさえ変えてしまいます。願いは違っても、雪々が一緒にいられる相手に出会い、孤独ではなかったからでした。そして理屈とは関係なく、母は娘の幸せを願っていました。雪々にただ幸せになってほしいから、自らが置かれた孤独にならないでほしいと願っていたように。だから娘が幸せなら、きっとどんな願いだったとしても納得できてしまったのでしょう。考え方には関係なく、ただ娘のことを想って愛していたのが彼女の本心だったのかもしれません。

悲願とは違ったけれど、母が納得してしまった雪々の願い。そして雪々が見つけた幸せ。それは母とどう違っていたのでしょうか。







想いの永遠性


母からもらった、果てしない夢。
わたしが叶えるべきだった。
だけど、無知で無垢だったわたしは、母の夢を知るよりも先にほかの希望を抱いてしまった。

母が望むように、一人で遊ぶよりも、二人で一緒に遊んだほうが楽しいけれど。
大好きな彼と遊べたら、もっとうれしい。

妖精と妖精が仲良く暮らすだけじゃない。
妖精と人間だって、仲良く暮らしてほしいんだ。
だから、命をつなぐためにほかの命を途切れさせるなんて、あってはならない。


――雪々(グランド√)

雪々も生きるために死にたいという願いがありました。しかし母のその死生観とは違い、生命や永劫回帰を望んでいたわけではありません。母の夢を知るより先にほかの希望を抱いてしまったーーーー雪々は、命を続かせることで孤独ではない生き方を探した母とは、違う願いを見つけていました。

母が望んだのは、一人よりも二人でいたいという、命が寄り添い合うことだったのでしょう。しかし雪々は大好きな人であればもっと嬉しかったのは、想いを通わせられた人といられることで、想いが寄り添い合えたことでした。雪々はただ一緒にいられることが嬉しかっただけではなく、想いを寄せられる相手ができたことが嬉しかったのです。だから自分の命をつなぎ止めるかわりに大切な相手を犠牲にして、寄り添い合えた人たちの想いまで途切れさせるなんて、あってはならなかった。雪々にとっては、想いを途切れさせず最後のときまで心を通わせることが、心から生きるという願いだったのでした。雪々は命を繋ぐことよりも、想いを繋いでいたかったのです

雪々が見出した希望は、一緒にいたこのあたたかい想いが、永遠のように果てしなくどこまでも続いていくことでした

「ゆきゆきがこうなるのは、最初からわかってたことなんだよ……」
「なにも変わらない……普通ってこと……」
「だから、そんな顔、しないで……」
「りっくんが辛そうだと、ゆきゆきも辛いんだよ……」
「りっくんが笑っていたら、ゆきゆきだって笑顔でいられるんだよ……」

「だから、お願い……」
「ゆきゆきが、りっくんを見て、笑顔になれるように……」
「りっくんも、ゆきゆきを見つけたら、笑っていて欲しいんだよ……」


――雪々(グランド√)


想う人が幸せだったら、ゆきゆき自身も幸せだと感じられる想い。きっと別れてしまうとしても。それでも最後まで笑顔でいられたら、自分も大切な人も幸せだった。それは心から生きられたのだと信じていられるのでしょう。自分がたとえいなくなってしまうとしても人の想いは変わらずに、永遠に続いていくと信じていたかった。雪々が信じていたのは、自分がいなくなってしまうとしても、みんなの想いは永遠のように変わらずに幸せが続いていくことでした

大切な相手がつらい顔をしていると、雪々だってつらくなってしまいます。大切な相手には笑顔でいてほしいですし、だからどうかお願い、これからも笑顔でいて欲しいと切に願います。雪々が大切な人の姿を見つけられたら笑顔でいられたように、その大切な人にも笑顔になれる存在になりたかった。あなたの笑顔がわたしの笑顔で、あなたの幸せがわたしの幸せだった。きっとそこには、最後のまで自分が幸せでいたいという想いも、その人には笑顔で幸せでいて欲しいという純粋な想いだってあったのでしょう。だから大切な人が幸せなその笑顔が、いつまでも変わらないものであって欲しいとも願います。そうして想いがつなぎ止められたのなら、心から生きられたのだと信じていました。それが雪々にとっての「生きるために死ぬ」ということでした。

たとえわたしが、彼が愛する青い星に、愛されていない命なのだとしても……。

――――大丈夫。
――――母が保証する。
――――その命は、青い星にも愛される。
――――隣で歩く彼が、その証になるだろう。

ありがとう、お母さん……
わたしをこの星に生んでくれて――――


――雪々、???(グランド√エピローグ)

母とは考え方は違いましたが、それでも雪々はこうして感謝をしていました。考えが違っても、それが分かりあえない理由にはなりませんでした。どんなに考え方が違っても、想う気持ちは通じ合っていたからでしょう。
母は雪々に幸せになって欲しいと願っていました。そんな想いを、雪々は感じ取っていたのではないでしょうか。そして雪々の母だって、自分の悲願とは違っても、雪々の願いである「想いを繋ぐこと」がいつしか良い夢だと感じるようになり、雪々のために叶えたい想いになっていました。一人よりも二人でいることを望んだ母は、大好きな人といられる雪々の幸せにも納得していました。考え方は違っても、それでも雪々たちが通じ合えた気持ち、愛しあえた気持ちは、理屈を超えたような心からの通じ合いだったのかもしれません。

彼女はもういないはずなのに、こうしてずっと心が伝わっていたのは、想いは決してなくならないということを彼女を通じて感じさせられるかのようでした。想いは確かにこうして「永遠」となって、彼女から雪々へと紡がれたのでした。


大切な人が笑顔でいてくれること、幸せであることが何よりもの願いで。そしてその笑顔がこれからも変わらないことを願ったのは、雪々は想いが永遠であることに憧れがあったからです。









不変と普遍に憧れていた

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時計台広場に向かうと、やっぱり雪ちゃんの姿がある。
歌を届かせるように、時計台を見上げる彼女。
時を刻み続ける鐘に羨望を抱く彼女。

不変と普遍。
きっと、そういうものに憧れているんだと感じた。


ーー雪々(グランド√)

時計台は、降り積もらない雪と同じくらい想いが込められた、重要な対象物でした。いつも時計台を見上げていた雪々。見上げる瞳には羨望を抱いていました。見上げる、という行動は自分の上にある存在、高いところにある願望に対しての憧れがあるように思います。時計台を見上げていた雪々は、不変と普遍に対して憧れていました。それはどんな情だったのでしょう。

雪ちゃんは時計台を見上げる。
去年もそうだった。鐘を鳴らし続ける時計台を、雪ちゃんはうらやむように見つめることがあった。
その理由は以前にも聞いている。

「この時計台は、時間が来れば必ず鐘を鳴らすから」
「時間の数だけ、鳴らし続けるから」
「百年も昔から、変わらずに」

「それが、うらやましい」
「変わらないことが、うらやましい」

「この時計台と同じように、月ヶ咲にも雪が降り続いてほしいって、そんなふうに思うから……」


――雪々(Episode4)

雪々が羨望の対象のしていたのは、時計が示す時間の流れではなく、時計台が持つ普遍的な性質である、ずっと昔から同じ時間に鐘を鳴らすことでした。百年も昔から変わらないことが羨ましく思っていました。

時計台を見上げていた雪々が変わらないで欲しいと願ったのは、雪が降り続いて欲しいという願いでした。なぜ雪が降り続いてほしいと願ったのか。雪が降っていた時はいつだって、一緒に遊ぶことができていました。その時間が愛おしかったから、ずっと続いて欲しいと願ったのです。雪々は遊ぶ時間が終わる時ーーーー家に帰る時間に時計台を見上げていたこともありましたが、ただ一緒にいられる時間(=普遍)が、いつまでも変わらないで欲しい(=不変)という想いを馳せながら見上げていました。大切な想い出が、雪々の中では変わらずに大切であったことが分かります。人の心は変わってしまうものですが、その中で変わらない心や想いに憧れていたのでしょう。

「わたしは、時計台を見上げる理由も変わったよ」
「りっくんと出会う前のわたしは、時計台が鐘を鳴らし続けるように、いつまでもこの冬が続けばいいと思ってた」
「りっくんと出会ったあとのわたしもやっぱり、いつまでもこの冬が続いて欲しいと思ってた」
「春を迎えてしまったら、りっくんとお別れになってしまうから……」

「…………」

「そして今のわたしは、早く春を迎えて欲しいと思ってる」
「そうすることで、時計台の鐘のように、みんなの日常がいつまでも続いて欲しいと願うから」


――雪々(グランド√)

雪々は確かに、春を迎えてお別れになるのが寂しかったから、冬が続いてほしいと願っていました。しかしその想いは変わります。

かつての“ゆきゆき”が願ったこの冬、ですが“わたし”はこの冬が終わることを望みます。“わたし”が願うのは、みんなの当たり前の日常(=普遍)が、いつまでも続くこと(=不変)に変わっていました。

“ゆきゆき”と“わたし”の存在とは何だったのでしょうか。同じ雪々なのに、違う存在。その違いとは、変わっていった想いの違いでした。しかし不変と普遍を願う気持ちは、昔からずっと変わっていません。変わるものと変わらないもの。雪々は自分の“ゆきゆき”と“わたし”という呼び方の違いには、彼女なりの強い想いがあるように思いますので、その2つの存在の違いは何だったのか、ここでまとめてみます。


・“ゆきゆき”は陸と出会ったときの過去の雪々であり、そのときの想いは、一緒にいられる時間(=普遍)が、いつまでも変わらないで欲しい(=不変)というもの。

・“わたし”は陸と別れてから再会したときまでの現在の雪々であり、その想いは、みんなの当たり前の日常(=普遍)が、いつまでも続いて欲しい(=不変)という想いに変わっていた。


“ゆきゆき”と“わたし”の違いは、過去の自分の想い出が大切だったのに、みんなのこれからが大切なものだと変わっていたところにあります。そして“ゆきゆき”と自分を呼ぶことを否定していた雪々。雪々の心は変わっていました。いつまでも一緒にいられたらいいのにと願っていた雪々は、変わってしまったことで、お別れをすることを伝えるようになります。









自己否定

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「雪ちゃんは、迷子の人じゃなければ見つけられない。陸くんも知ってるよね」
「じゃあ、その理由を考えたことはある?」

俺は、うなずけない。

「たぶんね、それは、雪ちゃん自身も迷子だからだよ」
「雪ちゃんの迷いを共感できる人――その資格を持つ人だけが、見つけることができる」

「だから、雪ちゃんはいつだって迷っていた」
「いつだって悩んでいた……」
「雪ちゃんは、もう誰にも能力を渡したくないって思って、一度は隠れようとして……」
「きっとそれが、雪ちゃんの迷いで……」
「…………」

「私たちはまだ、雪ちゃんを助けていない」
「雪ちゃんの本当の迷いに気づいていない」
「陸くんが今、雪ちゃんを見つけられないのは、雪ちゃんの迷いに共感できないせいかもしれない」


―ー幸(グランド√)

雪々の生きるために死にたいという想いや迷いは、どこから来るものなのでしょうか?それは、自己否定という感情からです。

「姉さんは、気づいてるんじゃないか?」
「雪ちゃんの本当の迷い」
「雪ちゃんの悪夢に……」
「…………」

俺には今、最悪な予感があった。
それは確信に近かった。
姉さんはまだ、俺に話していない事実がある。
最初は、共感能力ですべてを教えてもらったと思っていた。
そうじゃなかったんだ。

共感能力は隠し事ができなくても、誤解が生まれることはある。
姉さんの言葉が、俺に正しく伝わっていなかった。
なにかがすれ違っていた……。


――陸(グランド√)


「隠してたってわけじゃないんだよ。ただ、どう言っていいのか悩んじゃったていうか」
「下手をしたら、キミに背負わせてしまうから」
「過去、私が雪ちゃんに、罪を背負わせてしまったのと同じで」
「キミにもまた、背負わせてしまいそうだったから……」

「出会った彼女もまた、哀しみに満ちていた」
「友だちが欲しい、誰かに自分を見て欲しいと願う、幼い私とおんなじだった」
「だから私は、彼女に共感した」
「彼女もまた、私に共感してくれたんだと思う」

「そのときの彼女は、今の雪ちゃんとは別人のようだった」
「もしかしたら、姿がそっくりなだけで、雪ちゃんじゃなかったのかもしれない」

「その彼女に、言われたんだ」
「新しい命を授ける代わりに、キミの身体を貸してほしい」
「友だちを与える代わりに、私の命が欲しいって……」
「私はそれを、受け入れた」

「理解はできなくても、納得はできたんだ」
「月と狼が出会ったとき、どうなるか……」
「寂しかった狼は、月を食べる狼のように、私の命を削ることで生きていけるんだろうって……」


――幸(グランド√)


共感とは心の理解というよりは、心で納得できることだと言われています。それは共感は心のつながりということですが、納得する部分が誤解からすれ違うことも起こります。
ではこれまでの雪々と陸との決定的なすれ違い、そして陸と幸のすれ違いとは何だったのでしょうか。それは今度は、物理的な意味での死でした。

雪々が生きるだけで、ほかの人の命が削られてしまいます。雪々にとって、それこそが悪夢でした。大切な人(の心)を失ってしまった世界では、雪々は生きていますけれど、その瞬間生きている実感は失われ、雪々の心は死んでしまいまいます。それが苦しいのです。

大切な人には生きて欲しい、生きて幸せになって欲しい。だから雪々は、そんな自分の想いを生かすために――――生きるために死にたいと願っていました。

「能力は、人にとって負担が大きいこと……」
「だから、ただでさえ身体が弱かったシラハは、眠りに落ちてしまったこと……」
「全部、ゆきゆきのせい……」
「ゆきゆきがシラハと友だちにならなければ、シラハは能力者になることはなかったんだから……」

―中略―

「ゆきゆきはもう、人と触れあうことはしたくない」
「争いごとを、少しでも減らしたい」
「こうやって姿を見せてるだけで、また誰かを能力者にしてしまうかもしれないから」

「ばいばい、シラハ……」
「ばいばい、りっくん……」
「ゆきゆきはもう、誰とも仲良くなりたくない……」
「独りでかくれんぼしてたほうが、ずっといい……」


――雪々(グランド√)

自分がいるから大切な人の命が削られる。自分がいるからみんなに迷惑をかけてしまう。そして自分の存在が、みんなを不幸にしてしまう。自分の全てが嫌で嫌で、そんな自分のなにもかもを否定してしまいたくなる感情こそ、自己否定と呼ばれるものでしょう
雪々は、自分の存在だけではなく、自分のその想いの存在さえも否定してしまいます。だから雪々は独りになりたい、いなくなりたいと思うようになってしまっていました。大切な誰かのことを想うとき、雪々は自己を肯定することができなくて苦しんでいました。

雪々が誰とも仲良くなりたくない、そして独りのほうがずっといいと思ったのは、大切な人たちの苦しみが雪々自身の生きることへの苦しさにつながるから、みんなと離ればなれの孤独を望んでいたからです。

雪々の生きるために死にたいと願う想いは、そうした自己否定の感情から生まれているものです

「ゆきゆきは、ひとりぼっちは嫌……」
「でもそれは、みんなも同じ……」

「ゆきゆきのせいで、みんなが独りになる……」
「りっくんが、独りになる……」
「そっちのほうが、嫌……」
「そんなのは、もう嫌なの……」


――雪々(グランド√)

雪々は自分の心が、自分として生きるために死を選択しています。しかしそれは、生きるための想いだったはずですが、それは心の死でもあります。

他者無き世界では、自我は広がって拡散し希釈され無と等しくなります。しかし他者を前に、自我を押しつぶしてしまうこともあります。本心を隠してしまうことは、心を押しつぶすということであり、それも結果的に心を死しなせてしまっているのと変わりません。
雪々は生きたくて死ぬことにしましたが、生きたいと願ったはずの雪々は心を死なせてしまっていました

だから雪々は、心から生きるために孤独を選んだはずですが、雪々の生きることを願った心には同時に死が存在していました。
雪々は心が死んでしまうような孤独は寂しくて、辛くて、耐えられないから。雪々はそんないつの間にか死が溢れていた心を消失させたくて、物理的な死をも望んでいたのでしょう。

「もう、平気だよ。りっくんがそばにいるから、大丈夫になったんだよ」
「雪ちゃん、なんで体調が悪かったんだろうな。カゼとかじゃないと思うけど……」
「……怖かったからなんだよ」

「そのときに、怖い夢を見たから……」
「自分が、自分じゃなくなる感じで……」
「ゆきゆきは、変わりたいって思ったけど、怖い感じに変わるのは嫌なんだよ……」

俺は、震える彼女の手を強く握る。

「まだ、怖いか?」
「さっき言ったとおりだよ。りっくんと一緒だから、なにも怖くないんだよ」


――雪々、陸(グランド√)

怖い感じに変わるというのは、どういう意味なのでしょうか。雪々は自分が生きることで、誰かの命が削られていくことを知りました。そのことを知った以上、雪々は変わらないことは選ぶことができず、変わるしかありませんでした。

雪々が変わろうとしていたのは、大切な人が幸せになれるように、笑顔であれるように変わりたいと願っていました。雪々は自らの死を選び、そして大切な人には生きてほしいと送り出せるように変わりたかったのです。

しかし変わるというのは、それとは真逆に変わることもできてしまいます。それは雪々が生きて、ほかの人が死んでいくのを受け入れられるように変わることです。
誰かの死の上で生きていくこと、誰もいない孤独でも心が生きられるように変わること。雪々にとってそんなふうに自分の心が変わってしまうことは、自分が自分ではなくなるようで恐怖していたということです。

なので雪々は自己否定をすることで、自分を保とうと考えていました。だからここで陸と一緒だから怖くないというのは、他者のぬくもりに接しているから、そのぬくもりを失いたくないと思えるからでしょう。
大切にしたい人のぬくもりやあたたかさを感じているから、雪々は誰かの死の上に生きることを選ぶことはできず、自分のままでいられる。そんな安心があったのだろうと思います。

「ゆきゆきは、なにも知らない子供じゃなくなった」
「りっくんと出会ったばかりの頃のわたしとは違うんだよ」

雪ちゃんは自分をわたしと呼ぶことで、それを強調した。

「りっくんが成長したように、わたしだって成長した」
「変えたくなかったりっくんとの関係だって、変わったって思うんだよ」
「友だちから恋人に……」

そう思ってくれるなら、その変わった関係を今度は大切にしていきたい。
だけど雪ちゃんは、俺の願いとは逆の言葉を口にした。

「だからわたしは、りっくんと別れなきゃいけないって思うんだよ」
「雪ちゃん……」

どうして……。

「わたしは、時計台を見上げる理由も変わったよ」
「りっくんと出会う前のわたしは、時計台が鐘を鳴らし続けるように、いつまでもこの冬が続けばいいと思ってた」
「りっくんと出会ったあとのわたしもやっぱり、いつまでもこの冬が続いて欲しいと思ってた」
「春を迎えてしまったら、りっくんとお別れになってしまうから……」
「…………」

「そして今のわたしは、早く春を迎えて欲しいと思ってる」
「そうすることで、時計台の鐘のように、みんなの日常がいつまでも続いて欲しいと願うから」

「変わらないものなんて、この世界にはないのかもしれないけど……」
「やっぱり、変えたくないものはあるんだよ」
「わたしは、変えたくないものを守りたいから、りっくんとばいばいすることにしたんだよ」


――雪々(グランド√)

雪々は自分の存在について、知ってしまったから変わるしかなかったように、時計台を見上げる理由も変わりました。

幼少期の雪々は一緒に遊べるこの時間が変わらないで欲しいと願っていました。それは雪々の一緒にいたい、ここにいたいという願いにほかなりません。
今の雪々は自己否定――――自己の存在を否定する感情から、一緒にいたいという願いを、みんなのいる日常を変えたくないという願いへと変わっていきました。自分の存在がみんなの日常を奪い、変えてしまいます。だから雪々は自己否定をして変わろうとすることで、変えたくないものを大切にしたいと願っていたのでした

雪々は怖い感じに変わるのではなく(=他者犠牲の上での自己肯定)、変えたくないもの(=みんなの日常)があるから、変わること(=自己否定)を選んだのです。

雪ちゃんはほほえんでいる。
どうして笑っていられるのか、俺にはわかった気がした。

「悲しい冬は、もう終わる」
「優しい春を、もうすぐ迎える」
「シラハが教えてくれた、優しいお話のハッピーエンド」
「争いはなくなって、平和が訪れてくれる」
「ルーンはなくなって、みんなが笑顔になってくれる……」

「この星にルーンが広がったのは、わたしが生まれ落ちたから……」
「ルーンは人を幸せにするどころか、不幸にするだけなのに……」
「りっくんも、シラハも……」
「ほかの人たちも、みんなみんな、この不思議な光のせいで不幸になっていった……」

雪ちゃんはまだ笑っている。
そんなふうにいつだって、精いっぱいの笑顔で。
決して悲しみを残さないように。
悲しい別れにならないように……。


――雪々(グランド√)





「お腹いっぱいになったら……眠くなってきちゃった……」
「寝てていいよ。おやすみ」
「歩くのは、元気になってからでも遅くないんだから」


雪ちゃんは、瞼を閉じた。
返事もないまま。
寝息すら聞こえない、静かな眠り。
あまりに穏やかで、もう二度と目覚めないんじゃないかと、そんな恐怖が押し寄せた。


――雪々、陸(グランド√)


やがて死に包まれた雪々は、死を願い、こうして世界から目を閉ざしています。







雪々の本心


雪ちゃんとは、なんなのか。
雪ちゃんの正体とは、なんだったのか。
なぜ、気づかなかったのだろう。
なぜ、雪ちゃんの能力に気づくことができなかったのだろう。
なぜ、能力者の誰もが気付くことを許されなかったのだろう――――


俺たち能力者にとって、いつからか身近になっていた、雪ちゃんという存在。
だからなのだろう。
あまりにも近すぎて、気づけなかった。

春を迎えることで、失われるものが何なのか。
本当になくしてしまうものが、なんなのか……。

「ウソだろっ……」

なんで、こんな……。

「俺は、なんでこんな時期になるまで気づけなかったんだっ……!」

だからこその共感能力。
解くことが難しい、優しい魔法……。

「なんで雪ちゃんは、言ってくれなかったんだよ……!」

わかりきっている。
誰も悲しませたくないからだ。
ようやく普通の日々を過ごせるようになった、姉さんの邪魔をしたくないからだ。


――陸(グランド√)

共感には隠し事はできないけれど、誤解が生まれてしまうこともあると言われていました。では雪々の抱えていた辛さや苦しさには、どこに誤解が生まれていたのでしょうか。

雪々はみんなに対してずっと苦しい想いを抱えていて、そのことをずっと言ってくれなかったのは、隠し事をしていたようにも感じられます。しかしそうではありませんでした。雪々にとってその胸の苦しさは、同時に迷いでもありました。雪々は迷っていたから、想いは正しく伝わらずに、誤解とすれ違いが生まれていっていました

雪々の迷い。それはみんなに悲しい想いをしてほしくない、みんなの普通の日常を守りたいから、
そこに自分がいることで邪魔になるのではないかという迷いを抱えていたから、自分がいなくなることを選ぼうとしていました。たくさんの迷いを抱えながらもみんなに生きていて欲しい、幸せになって欲しいというのも雪々の本心なのは確かですから、その優しさにみんなは共感していました。

しかしその優しさに共感したからこそ、その裏返しにあった、いなくなってしまいたいという雪々の迷い。それは優しさと一緒にある近くにあった想いだったから、共感はできていたけれど近すぎて見えてはいませんでした。

雪々の優しさは苦しさの上に成り立っていたからこそ、優しさもまた苦しさと同じくらいの本心でした。優しいから苦しい。苦しいから優しい。この二つの想いは近すぎるほどに重なっていたからこそ、ただ1つに共感できただけで、雪々のすべてに共感できたように思えてしまったのです。

そしてもう1つ、みんなは雪々と心の距離が近すぎたからこそ、共感できていたつもりになっていたということでもあります。だから雪々の本心は、見えていたつもりになっていたから、みんな見えていませんでした。



雪々がその想いを懐いてから、三年間降り続いた月ヶ咲の雪。そこには雪々の本心がありました。そんな雪々の本心は何だったのでしょうか。ここでは3年の雪の謎を振り返りながら、その答えを探していきたいと思います。

クロノスの局長である大樹は、この3年の雪には矛盾があるから、本当は雪々は能力者やみんなを騙しているのではないか、陸が思うような優しい子ではないのではないか、本当は自分勝手でやっていたのではないかと雪々を疑っていました。そんな局長が示した矛盾は3つもありました。


1.なぜ能力者を今すぐ人間に戻さずに、神話の冬のように三年の時間をかけようとしたのか。

2.能力者を人間に戻したいのなら、なぜ3年の雪は逆に能力者の覚醒が頻発したのか。

3.そしてなぜ、フィムブルの冬を再現していたのに、神話の通りの厳しい雪ではなく、二年間は積もらない優しい雪が降っていたのか。


この局長が示した矛盾に対し、理屈は通っていて、陸は反論することはできませんでした。しかしずっと雪々を近くで見てきた陸は、理屈では納得できても心では納得できずにいました。陸が探した雪々の本心は、雪々が願った三年の月ヶ咲の雪から見つけます。雪々の本心を、局長が示した矛盾と一緒に比較していきます。

雪ちゃんは、姉さんのルーンとして自由に歩き回ることができた。
それが、姉さんの命を削っているとも知らずに。
だけど雪ちゃんは、姉さんが眠りに落ちたことで、その過ちに気づいてしまう。

だから雪ちゃんは姉さんから離れ、自ら生きることにした。
代わりに、雪ちゃん自身が潰えようとしている。
三年の冬とは、そういうことだ。
雪ちゃんが独りで生きていられる時間だったんだ……。


ーー幸、陸(グランド√)

三年の冬の時間とは誰の命も犠牲にすることなく、一人になったことで命を削られていた雪々が生きられる時間でした。

この三年の冬では雪々は後悔が積もり続けていたから、三年の雪にもその後悔と、消えてしまわなければならない雪々の想いがのっていました。三年の雪とは雪々の願いが込められていたから、その雪は三年で消えてしまう雪々そのものを表していました。

冬の妖精が過ごしやすいよう、環境を変えたかった。
だけど雪ちゃんは、それを選ばなかった。
だから月ヶ咲では二年間、積もる雪を降らせなかった。
雪ちゃんは、妖精よりも人間を選んだんだ。

本当は、どちらも選びたかったはずなのに。
最後の一年間だけ、積もる雪を降らせたのは、人間だけじゃなく妖精の夢だって叶えたかったからなんだ。


――雪々、陸(グランド√エピローグ)

神話のフィムブルの冬とは違い、最初の2年間は積もらない雪が降ったのは、(雪々の故郷では積もる雪が降っていましたが)積もる雪を降らせないことで自分を選ばず、そしてみんなが幸せで生きていってほしいという願いがありました。

しかし自分が消えなければならない三年目の冬、そして陸と再会して別れなければならなかった最後の冬には雪が積もります。その雪には雪々の相反する願いがありましたが、それが雪々が心に迷いを抱えていた証拠でした。いなくなりたくない、本当は一緒にいたいという雪々の隠れた本心がこの三年の雪にはあったのです。

最初の二年間の雪と、最後の一年間の雪にのっていたのは、相反する想いでありながらどちらも雪々の本心だったからでした。それが雪々の迷いを生んでいたのでしょう。

「局長が言ってたとおりで、雪ちゃんが降らせた雪には矛盾があったんだよ……」

雪ちゃんは、姉さんから聞かせてもらった優しい物語を街の人たちに共感してもらうために、雪を降らせることにしたはずなのに。

「雪ちゃんは、人間だけが生き残る道を選んだはずなのに、月ヶ咲には次々と能力者が生まれていた……」

三年の冬の間は、これまで以上に人から人へとルーンが渡り、新たな妖精が生まれていった。

「それはやっぱり、雪ちゃんが寂しかったからじゃないか」
「本当は友だちが欲しい、仲間が欲しいと願った結果じゃないか……」

だけどその逆の願いもあったから、月ヶ咲では能力者として完全に覚醒するものはほとんどいなかった。
雪ちゃんの中では二つの願いがせめぎ合っていたから、優しい雪にも相反する願いが乗っていた。


ーー雪々、陸(グランド√)

最後に局長が言及していた、能力者が月ヶ咲で逆に多く生まれていた理由ですが、これは最も雪々の本心が現れていたところでした。局長が言っていた通り、能力者が逆に生まれていたのは矛盾していました。しかしその矛盾は局長が考えていた、雪々の本心とは違っていました。

能力者が生まれていた理由は騙していたからではなく、本当は友達になりたかったからでした。騙すことと友達になることがどう違うのか考えてみると、誰かの心を無視しているか、心から通じ合いたいという願いがあるかの違いだと思います。雪々は能力者と通じ合いたいと思っていたことが、局長の考えていたこととの違いだったのでしょう。雪々の抱えていた矛盾は、離れないといけない、別れなければいけないと一緒にいることを否定することを言っていたのにも関わらず、本当は一緒にいたいと思っていたことでした。しかし一緒にいることの後ろめたさを迷いとして抱え続けていたから、能力者が多く生まれていても、完全に能力者になることはなかったのでした。このことは局長が見えていなかったことでもあります。

三年の雪は表面だけ見ると、最初の二年間は自分よりも人を選び、しかし本当は友達になりたかったという相反する想いが。そして最後の一年が一緒にいてみたかったという想いに、一緒にいてはならなかったという想いになっています。

相反する想いを持ちながら、同じ想いから生まれていたから見つけられなかった雪々の本心。ですがそれは近すぎたから見えなかっただけではなく、近くにいるから見えたものでもありました。「本当はこう思っていたんじゃないか」と本当の心を見つけてもらえたことで、「友達が欲しいと思ってた、一緒にいたかった」と、雪々は本当の心を伝えて見せていました。そう伝える雪々には、本当に自分のことを想っていることを理解した嬉しさも、それでもそんな強い想いに応えられない寂しさもあったのでしょう。

そしてもう一つだけ、この三年の冬には雪々のある想いがありました。そのことは雪々自身が語っています。

「妖精と人間が、仲良く暮らす……」
「だけどそれは、長くは続かない。いつかは滅びを迎えてしまう」
「争いが起こって、どちらかがいなくなってしまう」
「だって、妖精と人間は、違うから」
「生まれた星が違うから……」
「星にはきっと、その星にふさわしい命が必要なんだよ」

「わたしも、同じだったんだよ」
「わたしにとって、この星はあたたかい……」
「春はとってもあたたかい……」
「独りで生きるには、難しいくらいに……」
「あたたかさに慣れてしまって、誰かのそばにいないと、寒くて凍えてしまうくらいに」


ーー雪々(グランド√)

陸と別れてしまったことであたたかさを失い、この三年の冬では再会できたのに自分も心も消えるしかなくて。遠い想い出の中にしかぬくもりを求めることができず、目の前にあるはずのあたたかさはどこまでも遠かったのでした。

人のあたたかさを知ってしまったら、もうその人のあたたかさなしでは生きていけない。その人のあたたかさが全てで、それだけで満たされていたから、寒くて凍えてしまいそうな寂しさにはもう耐えられない。雪々が願ったこの三年の冬とは、雪々の想いの結晶でした。

雪々は三年の冬で、命よりも深く心が削られていました。

この三年の時間は、雪々が一人で生きられる限られた命の時間であったとともに、独りで生きることで削られ続けていた心のことでもあったのでしょう。雪々は本当は、ただ一緒にいられたらそれで良かったのです。



「ばいばい、りっくん」
「ごめんね……りっくん」
「ふたりで一緒に、歩けなくて……」

なぜ雪ちゃんは、これまでもこんなふうに、俺に対して謝っていたのだろう。
決まっている。
こうなることがわかっていたからだ。
諦めたくなくても、諦めるしかなかったからだ……。


――雪々、陸(グランド√)

昔の想い出と同じように時計台広場で遊ぶことで、雪々と陸は最後の想い出を作ります。そして悲しい別れにならないようにと、雪々はずっと笑顔でいました。

ですが別れなければいけない最後に「ごめんね」と言わなければならなかったとき、涙を抑えることができずに涙が止まらなくなります。雪々はここまで来るまでにごめんね、ありがとうと言い続けていました。そう言い続けていた雪々は、陸にきっとこう伝えたかったのでしょう。


「ごめんね、一緒にいられなくて

「ありがとう、一緒にいてくれて

と。

これがずっと隠してきた、しかし何よりも強くあった雪々の本心でしょう。ただ一緒にいられたら、本当はそれだけでよかった。それは昔からずっと変わらない雪々の本当の想いでした

一緒にいたいという陸の想いにも、そして自分の本当の心にも気付いていたのに。それでも「ごめんね」と言わなければならなかった雪々ですが、今まで想いを隠してきたのに、この一言を言うことでずっと我慢してきた想いが崩れてしまい、涙が溢れて止まらなかったのでしょう。

雪々が流した涙、そしてごめんねの一言は、一緒にいたいという雪々の本心が積み重なっていたのです。









想いは、一つとして同じものはない


「悲しい冬は、もう終わる」
「優しい春を、もうすぐ迎える」
「シラハが教えてくれた、優しいお話のハッピーエンド」

「争いはなくなって、平和が訪れてくれる」
「ルーンはなくなって、みんなが笑顔になってくれる……」


――雪々(グランド√)

人間を選択して幸せにするのなら、神様と妖精を救うことはできず幸せにはなれない。それが雪々が信じていた、物語のハッピーエンド。そして雪々がこれまで読んで聞いてきた、北欧神話という物語でした。

その誰もが知っている北欧神話という物語を通して、みんなが幸せになれる結果(=物語の結末)を願っていることを雪々は伝えたかったのでしょう。自分はいなくなるけど、これがハッピーエンドなんだよと、雪々は物語を語って聞かせるかのように伝えています。

何かを得るには何かを失うように、幸せを得るには誰かの犠牲が伴う。ここでは雪々自身がそうなることを願っていましたが、それが雪々にとっての「生きるために死ぬ(ハッピーエンド)」なのでしょう。雪々がこの三年の月ヶ咲の雪の物語を作り出したのは、陸たちが考えていたようにただ北欧神話の物語が好きだっただけではなく、その物語のような幸せな結末を為したいと雪々は強く願っていたからです

ですが誰かがいなくなることは寂しいことでした。雪々が言うように能力(ルーン)があることで誰もが苦しい思いをしてきましたが、それで心を通わせられた相手を失ってしまうことは、きっとどんなことよりも寂しいことでしょう。だからこの物語の結末を受け入れることはできません。

雪ちゃん。
もう、解けてるんだ。
優しい魔法は解けてるんだよ。

だからもう、雪ちゃんが見せようとした優しい物語の結末は、理解はもちろん納得もできやしない。
この先を受け入れることはできない。


――雪々、陸(グランド√)




「雪ちゃん……。魔法を解くことができたのは、陸くんだけじゃないんだよ」
「私だって同じなんだよ」
「だから私も、この先の結末を受け入れることはできない……」

 
 

「雪ちゃん、知ってる?」
「雪の結晶は、ひとつとして同じものはないんだよ」
「雪ちゃんの代わりなんて、どこにもいないんだよ……」

「雪ちゃんは、私にたくさん友だちを作って欲しいみたいだけど……」
「いくら友達を作ったって、そこに雪ちゃんがいなければ、ダメなんだよ……」


――幸(グランド√)

優しい魔法とは共感能力であり、そして幸せになってほしいという雪々の願いでした。今までみんなその願いに共感していましたが、雪々の孤独や寂しさには誰も共感できませんでした。雪々の本心と孤独を知ったから、優しい魔法という共感は解けていました。

そしてここで白羽幸の言う雪の結晶とは、“想い”の結晶という意味です。

儚く舞う白い雪は
降り積もる 想いの結晶


――雪のエルフィンリート

雪々の想いと心はたった一つで、代わりはどこにも存在しません。人は一人一人みんな違う想いを持っていて、同じものは一つとしてありません。誰かが失われることは寂しいことでした。その寂しさは能力者(エルフィン)たちにとって何よりもつらいことだったから、優しいだけで誰も幸せになれない雪々の選択は、受け入れることはできませんでした


これまで雪々の本心について見てきましたが、それでは能力(ルーン)と向き合うことにした能力者(エルフィン)たちの決断と、本心はどのようなものだったのでしょうか?








伝えたかった“ありがとう”の想い

エルフィンたちはルーンを持ってしまったために、それぞれが生きることに息苦しさを感じてずっと悩んできました。そして、自分のルーンをどうするかという選択を迫られていていました。

ルーンを手放したくないのであれば、月ヶ咲を離れることでルーンを残すことができます。そしてルーンを手放すためには、月ヶ咲に残り、三年の冬が終わることで、みんなのルーンは溶けてなくなります。そのどちらかの選択を迫られています。

「たとえ能力者じゃなくなったとしても……」
「あたしには、伝えなくちゃいけない気持ちがある、って……」

―中略―

伝えたい。

今まで怖くて直視できなかったことを。
彼の中にもあると、信じたいものを

素直に。ただ、伝えたい。


一夏(一夏√)

しかしエルフィンでいることやルーンを手放すことよりも、みんなには大切なことがありました

ずっとみんなのことを想い、そして自分たちと同じようにずっと一人で苦しんできた少女がいました。みんなにはただ、そんな少女に伝えたい想いがあります。そのためにルーンを使って、ずっと悩み、迷い、そして向き合ってきた本当の想いを少女に伝えます。




街のシンボルである時計台。
この舞台には、続々と能力者たちが集まっていた。

――能力者たち(グランド√)

時計台は、雪々にとっては不変と普遍を願う象徴(=シンボル)でした。しかしみんなにとっては、雪々に変わらずにずっとここにいて欲しいという伝えたい想いの象徴になっています。











「雪ちゃん、早く帰ってきてね」

「晩ご飯作って、待ってるわ」


落葉は、雪々(ルーン)のおかげで父とわかりあえた。

葉月は、雪々(ルーン)のおかげで母と会うことができた。


ありがとう。




「私は、寒いのが苦手です。今だって早くコタツに戻りたいと思っています」

「ですが、少しは冬が好きになれたかもしれません」

「あなたのおかげで、雪が好きになれたかもしれません」

「嫌いなものも、こうして好きになることがある……」

「もう、大好きなルーンだけに頼るのは、おしまい」

「あなただけに頼るのは、おしまい」

「だから、返します」

りんねは、雪々(ルーン)のおかげで家族の絆をつかむことができた。


ありがとう。




「この星空の向こうで、コロちゃんが旅してるんだよね」

「それをお姉ちゃんが、がんばってサポートしてあげてるんだよね」

「あたしはもう、思い出してるよ」

「宇宙が好きって気持ち。星が好きだったこの気持ち」

「お姉ちゃんと同じだった、この想い……」

一夏は、雪々(ルーン)のおかげで姉の本心に気づくことができた。


ありがとう。




「榛名くん。それに、一緒にいる妖精さん

「私が恨んでいるとか、勝手に決めないで」

「私が歩く道は誰のものでもない、私の道よ」

「これからも、自分の力で切り開いてみせるわ」

「独りで歩くつもりもないけど。助けが必要な時は、お願いするかもね」

「あなたがくれたのは、そういうものだったのよ」

琴里は、雪々(ルーン)のおかげで未来に踏み出すことができた。


ありがとう。




「ま、能力者として生きるのはもう、堪能したし」

「人間として生きるのだって、おもしろそうだし」

「恋愛とかも、してみたいしさ……」

「……ううん。人間も妖精も、変わらないかな」

「ボクはボクなわけだし、どっちで生きたってきっとボクの性分は変わらないんだろうね」

「そのままのボクで、どんなふうに生きるのか」

「選ぶのは勇気がいるけど、それが自由ってものだもんね」

ひなたは、雪々(ルーン)のおかげで本当の自由を知ることができた。


ありがとう。




「私は、月ヶ園が好きです。そこに通う園児たちが大好きです」

「私がそんなふうに子ども好きになったのは、昔から小さなことでくよくよしていた自分がいたからです」

「だから、ルーンについても悩んでばかりいた」

「そんなわたしだから、悩みなんて笑って吹き飛ばす、子どもたちの無邪気さに惹かれていた」

「私はいつも、子どもたちから元気をもらっていた……」

「だけど今は、子どもたちからもらうだけじゃなくて、私が守ることもできたと思います」

千川は、雪々(ルーン)のおかげで誰かを守れる強さを持った。


ありがとう。




「これで、この街からは暴走がなくなって、平和が訪れることになる」

「うさー(そうですわ)」

「ルーンに振り回されることがなくなり、皆は安心して過ごせるようになる」

「うさー(きっとそうなりますわ)」

「そんなふうに、この冬は辛くて厳しい季節だったかもしれないけど」

「悲しいこともたくさんあったと思うけど……」

「うさー(ですが、それだけではありませんわ)」

「うん。アルとたくさんお話しできて、楽しかったよ」

「この冬が、私は好きだったよ」

「うさー(ワタクシも大好きでしたわ)」

友だちと一緒に、いつだっておもしろおかしく遊ぶことができたのだから。

だから、たとえ春を迎えても、冬の想い出は忘れない。

決して。


素敵な贈り物をありがとう、冬の妖精さん……。




「この光は、雪ちゃんの想いのカケラ」

「私たち一人一人に、雪ちゃんの願いが息づいていた」

「いつからか、ルーンが不安定になったのは、雪ちゃんが訴えかけていたからなんだよね」

「独りは寂しいって」

「本当は、いなくなりたくない……」

「死にたくない……」

「そう、私たちに助けを叫んでいたんだよね……」

「雪ちゃんは、強いよ……」

「本心を隠して、私たちに心配かけないようにして……」

「私たちの前では悲しい顔ひとつしないで、いつだって笑っていたんだから……」

「だけどもう、いいんだよ」

「助けを求めていいんだよ」


「私たちは、ルーンがいらないから還すんじゃない」

「雪ちゃんに、私たちの気持ちをわかって欲しいから、還すんだよ」

「私たちの想いを、この光に乗せて――――」

父との不仲と母親との死別により孤独を感じていた落葉は、彼女の持つ共感能力(エムパシー)により、自分を想ってくれる誰かがいたこと、本当は孤独ではなかったことを知ります。

能力(ルーン)だけが家族との唯一のつながりで、実際に一緒にいることが叶ったから能力(ルーン)が好きだったりんねは、能力(ルーン)だけに頼らなくても、自分の力で絆を掴んでいけることも知ることができました。

お互いに条件付きの愛でしか姉との関係がなかった一夏は、回帰能力(リカレンス)により、一緒にいる理由がなくなったとしても、なくならない気持ちが姉との間にあったことに気づけました。

能力(ルーン)によって家族を傷つけてしまったことから能力者(エルフィン)であることに苦しみ、自分の心を捨てることで弱い自分を捨てていた浅海ころなは、能力者(エルフィン)である自分とその心から逃げずに向き合えることが本当の強さだと教えてもらいました。

家族に捨てられて、自分を捨てた家族を切り捨てるためにあったと思っていた琴里の遠隔移動能力(アポーツ)は、それに反して発動条件は家族との想い出である刀を呼び寄せなければならなかったから、決して捨てられない絆と、能力(ルーン)は自分の道を切り開くためにあったことを見つけました。

自分のルーンと向き合うことは自分の心と向き合うことと同義でした。自分の心と向き合うことは苦しいことですが、ひなたにとってそれが本当の自由であったように、苦しかったけれど本当の幸せを考えることができました。

累たちにとってこの冬はつらくて苦しい三年間でしたが、それだけではありませんでした。みんな能力(ルーン)によって寂しい思いもしてきましたが、雪々(ルーン)のおかげでずっと誰かがそばにいてくれたこと、本当は独りではなかったことを知りました。ルーンと向き合うことができたからこそ、誰かの本当の想い、自分の本当の気持ちに気付けました。そしてみんな本当はこの冬と、雪々(ルーン)が好きだったことにも気づきました。それは決して忘れることのない、大切な冬の想い出。

そして能力(ルーン)と向き合って見つけていたのは、自分たちと同じように悩んでいて、独りで寂しかった少女でした。少女にも寂しい想いをして欲しくなかったから、たとえ大好きなルーンを失って、エルフィンではなくなってしまうとしても。それでも伝えたい“想い”がありました。

新しい季節を待つ (いつまで?)
想いが空へと還る日まで…


ーーアストラエアの白き永遠OPテーマ「White Eternity」

その想いを、この「ありがとう。」の一言に込めて。









雪のエルフィンリート


儚く舞う白い花が やがてこの世界を照らすよ

また出会えたふたりの運命(さだめ)を歌うよ いつまでも

光の中咲き誇る 光の中永遠に

ふたり 歌おう


ーー雪のエルフィンリート~Never ending love song~(3番)

この挿入歌はプロローグでも流れますが、それとは歌の雰囲気が違うように思います。最初の雪々はこの歌を一人でいるときに唄っていました。そして雪々の母も、ずっと一人のこの歌を唄っていました。その最初の歌には孤独の寂しさが想いとしてありました。

しかしこちらはどうでしょうか。歌っている人が違うだけではなく、3番の歌詞までもが書き変えられています。


「会えなくても信じる運命を唄うよ」
「また出会えた二人の運命を唄うよ」

「ひとり 唄うよ」
「ふたり 唄おう」


こうしてみると、歌詞までもが全く違う意味へと変わっていることがわかります。この歌に込められた想いは、雪々が唄っていた独りの寂しさとは反対に、二人のあたたかな想いが唄われていました。これは雪々の歌に対する、あたたかな「返し歌」になっていました

エルフィンたちのありがとうの想いだけではなく、白羽幸自身もこの歌を通して、雪々に独りでいて欲しくない、一緒にいて欲しいという想いを込めて、伝えようとしていたのでしょう。

白羽幸は、雪々の唄う寂しかった歌を、この「返し歌」を唄うことで打ち消そうとしていたのです。


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アストラエアの白き永遠のパッケージなどに書かれていた副題は「Elfin song’s an unlimited expanse of white.(エルフィンの白き歌が響き渡る)」となっていましたが、2つあった白き歌声はエルフィンたちの想いを乗せて、どこまでも響き渡っていたのでしょう。









無限だった心の共有

みんなは雪々にありがとうの想いを伝え、白羽幸はそんなみんなと共に伝えたい想いを乗せた歌を届けました。そんな伝えたい想いは、どれほど通じ合えるものなのでしょうか。
雪々に届いた想いを知るために、心と共感はどういうものだったかを考えてみることにします。

「……あたしの心をのぞいたら、ダメだからね」

一夏、陸(共通)


駅で出会った白羽という所長に、心をのぞかれて居心地が悪かった。


――雪々、陸(コロナ√)

なぜ心は、のぞかれることに抵抗があるのでしょうか。本編ではこれに対するはっきりとした答えはありませんが、誰かに見られたくない想いがあるということであり、それは人の心には決して交わらない壁があるからなのではないでしょうか。それは、次のようなことが言えるのではないでしょうか。

誰と仲良くしても、本質的には一人です。
通じ合っても、すべてを共有できるわけではありません。


――群青学園放送部(CROSS†CHANNEL

自我・他我論の話がありましたが、人の心は分からないもので、だから自分の心と相手の心は交わらない壁があります。しかしそれでも同じ想いを抱えて、心の一部を共有することはできます。


では、想いを完全に共有することはできないのでしょうかーーーー?






「うっ……くっ……ひくっ……」
「ああっ…...わあああああっ……」

雪ちゃんは、俺の胸の中で大泣きした。
姉さんの共感能力で、俺にもその想いが共有できた。

雪ちゃんは泣き続ける。
俺も翻弄されて、涙が止まらなくなった。

言葉にならないこの感情。
二人で共有しなければ、抱えきれない大きな激情。

「雪ちゃん……わかっただろ……」
「いいんだよ……」
「雪ちゃんは、ここにいていい……」
「見つけて欲しいと願って、隠れなくていい……」
「そんなことをしなくても、誰もが雪ちゃんを見てくれる……」
「一緒に遊んでくれるんだ……」

「だから、言ってくれ……」
「もう、かくれんぼはしなくていいから……」
「なにも隠さずに、本心を言ってくれないか……」

「りっくん……」
「そばにいたい……」
「ずっと一緒にいたい……」
「助けて……」

「助けて欲しいよ、りっくん……!」


――雪々、陸(グランド√)

しかし、共感で得ることができた絆は、それだけではありませんでした。自分と誰かの心は、こうして全てを共有することが――――共有しなければ抱えきれない感情が、そこにはありました。

うれしいことは二倍に、悲しいことは半分に。そんな気持ちを共有するためにだって誰かはいるはず……人は寄り添うのだと思います。絆とは決して、交わらない心だけではありませんでした。それは絆が言葉にしてもしきれないくらい、とても尊いものなのだと思います。

「エネルギーっていうのは、有限なんだって……」
「光ですらも、ずっとそこにあるわけじゃなくて、いつかは消えてしまうんだって……」
「ゆきゆきだって、同じなんだよ……」


――雪々(グランド√)

エネルギーが有限だとしたら、雪々もそれと同じなのでしょうか?だから雪々もいつか消えてしまうものなのでしょうか。結論から言うと、そうではありません。
つまり人の心とは――――想いとは、エネルギーが有限であるのとは真逆で、心や感情は無限なのです。

「きっと、なんの理屈も、理由もなくて」
「ただ、そのひととなにかを共有していたい気持ちが……」
「その共有できるなにかが、なくなっちゃったら……どうすればいいの……」

「なくならないわ」
「それは、なくならないって、私は思っていたい」


――落葉、一夏(一夏√)

どんなに分け与えても、共有しても、決してなくならないもの。それが感情です。雪々がいなくなることは迷惑とか関係なく、感情がそうさせてくれないのです。
ただ一緒にいたい、その想いだけが無限に広がっていくから、理由はそれだけで充分以上になります。

「一筋縄ではいかない障害ね。不快情動反応ってやつよ」
「……それは?」
「人は恐怖に遭遇すると、自己を守ろうとする。この反応は不快情動によるものなの」
「で、情動というのは反射運動と同じようなものだから、頭でわかっていてもどうしようもないってこと」
「……コロナの家族は、コロナを本能的に恐れている。所長の言いたいことはわかります」
「他人の私たちがいくら心配したところで、進展はないでしょうね。本人に乗り越えてもらうしかないわ」

(……本当にそうだろうか)
(本人にはどうしようもないからこそ、第三者が必要ではないのか?)


ーー美晴、白羽(コロナ√)

ここは、白羽が心の動きを心理学を用いて解釈している場面です。そのように心や感情を、心理学などの理論で捉えようとしたときに、「本当にそうだろうか?」「心は本当にそれだけなのか?」という問いが必ず付きまといます。それは心が捉えようのない、無限だからという事実に他なりません
だから二人がお互いに一緒にいたいと想う気持ちには、どんな理論も通用しません。人の心が決して理解できないとしても、こうして共有できるのは、感情や心が理論を超えたものだったからです。

だからどんなに不可能に近かったとしても、二人がわかりあうことはできました。
二人が一緒にいたいという理由もまた、恐怖とか理由のあるものではなくて、二人の感情が、ただ一緒にいたいという気持ちが全てだからです。抱えきれない感情があるから一緒にいたい、それだけで二人が一緒にいる理由には充分でした。

心も、感情も、無限だから。その無限に広がる可能性が、二人の心を溶かし合うように共有させ、お互いが心から共感することができたのだろうと思います。そして想いとは、決してなくならず死ぬことのない、つまり永遠です。
その想いが無限だからこそ、永遠の想いがあるから、二人はただ一緒にいられるだけでここまで満たされるのでしょう。









想いを何度も叫び続けた


歌声が聞こえる――――

雪ちゃんが唄っている。
子守唄を聴かせるように。
安らかな眠りに誘うように。
抗えない。
身をゆだねてしまう。
まぶたが重くなっていく。
視界が霞み、まどろんでいく……。

「りっくん……」
「一緒に歩けて、楽しかったよ……」
「そばにいられて、うれしかったよ……」
「ありがとう……」
「りっくんは、がんばったよ……」
「だけどもう、充分……」

「おやすみ、りっくん……」
「ばいばい、りっくん……」
「ごめんね、りっくん……」
「ゆきゆきは、また間違いを犯すんだよ……」

「え……?」
「ウソ……どうして……」
「ひとりになれない……」
「この絆を……断つことができない……」

「ありがとう……」
「それが、雪ちゃんの本心なんだな……」

「本心……?」
「そんなこと……ない……」

「ゆきゆきは、りっくんを助けたい……」
「命を賭けても助けるって決めた……」
「りっくんも、そうしてくれたから……」
「だから絶対、別れなきゃいけないって思ってた……」

―中略―

「なのにっ……そう思ってるはずなのにっ……」
「離れたくないっ……」
「そばにいたいっ……」
「ずっとずっと変わらないっ……」
「この気持ちだけは変わらないっ……」

「どうやっても、ぜんぜん変わってくれないんだようっ……!」


――雪々、陸(グランド√エピローグ)

雪々は最後でもう一度、歌を唄います。それはまた雪々が、独りになるために。そして雪々が絆を断ち、独りで死ぬために。だからこの歌も、心としての死を唄おうとしていました。

しかし、陸の本当の気持ち、みんなの想い、そして白羽幸が届けてくれた、あの生きるための歌に乗せられた想い――――そんなみんなの本心を知った今、もう雪々には、あの独りの歌を唄うことはできなくなっていました
独りになろうとして歌を唄ったはずなのに、雪々はいつの間にか二人に捧げられた白羽幸の歌を唄ってしまっていました。二人の絆は、どうやっても切れないものになったことを意味しているからです。

ここで雪々の「死」は、完全に断ち切られていました。それがこの最後の歌(雪のエルフィンリート)に秘められた、みんなと一緒に生きたいという雪々の本心でした。


そしてここでは、死によって自分の心が潰えようとしている。心が死んでしまおうとしています。そんな心の死に抗うとき――――爆発するような激情、それが“叫び”です。心から生きたいと願うから、その心は無限の想いとなって、無限の想いは誰かに向けられた無限の叫びとなります。
誰かがいないと心から生きられないのですから、叫びとは大切な人にわかって欲しい無限の想いです。

「ゆきゆきは……りっくんと、離れたくない……」
「俺もだよ……」
「だから、これでいいんだ……」
「この景色のように、俺たちも一緒にいよう……」

いつか散ってしまうその日まで……。

「だけど……もう、りっくんは……」
「大丈夫だよ……」


「大丈夫じゃないっ!」

「このままだと、ほんとにりっくんが死んじゃうっ……」
「ゆきゆきのせいで、りっくんがいなくなるっ……」


――雪々、陸(グランド√エピローグ)

感情が絆を断ち切らせてくれないなら、せめて雪々は叫んでいます!大切な人を死なせてしまうくらいなら、自分が死んでしまいたい。大切な人には死んでほしくない。優しかった想い人には、ずっと生きていて欲しい。そんなどうしようもない想いのまま叫んでいます。


雪々のこの叫びは、大切な人の生を叫ぶ、生きるために死にたいと願う叫び。そんな心の“死の叫び”です。



「雪ちゃん……」

どこに行ったんだ、雪ちゃん……。
捜そうにも、身体が動かない。
感覚すら働かない。
もう、つながりを感じない。
絆は途切れていた。
雪ちゃんは自ら独りになった。
俺から離れ、この空に還っていった……。

雪ちゃんの名を呼んだ。
だけど、かすれた声しか出なかった。
まともな言葉にならなかった。
それだけ体力は落ちていた。
いくら木陰で休んでも回復しない。
できるのはこれだけだった。

雪ちゃん。

雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん。

言葉にならない声で呼んだ。
何度も叫び続けた。
喉がつぶれようとも。
残された命を燃やすように。
このまぶしい空に向かって。


――陸(グランド√エピローグ)


陸は命が残り少なくても、それでも死に足搔いて叫んでいますz雪々に生きて欲しい、一緒に生きていたい。声にならなくても、喉が潰れようとも、想いは決して死なないのだから叫び続けます!

雪々の叫びが死の叫びだとしたら、これはその死を打ち消すような、二人で一緒にいたいと願う叫び。死んでしまうとしても最後まで一緒に生き続けたい。そんな“生への叫び”になるのでしょう。


一緒にいたい本心を押し殺したいと願う雪々の死の叫びと、本心のまま一緒にいたいと願う陸の生への叫び。
白い雪と満開の桜。二つが舞い散る空の下では、そんな舞い散る2つに反するように、舞い散らない二人の強い想いが、二つの叫びになって響き渡っていました









信じることで結ばれた絆


さて、最後のまとめになります。この作品では、「絆や共感はどうしたら得られるのか?」ということが大きな問いだったように思います。
人の心は理解できません。それは人の心には、交わらない壁があるからです。ですからそれは、とても不可能なことのように思えます。しかし決して、得られないわけではありません。

その問いに対しての答えは、同ライター作品の前作である、星空のメモリアでは、「頼ること」でした。
誰かに頼るというのは、自分の弱さを認めて助けを求めることが必要で、とても勇気のいることです。だからそれは弱さのように思えますが、強さでもあります。頼ってくれるからこそ、助けることができます。

それに対して本作、アストラエアの白き永遠の示した答えは、OPムービー中で流れるフレーズの通り、「信じること」です。

分たれた時間は永く―
人々はすれ違い、
秘めた想いはつたわらず、
求めたぬくもりは遠く、

それでも、
ひとはわかりあえると信じて―


――アストラエアの白き永遠OPテーマ「White Eternity」

では、「頼る」ことと「信じる」ことはなにが違うのでしょうか?それは、その“重み”が違います。
それでは、信じることはどれだけ重たいのでしょうか。その重みは、物語の中ではっきりと書かれています。










――――助けるよ。

なにがあっても助けてみせる。









俺は、催眠能力を使う。
そして、絆を結ぶ。
雪ちゃんと誓いを交わす。
その力は絶大だった。
皆の想いが加わり、感情の高ぶりは留まらず、暴走したルーンが運命すら決定づけた。

雪ちゃん。
この先は、俺の命を使って生きてくれ。
いつまでもそばにいて、俺の雪々(ルーン)として見守っていて欲しいんだ――――


――陸(グランド√)








――――わたしは想う。









彼と絆を結んだら、たとえわたしの命がつながれても、彼の命が途切れてしまう。
それがいつかわからなくても、必ず訪れる未来となる。
だというのに、受け入れてしまった。
彼の想いに抗えなかった。
みんなの想いに翻弄された。
助けて欲しいという、自分の想いにも逆らえなかった。


……ありがとう、りっくん。
キミが命を賭してわたしを助けてくれるなら。
わたしも命を賭して、キミを助けるよ。

死なせない。
二人で一緒に生きるんだ。

そんな未来を夢見よう。


――雪々(グランド√)


頼ることというのは、自分の心を誰かに託すということです。それは確かに勇気のいることですが、信じることはそれ以上です。
心を理解することは決してできないのに、共感を得るということは、命を賭すほどの、わかりあえると信じ続けるという誓い、そんな“覚悟”から生まれます。それは相手に心を託すだけではなく、自分の心をしっかりと持つ強さも必要です。

そして信じることは一方だけではなく、お互いが信じ続ける必要があります。雪々は絆を切ろうとしても、断ち切れませんでした。それは信じることを一方だけでも止めてしまったら、これまでずっとすれ違っていたように、またその頃のように心から分かり合えなくなってしまうからです。

命を賭けるという誓いの上にどこまでも信じ続けるという覚悟は、結ばれた二人の絆を生み、もう決して切ることができなくなっていました。心とは、命以上に重いものだからです。お互いをどこまでも信じ続けられることが、心からわかりあえた二人の“絆”の証です。

「雪ちゃん......忘れたのか......?」
「雪ちゃんは、俺の願いを聞いてくれた......」
「雪ちゃんは、俺の気持ちに共感してくれたんだ......」
「だから俺たちは、こうして旅を続けることができた......」

「それが、共感能力っていう、妖精と人間がわかり合うためのルーンじゃないか......」


ーー雪々、陸(グランド√エピローグ)

人の心は決してわからないけれど、それでも分かり合えるとどこまでも信じ続けること。そのお互いの歩みの先に、二人の共感が生まれて絆が結ばれました。
人は分かり合えるというよりも、人の心はどんなにわからなくても、分かり合えるとどこまでも信じ続けること。それが本作が出した、分かり合えるための“答え”です。

二人にとってそうした永遠の想いと絆が、心から生きているという確かな実感を与えてくれました。

絆とは決して切れないもので、そんな決して切れないつながりを得るためには、信じ続けることが大切です。諦めずに絆を信じ続けること、それがこの作品に込められた、大切なメッセージ(想い)なのでした。









「......探したよ、二人とも」

「二人だけで背負い込むことはないんだよ」
「私は、二人のお姉ちゃんなんだから」
「お姉ちゃんにだって、少しは手伝わせて欲しいんだから」

「陸くんは、雪ちゃんを助けてくれた」
「雪ちゃんは、この星を助けてくれた」
「だから今度は、私たちが二人を助ける番……」

「二人は別れなくていい。これからも一緒にいられる」
「寄り添いながら歩いていける……」


「だけど、一人だけで先に行かないで……」
「二人だけで、先を歩かないで……」
「たまには後ろを振り返って、立ち止まって待っていて」
「私たちは、必ず二人に追いつくから」


――幸(グランド√エピローグ)

二人は最後まで絆を切ることができず、お互いのことを信じ続けることができました。しかしそれだけではまだ終わっていません。この作品の「信じる」というメッセージはそれで終わりではなく、それよりもまだ先があるからです。

それは信じることは二人だけではなく、さらに三人、そしてみんなで信じあうことだってできるということです
信じ続ける気持ちがあれば、二人だけではなく、みんなともわかりあうことができて、助け合うこともできます。二人だけで抱えきれないことは、みんなで助け合って欲しいのです。

二人だけで信じあい先を行くのではなく、たまには立ち止まって後ろを振り返るのも、未来を歩むためにはとても大切だということを本作品は伝えたかったのではないでしょうか
信じ続けるというのは命を賭すほどの覚悟が必要でしたが、その覚悟だけが重要なのではなく、みんなで協力すればきっとその負担は少なくなるというのも、同じくらい重要なことだったのではないでしょうか。

雪々がみんなとわかりあうことで初めて自分の存在を認められるようになったように、そんなみんなのことを信じるという絆の中でこそ、二人はこれからも未来を歩んでいけて、心から生きていけるようになりました。


「雪ちゃんは、姉さんを信じられないか?」
「雪ちゃんにルーンを還した友だちのみんなを、信じることができないか?」

「ズルいんだよ、りっくん……」
「ゆきゆきはもう、みんなのこと、信じてるんだよ……」


――雪々、陸(グランド√エピローグ)



さて、最後にアストラエアの白き永遠の、クライマックスの場面を解釈して、この考察を閉じようかと思います。
誓いの上に生まれた絆が結ばれた後、二人が雪道を歩くCGに切り替わっています。この唐突な場面転換はなにを意味しているのでしょうか。

その背景は、雪の心象風景です。そして雪の心象風景とは、共感の印でした。それは二人の命を賭してまで信じ続けることで、ようやく二人の共感が生まれたということを意味しています
今までの共感は全てルーンの力によるものでしたが、最後のこの心象世界は二人が初めて心から共感することで、ルーンの力ではなく心の力で開かれた世界です。

そしてもう一つ、この雪道の歩みは同時に、幼少の二人がわかりあえていた歩みのように、昔のような歩みにようやく立ち返れたということも意味しています
過去の二人の雪道の歩みは確かにわかりあえていて、でも様々な障碍により二人は分たれてしまい、それでも信じ続けて絆を得たことで、決して切れない永遠のつながりを、こうして歩んでいるのでしょう。








妖精と人間が仲良く暮らす。

何度も諦めたその道を、もう一度目指してみよう。




この雪道に、二人の足跡を続かせながら――――






「雪ちゃん」

「また、一緒に遊ぼうな」

「雪合戦しような」

「雪だるまを作ろうな」


「春を迎えて、たとえ溶けてしまっても」

「次の冬に、また一緒に作ろうな」

「うんっ」

「もう、迷子にならなくていいんだよね」

「りっくんとゆきゆきは、ずっとずっと、一緒だよ」



そしてエピローグで叫ぶ場面の後、雪々がいなくなり、そして再び姿を見せている場面についても私見で解釈してみます。

ここで雪々が一度姿を消してしまうのは、意味があって書かれたのだと思っています。この場面が意味していることは、雪々がいなくなることで、陸にとっての「“大切なもの”は何だったのか」ということを気づかされる、そして示していたのではないかと思っています。陸はずっと、大切なものを探していましたからね。

きっと陸は、ようやく心から大切だと思えるものを見つけられたのだと思います。




春を迎えたら、雪ちゃんとはお別れになるんじゃないかと。
日に日に弱っていく雪ちゃんを見て、それはほとんど確信になっていた。

……諦めてやるものか。
俺は、見つけるまで探し続ける。
大切なものであればあるほど、見つけるのは難しいのだとしても。
探すのをやめてしまったら、未来永劫、見つけることはできやしない。


――陸(グランド√)


舞う結晶の向こうに、彼女の姿があった。
捜していた最中は見つからなかったのに、諦めた途端に容易く発見できた。

それは、大切なものをなくしたときと同じだと思った。


――Episode2








見つけたよ、雪ちゃん……




















「うん……見つかっちゃったんだよ」












「おはよう、りっくん……」








ーーこれはあなたに心から生きて欲しいと願う、永遠に変わらない想いの物語。


















感想

はい、以上になります。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。ここまで書いて思いますのは、これだけの字数が書けるような内容が駄作であるはずは当然なく、むしろ大作レベルの作品でなければここまで書けないのですよね。それは揺らぎようのない事実だと思います。ここまで書けたのは私の力量のおかげではなく、アストラエアの白き永遠という素晴らしい作品があったからです。
そして三年の雪の意味など、この作品のテーマは一周プレイしただけでみなさんすぐに気づけると思うのですが、つまりそれだけ強いテーマ性があったということでもあります。ここまで誰もがすぐに気づけるテーマを生み出すのは、簡単なことではないように思うのですよね。

そうした力強いテーマ性を生み出すためには、しっかりとした世界設定やキャラ設定などや、物語の流れや構成、そしてテーマを示していくための論理性など、1つ1つ地道に確かな積み重ねが必要ですし、そういったことができる作品って本当に稀有だと思うんですよ。それができた本作のライター様の力量には感服いたします。本当に素晴らしかったの一言に尽きます。

それに本作のテーマもまた、「心とは何か?」「どうやったら人はわかりあえるか?」というかなり難しく、そして感情というテーマに真剣に向き合い完璧以上の答えを出せていたと同時に、そしてひとりぼっちの孤独になってほしくないという、とても優しくて心温まるものでした。
萌えゲーとしての形を保ちつつも、その中で真剣にシナリオを追求した点はやはり称賛に値すると思っています。本作は、萌えゲーとしてもシナリオゲームとしても、非常に高水準の作品だったと思います。これほどまでの完成度を誇る作品は他に代わりがなく、唯一無二の大作と呼ぶにふさわしい作品だと思っています。

そして、あのありがとうの場面はやはり神でした。本考察ではありがとうの想いの意味と、返し歌としての雪のエルフィンリートとして魅力を二分化しお伝えしましたが、やはりその2つが一体となってみせた本編で、この場面は何物も及びつかないような凄みを持っていましたよね。威圧感さえ感じた迫力にはもう凄すぎました。

ここでの雪のエルフィンリートの荘厳たる雰囲気もまた圧倒的な印象を与えられました。ここまでの仕掛けを用意されたことにとても驚かされました。私にとってはキャラの魅力を最大限に書いた上で、これ以上ないくらいに素晴らしい作品だと感じました。本当にすごい作品でした。


本記事は以上になります。長い時間目を通していただき、ありがとうございます。本当にお疲れさまでした。