白き永遠

主にエロゲーの感想や考察について書いていきます。楽しいエロゲー作品に、何か恩返しのようなことがしたくてブログを始めました。

Rewrite 考察_孤独な少女に捧げられた、愛の物語(77777字)

いつかまた、君(あなた)とーー





【ジャンル】恋愛アドベンチャーゲーム

物語性 A
テーマ性 SS
独自性 S
哲学性 S
意欲度 S
総合評価 SS

公式サイト| Rewrite|Key Official HomePage



この記事は、「Rewrite」という作品の考察記事です。完全なネタバレですので、原作を未プレイの方はこの考察記事の本編は見ないことを強く推奨します。


(19.9.29追記)私の書いたこととほぼ同じようなことを簡潔にまとめた紹介記事がありました。若干のネタバレを含みますが、それでもネタバレは控えめでとても分かりやすくまとめてありますので、未プレイと既プレイを問わずおすすめです。
Rewrite (リライト)。恋に人生のすべてを賭ける価値はあるのか?│あにぶ

自分より何百倍も分かりやすくて整然としているから悔しい......。副題のセンスなんて私の1000億倍くらいありますよね......悔しい......。
一人の少年が、一人の少女に恋をし、全てを捨て、全てを賭けた人生。終始あの想いを強くも儚く、そしてここまで純粋な想いを最後まで書ききったRewriteには胸打たれるものがありました。


他サイトの紹介はここまでにして、話を戻します。この考察記事ではアニメ版Rewriteの内容は極力排除しているものの、どうしても一部触れないと考察にならない場面もあるため、可能であればアニメについても視聴済みであるほうが望ましいです。

※以下からは完全ネタバレです。

















この記事は、RewriteのMoonおよびTerra編についての考察になります。

まずRewriteのテーマといえば、「環境問題」だと思います。そのテーマについては知っている前提で進めていきますので、え?そうなの?と思った方や、あまり理解できていないと思う方は、他に優れた解説・考察サイトが数多くありますので、予めそちらを見ていただけたら幸いです。


この記事は、そういった環境問題というテーマを取り扱った考察記事の補足程度の立ち位置だと思っていただけたらと思います。


それでは、私がこの記事を書いた理由について説明します。多くの人はこの作品のテーマを、「環境問題」だと捉えているように思います。それだけこの作品は難解かつ哲学的でありながら意欲に満ちたテーマですから、数多くの知的考察がされるだけの充分なポテンシャルを秘めた作品だからこそのように思います。

しかし、環境問題というテーマの陰に隠れてしまい、今まで注目されて来なかった、この作品のもう一つのテーマがあります。本記事ではあえて環境問題というテーマから距離を置き、そのもう一つのテーマに着目しながら進めていきます。

では環境問題の陰に隠れてしまった、この作品のもう一つのテーマとは何でしょうか?
私は「愛」だと思っています。大がかりなテーマとはかけ離れていますが、このささやかなこのテーマについて、のんびりゆったりとお話しできたらいいなと思います。


※画像の著作権は全て、VisualArt's/Keyに帰属します。
















現象としての天王寺瑚太郎


自分が拡散して薄まり、とける。
俺が、なくなる。
だというのに、不安はなかった。
消えたとしても...消えて...だとしても。
また収束することだろう。
満面にゆれる月光が、かき乱されてもまたすぐ蘇るかのように。


ーー瑚太朗(月光散歩)


首筋を撫でる。
切断の傷はない。
一度散り、再び収束したのだから当然だ。
水面に映った月は、かき乱されてもまた甦る。
月が夜空から消えない限り

「不思議だ…」

現象が現象であることに、理由なんてないのかもしれない。


――瑚太郎(少女篝)

天王寺瑚太郎は”人間”ではなく「現象」です。天王寺瑚太郎という存在を構成する粒子が崩壊しても、再び収束しては再構築されるように、まるで決定された様式をなぞっているような、物理法則に決定づけられた存在のようにも思えます。そのシステムのようなものとして機能するのは、果たして人間と呼べるものなのか?――――この作品ではそれを「現象」と呼んでいます。天王寺瑚太郎という存在は収束するシステムであり、それは人間というよりも“現象”と呼ばれる存在です。

一度目の篝との出会い、篝の視認により、高密度の情報がーー耐性のないものに対して有毒であるようなーー天王寺瑚太朗という存在は一度崩壊します。そして反射のように収束し、再び存在としてなります。

二度目では、天王寺瑚太朗の接近を篝に敵対行為と認識され、切断により血ではない液体をーーこれは天王寺瑚太朗が人間ではない存在への強い示唆ではないでしょうかーー流し、意識の消失と共に存在が散り、再び収束し存在となる。これが天王寺瑚太朗という“現象“です。

俺がここに現れたのは何かの結果に過ぎない。反射に過ぎない。
そんな気がしてならなかった。

…残酷だ。
鏡像にも独自の意識があるなんて。
いや、独自の意識と見せかけて、すでに決定済みの様式をなぞっているだけなのかも。


(…考えてもきりのないことだ)

それにやるべきこともある。
自分の心に訊ねれば、すぐにわかる。
彼女に会いに行く。
それだけが俺にとって、唯一の執着となっていた。


――瑚太郎(少女篝)

天王寺瑚太郎の意識は独自のものなのでしょうか。それともただの様式なのでしょうか。天王寺瑚太郎という存在は現象だからこそ、その意識も決定済みの様式をなぞるだけの現象ではないかという疑いが持たれます。意識が現象でないことを証明する手段はなく、そして自意識を確立させる他者もまた誰もいないのですから、考えても仕方のないでしょう。でも彼女に会いたいと感じるこの意識は、その心は、様式化されただけの物理現象なのでしょうか?









「対話」


(話そう)

対話。
俺は彼女をわからないといけない。
同時に、向こうにも俺をわかってもらいたい。
ふたりの間に引く線について探りたい。
線が引かれることで、やっと人は安心できる。
次にやるべきことも見えてくるはずだ。


――瑚太郎(対話)

天王寺瑚太郎はなぜ彼女に会おうとしたうえで、対話を試みるのでしょうか。それは相互理解をするため、そして自分と篝の境界線を探ることで、次にやることも見えてくることにより、自分を見つけてみたいと思ったのでしょう。決して交わらない平行線のような関係は、他人と変わりません。では、天王寺瑚太郎にとって篝は、線引きになってくれるような相手だったのでしょうか?

少女との対話は、数え切れないほど試みた。
少女はあまり俺との対話に積極的とは言えなかった。
話しかけても、つれなく無視されることも多かった。
対話は相互理解を目的とする。
けど俺と少女の間に、そんなものが育まれたのかどうか…


――瑚太郎(対話)

しかし天王寺瑚太郎の対話はそのすべてが失敗に終わっています。篝は誰かと間柄そのものを持つことを拒絶しているようです。いったいなぜ、篝は他者を拒絶するのか。今のままでは自意識さえあるのか不明な彼女ですから、本当のところはわかりません。

ですが彼女は無感情で、異質で、そして人間性を宿さない瞳を持っていたことから、誰かを必要としてこなかったことがわかります。それは篝にとって誰かというものは、敵になり得るからなのかもしれないと思いました。









現象ではなく、人間であること

「正直に言えば、好きってのは全部ウソだよ」
「俺は人を好きになるより、まず自分が大事な人間だからな」

「自分がかわいい。自分が大事」

「俺は人を助ける。道で転んでいるヤツがいれば助け起こしてやる」
「その時、俺は気持ちいいんだ」
「いいことをした。善人になった」
「人助けの気持ちよさだ」
「実は相手のことなんてどうでもいい。心の底から相手を心配しているわけじゃない」
「自分の満足だけなんだ」
「利己的善行だ」

「こういうことをしてる人間って、けっこう多いと思う」
「むしろ、まったく快楽なしに人を救う者なんていない」
「でもそこが問題なんじゃない。どんな生き物だって、自分が満足したくて生きてる」
「充実こそが人生最大の目的だから」
「じゃあどうして、充実の手段がキレイさにしかないのか…」

単語を吟味しながら、ゆっくりと考えを練る。
言葉は空に広がるようでいて、その実、自らの内奥をさぐる見えざる手だった。

「…それはやっぱり、共同体に認めてもらいたいからだ」
「皆にほめてもらいたい。好いてもらいたい」
「人気者になりたい。ちやほやされたい。いい評価が欲しい」
「…居場所が欲しい」

そうか。
そうだったのか、俺。
心のつぼみが開いていく。
愚劣の花が咲く。
悲しい半面、心地よい告白。懺悔に似ていた。
知らず、涙があふれた。

「どこかの誰かになりたかった。自分が、不器用だということを思い知っていたから」


――瑚太郎(対話)

天王寺瑚太郎は篝との対話を数え切れないほど行っています。それは二人の間の線引き、安心を得るため――――つまり相互理解を目的としての行いです。しかし瑚太郎の対話は数多く失敗し、その目的を達成することは果たせませんでした。

天王寺瑚太郎は篝に好意の言葉を向けることで対話を行おうとしていました。そうして瑚太郎は対話をする目的が相互理解などではなく、もっと他の理由もあることを知ってしまいます。それは相手が好きだから対話をするのではなく、自己満足を得るためだけの利己的善行として――――自己満足の範囲内で人助けをするように――――篝のことを気にかけているかのように対話を試みていました。

なぜ多くの人間は、利己的な善行を行うのでしょうか。その理由は自分が快楽を得るために、何の見返りもなしに善行を行う人はほとんどいないでしょう。多くの人は善行の陰で、どこか他者からの見返りを期待しています。

善行の中で人はどのような見返りを求め、そして得ているのでしょうか。それは共同体からの承認欲求――――それは居場所を得ることです。褒められる、好いてもらえる、人気者になる、ちやほやされる、良い評価がもらえる。ありとあらゆる方法で共同体から承認されたい。それが善行の本質が、利己的であるという理由です。多くの人は誰かに認めてもらえることで、居場所が欲しいと思う、自分の満足だけで人生を生きているということみたいです。
それはつまり、瑚太郎は本心では自分のことが一番大事だから、相手を心の底から心配するような、 誰かを好きになるという気持ちは持ったことが無かったのでした

ではなぜこのような醜い告白を聞いた篝は、殺意と無関心以外の――――明確な意識を瑚太郎に向けたのでしょうか。それは美しくないものこそが、命だからです。

地球は汚い。
誰が言った、美しい地球だなんて。
うつくしくねーよ。よく見ろ。
どいつもこいつも利己的で。
霊長たる人間が、美しいはずもない。


――瑚太郎(対話)

利己的な命の溢れる地球は、美しくない。それはもちろん、瑚太郎自身だってそうです。でも瑚太郎が醜いということは、それは命があるということであり、そんな醜い瑚太郎の意識は現象としての鏡像ではなく、本当は人間独自のものなのではないでしょうか。

現象とは法則であり、規定されたとおりの作用をする法則は、美しさとも呼ぶ完成されたものです。だから現象であるならば瑚太郎はこうも醜いはずはなく、その醜さが瑚太郎は単に現象としての存在だけではないことを表しているのではないでしょうか。つまりこうです。篝は現象としてではなく、人間としての天王寺瑚太郎を愛していたのだ、と。









純然で透明な絆

以前に比べて、篝は俺を許容している。
とはいえ、急に接近したりすると、篝は敵意を向けてくる。
今、3メートルほど横に座っている。
ちょうど巨大用紙のすぐ外だ。
ここなら篝も気にしない。
もっと接近しようと紙を踏むと、攻撃されてしまう。
紙を踏む、という行為自体が敵対行動とされているらしい。
停滞していた。

―中略―

篝を手伝えたら…と思わなくもない。
言葉が通じないことがもどかしい。
だがそれは、演技も、腹芸も、綺麗事も、嘘も、すべてが排除された間柄ともいえる。
純然たる関係性。
とても大切なものに思えて、充足感さえある。
今の篝との距離は、言葉のうまさで勝ち取ったものじゃないからだ。


――瑚太郎(三杯のコーヒー)


今の距離だって、あれほど苦労して認めてもらった。
たった三杯のコーヒーが、最後の壁を壊してしまったというのか。

言葉は通じない。
動物が興味あるものを監視するように、篝は俺に視線を固定していた。
それを非人間的な関心とでも呼ぶのか?
関心であるなら、どんなものだって嬉しいと思った。
未知なる理論が紡がれる、青く小さな四辺の王国に、ついに俺は招かれた。

あまりにも小さな国。
だけど見ろ。
この小王国には、嘘も見栄もない。
自分をよく見せようとする、虚栄の心はない。
透明の絆が、俺たちの間に渡されていた。
それは蜘蛛の糸よりも細く、今にも切れてしまいそうだった。

…切りたくない。
今なお、篝との間に特別の関係はない。
友情でもなければ恋愛でもない。家族とも違うだろう。
世の中には、俺たちよりも深い関係を築いている連中はいくらでもいるはず。
なら俺と篝の関係は、それらに比して劣るものなのか?

…いいや。
いいや!
これだけのものが、言葉なきふたりの間で、どれだけ尊いか。
俺はそれを誰にも否定させないだろう。


――瑚太郎(三杯のコーヒー)

瑚太郎の利己的で独善的な、けれどもそれは人間らしいとも言える告白から得られた、二人の間の線引きはどのようなものだったのでしょうか。言葉は通じず、最初の目的であった対話は成立していません。理論に足を踏み入れたら攻撃されてしまう上に、そこで停滞している距離です。それでも利己的なものや醜いものは排除された、純然たる関係だからこそ、瑚太郎にとってはとても大切なものだと思えています。

そして三杯のコーヒーで得られた関係はどんなものでしょうか。相変わらず言葉が通じないことには変わりありません。しかし瑚太郎は、理論の描かれた小王国についに招かれました。
その王国も、そして篝もまた、純然さしかありません。それは線引きなどではなく、糸のように渡された透明な絆です。虚栄もなく純然で、線引きされた距離ではなく紡がれた糸のような絆。その関係は特別でもなければ、深いわけでもなく、切れそうなくらい細々しいものです。

ではほかの関係と比べて、この二人の関係は劣るものなのでしょうか。それは劣るものだったとしても、否定するものではないはずです。なぜならどれだけ切れそうで、弱々しくて、他の人と比べた関係ほど深くなかったとしても、言葉がなくても、でも嘘偽りもない。そんな純然さと尊さを持った二人の関係が、どうして他人に否定されるのでしょうか。
尊さとは、比べるようなものではないのでしょう。今の二人の関係は、深くはなく切れそうですが、同時に切りたくない関係、尊いと思えるような絆が紡がれています。

わずかな誇りのために、命だって賭けてしまうだろう。
(…答えを、見つけた)
このことを確認できただけで、俺はいくらだって自分を救える。

なぜ人であるときにここに辿り着けなかったのか。
もう少しくらい、うまくやれたはずだ。
ようやくどこで間違えていたか、わかった。


――瑚太郎(三杯のコーヒー)

瑚太郎は誰とでも話せました。しかし親友と呼べる存在はおらず、自分の人生は薄っぺらいものだったと、他でもない彼自身がそう言っていました。それは瑚太郎が結局、利己的善行の中でしか生きられない、ちっぽけな生き方しかできなかった人間であったことが言えます。だけどここではそのために命さえ賭けてしまえる、それは利己的な醜さの排除された――――もしかしたらそれは利他的と言えるかもしれない、そしてどこかで瑚太郎が求めていたものだったのではないでしょうか。

俺は誰とでも話せた。どんなヤツとでも
でも親友はいなかった。ただのひとりも。
それがどういうことだか、考えるまでもない。
俺の人生は、ひどく薄っぺらいものだった。


――瑚太郎(プロローグ)

誰とも話せても、誰とも関係を持てなかった、どこかの誰かになれなかった瑚太郎の人生は、ひどく薄っぺらなもので、幸せな人生を歩めていませんでした。では幸せって何だろう。プロローグでの問いに対する、その答えがようやくここで出たみたいです。瑚太郎はようやく、望んでいた幸せの答えを得られたのかもしれません。









愛という超高位概念


もしこの宇宙に神というものがいるなら、そいつはとてつもない苦痛の中に生きているはずだ。
知性は自らの孤独を浮き彫りにする。
絶望と、物理の無情から目をそらせなくする。

人間とはなんと幸せなんだ。
万物が見えないということで、どれほど救われていることか。
人は愛さえあれば救われる。
だが神は、愛だけでは救われない。
その理由を説明するなら…

「愛とは遺伝的本能に基づく繁殖ないしは承認欲求に後天的に付与された、文化概念のひとつに過ぎない」
「愛によってヒトは番との間に局所社会性を構築し、維持できる」
「愛は人が感情と呼ぶ内分泌代謝に依存しており、原始的文化とみなせる」
「カルダシェフ分類によるⅠ型文明において、愛は絶対的な価値判断基準として機能する」
「このことから、愛の割合を調査することによって、対象文明の文化水準を高い精度で算出することが可能だ」
「地球人類の文化水準では、愛という概念は神聖視されやすいが、その本質はしょせん…」

…言うな!
両手で口を押える。
今、俺は諦念に支配されそうになっていた。

(何を支えにして…冷たい宇宙で…生きていけばいいんだ…)

知性の高まりは、見たくもない現実を否応もなく直視させる。
あらゆる錯覚は否定され、欺瞞は暴かれる。
いかなる純真も愚鈍と見分けがつかなくなる。


――瑚太郎(ミラクル大冒険)


人の心が機械仕掛けだとしたら、尊いと思えるだろうか。
解き明かされた秘密が、神秘でいられるだろうか。
人間がひどく価値のない存在に思えた。

…寒い。
好奇心を満たすことだけが、今は価値ある行為だ。
少なくともわからないものは、上方にしかない。

――瑚太郎(ミラクル大冒険)




五度目をのぼる途中で、唐突に愛を見つけた。
小さなカケラ。
愛の概念が、こんな高い位置に置かれていたことが驚きだ。
低位の感情、脳の錯覚だとばかり…
愛はかつて上にあり、そこから一部が落ちてきたようだ。
このことは、愛がとても重要であることを意味する。

信じられない。
手にとって、吟味してみる。
理解が広がる。

…愛がない知性だけの命では、広がれない?
…ああ、自己犠牲の精神か…
…だが…
…そもそも、なぜ広がらねばならない?
………………
…そんな理由で?
…え、これって正しいのか?嘘みたいだぞ?
…そんな優しいものなのか?
…神なんてどこにもいないのに?
…その優しさの主体は…どこから来る?
………構造…が…?
…結果論じゃないか…
…でもそれが…真実?

…愛って、そうなのか?
…それでいいのか?
…嘘だろ…
…根はどこにある?
…はじまりは…
…あ、これ…第一章完って書いてあるけど…
…第二章はどこだよ?
それは、恐ろしく高い場所に保管されていて、届きそうにない。


――瑚太郎(ミラクル大冒険)



研究が進むごとに、篝には疲労がたまり、外見にもその綻びが見えるようになっています。その様子を見ていた瑚太郎は、少しでも篝の研究を知りたいと思い、意識と理解を引き上げることを実行することにしています。それは瑚太郎が知識を得るということであり、そして感情というあたたかささえ、薄くなってしまう行為でした。そして自分が今までの自分でいられなくなるかもしれない、そんな行為でした。

瑚太郎は2回目の知識と理解力の上書きにより、愛とは何かを論理的に獲得しています。ようやくここで、瑚太郎は愛とは何かを知ることができたみたいです。
ここで瑚太郎が言いかけた結論は、愛とは文明の指標に過ぎず、文明が先立ち後天的に価値を付与される概念であって、その本質は愛とは文明水準の構成要素でしかないということでしょう。だから愛とは、高位の概念として神聖視されやすいですが、カルダシェフ分類における地球レベルの文明においての――――文明という概念の中において文化の一つとして後天的に発生して組み込むことのできる――――低位の概念でしかないことに瑚太郎は気づいてしまったのだと思います。

しかし瑚太郎は、この知識の跳躍だけでは篝の研究を理解できず――――ここではヒトの感情のほとんどを物理の機能として理解していますが――――瑚太郎の人としての自我が変質する恐れがあります。しかし篝が神々しい知性の陰影であり、未知の神秘の存在だから、そんな篝に対する愛おしい気持ちだけは変質しないかもしれず、自我を保てるのではないかという救いのような気持ちから、篝のためにさらなる知識の跳躍をしています。ここで瑚太郎は自分が自分のままでいられる、篝に対する気持ちが維持できると確信のようなものを感じていたのは、篝に対する愛という感情は低位の概念ではないことを、どこかで感じずにはいられなかったのかもしれません。


そして瑚太郎は5度目の跳躍の途中で――――ちなみに3度目の跳躍でノーベル賞が無数に落ちていました――――愛という概念をここまでの高い位置にて発見しています。ここで瑚太郎は、2回目の跳躍の時点で理解したと思っていた愛――――低位の感情、脳の機能活動或いは錯覚――――について、その愛の概念の落下した一部がさらにそこから落下してきたさらに一部でしかなかったということに気づいています。つまり瑚太郎は、愛というものについては最初から、そして高度知性跳躍による高位知性の獲得をするに至っても理解などできておらず、知らなかったものになります。

この5度目の跳躍で見つけた愛の概念は第一章完となっていて、続きもあり、その続きとなる第二章は恐ろしく高い場所に保管されているみたいです。それは瑚太郎がノーベル賞の発見を超えた先で見た愛の概念は高位のものであったとなりますが、それでさえもさらに15回の跳躍以上が必要な高さから零れ落ちたものに過ぎませんでした。
そこから明かされたことは、愛がないとヒトは拡がれない、愛が世界の始まりから存在していたという事実です。高度で情報の上をいく概念、それが愛という高位概念なのだと言われています。

いつの間にか瑚太郎は、知性を得るための跳躍から、愛という概念の解明のための跳躍へと目的が変化しています。それは瑚太郎が、篝を愛することから知性への跳躍の決意が始まり、愛という概念が論理・定式化される恐怖に反して愛はより概念化し、恐怖は興味へと変貌を遂げるまでに至ったのでしょう。だから知性探求を捨ててまで、概念探求へと愛を論理化という形であったとしても、愛を知りたいと思ったのでしょう。

纏めますと、瑚太郎は終始愛を知らなかったということになります。2回目の知性向上で、愛を機械仕掛けのものとして理解したつもりだった瑚太郎は、5度目のさらなる知性と理解力の向上により、愛を理解していなかったこと、そして愛は到底理解不能だということ、そのうえで愛は重要であることをを知ってしまいます。ノーベル賞やあらゆる概念を超えた、愛の理解は知性だけでは限界が発生する、超高位概念だということがここでは強く示されています。瑚太郎は、愛というものをずっと知りませんでした。

そんな愛について、瑚太郎はとても興味を持ち、知りたいと思っていたのでした。でもなぜ、瑚太郎はここまで愛にこだわるのでしょうか。それはまさに、瑚太郎が篝と出会って得られた答えが、ここでも同じようなことが言われています。


「俺はただ…あんたと同じ場所に行きたいだけなのに…」


――瑚太郎(ミラクル大冒険)

瑚太郎は居場所が欲しいと願っていました。そして今、瑚太郎は篝という存在によって、居場所を手にすることはできました。しかし瑚太郎が気付き望んだ関係は、深いのではなく尊い関係。利己的ではなく、命を賭けてもいいという想い。だから瑚太郎は居場所が欲しいという願いだけではなく、篝と同じ場所にいられることを望んでいました。それが瑚太郎が篝との間で結ぶことのできた尊い関係、愛するという気持ちなのではないでしょうか。
瑚太郎は篝を愛していたから、篝への愛は決して否定させない、神聖なものであることの証が欲しかったのかもしれません。

ただし神聖なものは、知識と理解力の向上だけでは辿り着けない領域、それが愛というものが超高位概念である証拠なのでしょう。









愛は上方ではなく、“そこ”にあった


上書きすればするほど、理解できないものが増えていく。
そして――

壁が現れた。
天井と呼ぶべきか。
絶対的に理解不可能なもので、上方は埋め尽くされていた。
岩盤みたいだ…
上書きを何百と行えば…あるいは…
でもその時、俺は存在していられるのか?

(そうか…ここまでか、人の限度は)
(これっぽっちなのか、人の可能性は)
(なんだ…)
(でも…)
(わからないことがあるから、希望を持てるのかもな…)
(すべてを理解してしまったら、つまらなくなる)

(篝に会いたい…)

憑き物が落ちたかのように、俺はすべてを諦めることができた。
しょせんは薄っぺらい向上心に付け焼き刃の好奇心だったということだ。

(調子に乗って、予定よりも多く跳躍してしまった)
(戻れるかな…)

梯子の下を見下ろした。
そこにはもう、何も見つかりはしない。
『下』さえもない。
地に足をつける必要がなくなった俺は、もう下を見つけることもできないのだ。
人間感覚を消失してしまったから…


――瑚太郎(ミラクル大冒険)

瑚太郎は愛を知りたいと思い、より上へと知識跳躍を行い続けました。しかし跳躍を行えば行うほど、理解力は向上しているにもかかわらず、理解できないものは増え続けるばかりでした。知性と理解力の上書きにより愛を知ろうとした瑚太郎は、結局硬質な理解不能の壁に突き当たってしまい、愛を知ることは叶いませんでした。

瑚太郎は戻りたい、篝に会いたいと願っています。愛とは理解不能で、だから篝との居場所が尊いということを再認識したのか、篝のいる丘に戻りたいと思っています。しかし、愛を知りたいと思った探求は限界と壁に突き当たって知ることはできず、諦めて篝との居場所に戻ろうとしたときには、その場所に戻る帰り道さえ分からなくなってしまいました。瑚太郎は愛を知りたくて、でも愛は上に行くことで知ることはできなくて、かつて下で得た愛おしい居場所まで失ってしまいました。

(…悪い篝、手伝えそうにない…)

心で詫びた時、腰のあたりに命綱が結びついているのがわかった。
綱ではない。
ほとんど色素を失い、透明化しつつある…それはリボンだ。

(これ、篝の?)

でもなぜ、篝の切れ端が俺に?
リボンを辿ると、ずっと遠くまで続いている。
その先に、灯火が見えた。
燦然と輝く、暖炉を思わせるぬくもり。

(あれは…?)

そこに戻りたいと願った。
急速に体が引っ張られた。
下方に!
万物の頂が遠のく。
未知であることの雲間を抜ける。
眼下に丘が見える高度まで、一気に引き戻されていた。
丘には篝が立っていた。
俺を見上げている。
叡智の輝きに、全身をぼんやり発光させて。

…戻ってこられた。
そして俺は、元あった肉体へと巻き取られていくのだった。
目の前に、篝の顔があった。


――瑚太郎、篝(ミラクル大冒険)

愛を上に探した結果、元の愛しい場所さえ見失った瑚太郎ですが、その腰に巻きついていた命綱、それはリボンでした。篝を大切に思う気持ちに気づいたとき、その瞬間にずっと命綱としてリボンがあったことにも気づいています。愛を知らず、愛を得ることもできず、理解しようとしても見つけられず、たくさんのものを失ってきた瑚太郎。究極の知性跳躍を行った結果、愛は概念として遥か上方にあるように思えますが、愛は上に行かなくても、確かに“そこ”にありました









唯一の尊さ

一切を解析し尽くしてしまえば、胸が高鳴ることがなくなる。
誰かを好きになって、がむしゃらに生きる理由さえ失う。
あのまま上に進んでいたら、救いのない領域で、自覚なく散っていただろう。
二度と復活することもなく…
俺にはここで、やるべきことがあった。
篝は俺に膝枕をしてくれていた。
その頬に手を伸ばす。

「助けてくれたな…」
「…」

相変わらず言葉は通じない。
でも、いいのだ。

たとえ星に情がないとしても、慕い、すがらずにはいられない。
ましてや篝には心がある。
俺はあると感じた。
ただ同族がいない故、未発達のままなのだ。
なら俺が…
俺だけが…

「もう寂しくなくなった」
「もう迷いも、なくなった」

――中略――

篝は俺の言葉などわからないのだろう。
変わらぬ面持ちで、俺の顔を覗き込んでいる。

「学者の真似事はここまでにするよ」
「篝の仕事を手伝いたいんだ」

少女は顔をほころばせた。
俺には乏しい知性しかないけれど。
長い迷路を抜けることだけはできた。
いつだってそれだけが唯一の、尊さだったんだ。


――瑚太郎、篝(ミラクル大冒険)

瑚太郎があのまま上に行っていたとしたら、きっとすべての解析――――それは知性跳躍と理解力向上が、愛を知るためという手段から上方への執着という目的化を意味していて――――により、人間感覚だけではなく、その自我さえ人間のものから遠ざかり、喪失という形をとることになります。それは人生の目的が機械化されているかのようです。

瑚太郎は誰かを好きになって、がむしゃらに生きたいと、それが彼の人生観で、そして充実です。だから唯一の尊さとは、このことを言っています。乏しい知性であっても、理論の記憶、概念探求を経て、それが最も尊かったのだと、最初から知っていたのにもかかわらず、気づくのはこんなにも遅くなってしまいました。

篝には心があると瑚太郎は直感で確信しています。知性も乏しく、篝の研究において手伝えることがあるのかさえ分からない瑚太郎ですが、それならば俺だけがというのは、瑚太郎だけは篝の何になろうとしているのでしょう。

ちょっとした思い付きを得た。
篝とは対話できない。
だが意思の疎通はできるかもしれない。
数によって。
わかりやすいところで親和数が良いだろう。
自分以外の約数の和が相手側と等しくなる数のペアだ。
全然違う数なんだが、数学的に見るとなんとなく親しげな印象を持つ。

メモ用紙を二枚取る。
それぞれに「284」「220」と書く。
篝の肩を指先でつついた。

「…?」

284のメモを渡す。
それだけならどうとでもない数だ。
篝が顔を上げた時、自分用の「220」を見せた。

(どうかな…?)

しばらくは無反応だった。
主観時間でほんの三ヶ月程度だ。

「………っ」

篝は――なんてことだ――頬を赤らめて、うつむいた。


――瑚太郎、篝(アウロラの奇跡学)

瑚太郎は意思の疎通相手、それは篝の自我に影響を与える誰かになりたかったのかもしれません。自我が未発達なだけの知性存在であるのなら、理論を通した意思疎通で、自我の対話への間接的な橋渡しを行っています。親和数とは別の言い方で「友愛数」とも呼ばれます。もしかしたら瑚太郎は、ここでは篝へ愛を伝えることで、影響を与えたかったのかもしれません。

篝には概念としての愛は存在したのかもしれませんが、瑚太郎のような尊さとしての愛は存在していなかったはずです。だから瑚太郎だけではなく篝も同じく、愛とは何かを知りませんでした。それでもこの親和数という理論から愛を感じ取れたというのは、瑚太郎の言うように心があり、知性としての現象存在でありながら、その本質は自我の発達により愛というものを理解だってできる、それは確かに親しめる人間のような心のある存在だということが示されています。それは確かに、尊いものなのかもしれません。









理論図に託された、愛とメッセージ

主観時間で何万年も停滞していたらしい。
周囲の様子をうかがう。

篝が直立していた。
今までと雰囲気が違う。

(…推移したか?)

歩み寄ってみる。
足下の理論図が、大きく変化していた。

「こ、これ…!」

地面に手をついて、よく見直す。
大樹の枝部分がぼんやりとした靄のような状態になってしまっている。

「…不確定になってる」

従来の枝ぶりでは、生命生存の可能性は0だった。
今は、わからなくなっている。

――瑚太郎(大侵攻)


見上げる篝の表情は、魂が抜けたように憔悴している。
いくら枝を伸ばしても求めるものは見つからなかった。
暗にそう語っているようだった。
篝は、妥協したに違いなかった。

「…そうか」

責める資格なんて俺にはない。
大切な、篝が決めたことだ。
ともに受け入れるだけだろう。

――瑚太郎(大侵攻)

篝が完成させた理論図、それは生命の可能性が不確定になっています。しかし今までは0だったものが、0に限りなく近い、に変わっただけです。それは数学的には不確定要素であったとしても、現実的には0と何ら変わらないものでした。それでも篝はここまでの可能性に至るまでの苦労を知っていて、それに“大切な”篝が決めたことなら受け入れられると思えた、それが瑚太郎の篝に対する気持ちでした。

「…記念に、メッセージを書いてもいいかな?」
「…?」

「理論には影響しない。言葉を書き添えるだけだ」
「人間はよくこういうことをするんだ。二度と戻らない衛星に、記念に名前を書き込むとか」
「………」
「こういうのだ」

理論コピーを取り出し、そこにコメントを書き加える。


『いつかまた君と会いたい。天王寺瑚太郎』

――瑚太郎(大侵攻)



篝は大きく目を見開いて、四つん這いになった。
俺のコメントを凝視している。

ずいぶん熱心に見ていたが、やおら指先でサインに触れた。
デリートするのかと思ったが、違うようだ。
情報量が瞬時に膨れ上がる。
10兆倍、20兆倍…
俺のサインを起点に、新たな小理論を作っている?

そうやって作ったプログラムを、篝は大樹に植え付けた。
もう何をしているかさえ俺にはわからない。
ぽかんと口を開いて、黙って見守る。
プログラムが走り、大樹に変化が現れた。
樹冠をぼかしていた霧が晴れ、枝が露出する。
すべての枝が枯れかけていた。
命の色に乏しく、くすんでいる。
ところがそのうちの一本が輝き…なんと急成長を始めた。
俺は立ちすくむ。
枝は果てしなく伸びていく。
信じがたいほどの急成長だ。
たちまち枝が太くなり、新たな幹ほども育つ。
いや、そんなものじゃない…
大木から伸びた枝が、元の数十倍の太さになった。いや、さらに…!
それはもう樹木ではない。
命の激流…大海のようなものだった。
幹はさらに果てしなく増殖し、篝の理論でさえも記述できないほど未来側へと伸び去り、不確定の雲間へと消えていく。


「すごい…やった…やったぞ!」


――瑚太郎(大侵攻)

なぜ命の理論は爆発的な拡大と膨張を見せたのでしょうか。瑚太郎が書き残したメッセージで、それは大切な篝の理論図に対して書きつけられたもので、そして大切な篝へのメッセージでもありました。それはもしかしたら、愛と呼べるものなのかもしれません。
この図で解説を補足しますと、圧縮されていますが◼︎(四角状)に見えるもの、それが『いつかまた君と会いたい』という、瑚太郎から篝へのメッセージです。

そして命の拡がりについて高位概念からの補足もあります。瑚太郎の愛の概念探求において、愛は世界の始まりと共にあり、そして人が広がるためには愛は必要不可欠だということを理解していました。だから、愛の概念が命の拡がりの原動力でした。
そのことについては抽象的でひと欠片でありながら、5度目の跳躍の途中という、極めて高位からその一部を読み取っています。

篝と理論図に足りなかったもの、命の拡がりに必要だったもの、それこそが「愛」でした。瑚太郎が最後に愛を付け加えたことで、不確定で衰退の運命を辿るはずだった命は、確かな命へと変わることができました。

しかし命の理論の完成とともに、瑚太郎と篝は別れることになります。篝の秘めていた感情、その真実から地球に命を返す必要があったからです。









好きになるということ、愛するということ

(…感謝を…)
(…感謝を、天王寺瑚太郎…)
(…利己的な私を、愛しんだ者…)

いいんだ
そんなことはどうだっていいんだ
好きになるってことは、そんなことじゃないんだ


――篝、瑚太郎(誰も知らない真実)


篝は双子で…
栄えたのは…母なる星だけだった…?
だけどそれは、一度…失敗している?

やり直しが間に合わないことはわかりきっていて…
だから…
月が、手を伸ばした?
そして…
可能性を…

(…でも、それは許されないこと…)
(…認めてはいけない感情だった…)
(…でも私は、やってしまった…)
(…奪ったものを返して、それで私は無に帰る…)
(…必要な夢はもう見たから…)

待ってくれ!
もはや俺に声はない。
体がないのだ。
俺という自我さえも薄れている。
そもそも俺という個我でさえ、最初から理論の一部で…!
そんなことはどうでもいい!
全霊をもって叫ぶ。

篝!


彼女はそこに立っていた。
ひとりぼっちで立っていた。
俺たちを送り出し、自分は残る。
自然な状態に戻った。
この天体に最初からいたのは、彼女だけなのだ。

(…寂しさに耐えなければならない…)
(…記憶があれば、それができる…)
(…私はそれで満足…)

恨まなかったのか?
憎まなかったのか?
たとえ未来が滅びても、俺たちをずっととどめることもできたはず…
なのに地球に返すというのか…
ばかだな…
愚直すぎるんだよ…
それを…愛と言うんじゃないか…


――篝、瑚太郎(誰も知らない真実)

瑚太郎にとっての好きになるということは、利他的であればいいというわけではなく…それは誰かが何かを与えてくれることではなくて。居場所をくれるというのは、それはただ一緒にいてくれるだけで良くて、他には何もいらないのでしょう。瑚太郎はずっと篝という存在に導かれていました。ヒナギクの丘で篝がいてくれたから自分のやるべきことが見えて、篝が傷つきながらも命の理論の可能性を探っているのなら、それを手伝うことで篝を助けたいと思っていました。
好きになるとはどういうことなのか。そのことについて多くは語られませんが、瑚太郎がこうして篝と歩んでいたということが、それが好きになるということだったのかもしれません。

篝のいる月には人は誰もいなくて、それなのに地球にはたくさんの人がいました。篝はずっと月に独りで、そんな自分の運命を憎まず、地球の人のことも恨まないどころか、篝はずっと人の命が生きられる可能性を探していたことが、瑚太郎にとっては自分がいた場所が月であること以上に驚きだったみたいです。瑚太郎は独りでこの場所に現象として閉じ込められた運命を呪い、そして自暴自棄の果てに地球や命を恨んでいましたから、篝の本意を明かされたとき、篝のことを本当に愛おしく思ったのかもしれません。

瑚太郎は愛を知り、篝を愛おしく思う気持ちから、篝のためなら命を賭けてもいいと思っていましたし、篝のために研究を手伝うことも厭わない気持ちでした。篝が続けていた研究も、月からは見つめることだけしかできない、地球の命の可能性を探してあげたいという気持ちでした。ただ無条件に篝を愛したいというこの気持ちをここで知った瑚太郎は、篝のその気持ちもまた自分と同じ無条件の気持ちなのだと、今なら理解できるのでしょう。それが、愛なのだと。

理論の完成と共に瑚太郎は声を失い、身体も失い、自我さえ薄れつつあります。そしてその子がさえ理論の一部だから、その消失には抗えません。では愛する気持ちも同じなのか?そういった理論とかには関係のないものだから、瑚太郎はただ叫んでいます。そんなことはどうでもいい!全身全霊で!篝の名前を!愛とは理論で語れるようなものではないのだから!

思えば、愛というものが理論で語れないのは当然でした。瑚太郎はもともと現象の存在で、自分の存在意義を知覚していませんでしたが、やがて加島桜との出会いから、自分の存在理由を知っていました。そして愛とは、見返りで成り立つ物質のようなものではなく、ただ尊いものでした。

「最初は、篝を守るために呼び出されたんだと思った」
「でも、どうも違った。俺には俺の役目があるみたいだった」

―中略―

「数多の鍵の振る舞いが篝として表出したように、俺もまた、あいつに対する反作用として現れたんだ」
「そう」
「…俺は、篝に対する反作用そのものなんだ」
「救うつもりが、殺す側だったとは笑えるよ」


――瑚太郎、加島桜(篝の負傷)

瑚太郎の本当の役目、それは篝を助けることではなくて、篝を殺すことが瑚太郎という現象の本来の存在意義でした。もしも愛が理論ならば、瑚太郎も現象としての存在意義に則り、ただ篝を殺すだけの現象にしかなり得なかったはずです。これは瑚太郎という現象が理論でしかないからこそ、愛は理論を超える、愛は理論を変えてしまうほどの力を持った神聖なものなのだと、そのことをただ強く訴えていたのでしょう。

せめて願う…
もしもいつか、空に辿り着くものあらば…
月にいる少女のことを、見つけてやってほしい…
たった一人で、うずくまっている彼女のもとへ…
立ち寄ってみて欲しい…
魂から…願う…


――瑚太郎(渡りの詩)

篝は元の孤独に戻ることになります。命とは根源的に孤独なのだという篝に対し、瑚太郎はそれは寂しい、とても寂しい考えだと言っていました。だから瑚太郎は、その真実を誰も知らない、月にいて人々の命のために孤独と戦い続けた、そんな少女のことを見つけてほしいと、それが最後の願いでした。

ただし想いは消えなくても、その想いを書き残すことはできず、消えていってしまいます。では瑚太郎の想いもまた消えていってしまったのか?その答えを先に言いますと、地球に瑚太郎はその愛を、篝への気持ちを忘れることはありませんでした。
そのことについて、これから地球での瑚太郎の様子から少しずつ見ていきたいと思います。









星を救うためではなく、愛していたから


「あなたは何なのですか!」
「味方のつもりだ」
「篝を翻弄し、どうしようというのですか!」

「俺があんたの手伝いをするのは、星を救いたいからじゃない!」
「単に、あんたに惹かれたからだ!」
「特別な居場所を、与えてくれると思ったから」
「だから、こういうこともする」

「理解できません」
「あなたはホモ・レリギオス(宗教するヒト)として、篝を崇拝していたと言うのですか」

「違う、崇拝じゃない」
「惹かれているってのは」
「…好きってことだ」


――瑚太郎、篝(Terra)

地球での瑚太郎は、ずっと星を救うために動いていました。でもそれは、星を救いたいという大きな野心からではなくて、本当はただ愛する篝のために動いていました
だから瑚太郎にとっては星の救済も環境問題も実はどうでも良くて、ただ篝を愛していた。ただそれだけのことでした。

愛が崇拝と違うのは、崇拝のように絶対服従ではなくて、本当に篝のことを愛して想うからこそ叱ることもありますし、その想いから命令に逆らうようなこともしてしまいます。それは崇拝が、愛とは異なるものだということになりそうです。


愛という話から少し脱線しますが、誤解のないように補足があります。瑚太郎の愛は、すんなりと受け入れる簡単な展開がこの後にあるわけではありません。むしろもっと壮絶なものでした。崇拝とは違う感情を向けられた篝は、その後瑚太郎を突き放しています。

「ならあなたの助力はいりません」
「篝の前から立ち去りなさい」

「それも断る」

俺はまた唇を寄せた。
既成事実。そんな単語がちらつく。
だけどそれは、人間同士のルールであることを忘れていた。

「…であるならば」

触れる寸前、強い力で突き飛ばされる。
尻餅をついて、地べたから篝を見上げる。

「篝が去るまでです」

言葉通りに、篝は俺に背を向けた。
止めることができなかった。
目に圧された。
失意と決意の混在した目は、一個のヒトとしての尊厳に満ちていて、俺に篝を尊重させた。


――篝、瑚太郎(Terra)

篝は人類を愛していて、人類を救うことを願っていました。それに対し瑚太郎が抱き続けたのは、個人に対する感情でした。それほど親しくなくても、たとえ人類の滅びが関わっていたといても、それでも関わりのあった人のことは切り捨てられませんでしたし、そのうえさらに篝に向けた感情でさえよこしまな、そして同じく個人への感情でした。

特定の個人のために軽率な行動を繰り返し、そして篝の感情さえ乱す行為をする瑚太郎を、篝は突き放しています。人類全体の大きな幸せを願う篝と、個人のささやかで小さな幸せのために動く瑚太郎。篝からしてみたら、どちらのほうがより崇高に思えるでしょうか。小さな幸せのために滅びが起こってしまうのですから、それは篝の目には、瑚太郎は狂っているようにさえ映っています。人類愛と、個体への愛。それらは同じ愛と呼ばれますが、それでも異なるものです。

つまりここでの篝もまた、愛というものを知らず、そして信じていなかったのです

篝のこの意志は、瑚太郎には到底受け入れられないものなのでしょうか。しかし篝には感情が芽生え始めていて、そして確かな決意で動いているのですから、それは人の尊厳と同じくらい尊重するべきものだと瑚太郎は思っているみたいです。だからこれだけは、どれだけ篝を想ったことであったとしても、逆らうことはできず、瑚太郎は尊重しています。

瑚太郎がどんなに篝を愛していても、篝には知性とは異なる感情が芽生え始めて、その意志で決めたことなのですから、自分がただ一方的に愛するだけではなく、相手の意思も尊重することが、それもまた愛みたいです。

その後の瑚太郎はどうしたのかというと、嫌われているので近づくことはできなくても、それでも篝のために手伝いをすること、陰ながら助けるためにずっと動き続けることを決めています。瑚太郎は報われなくても、愛しているから。篝の願いを叶えるために、星を救うための良い記憶を見つけるため、命を賭けてでも、独りになってでも、戦い続けることにしました。


では、補足の部分はここまでにします。なぜ瑚太郎は、ここまで篝のことを愛していたのでしょうか。それは、本当は月で抱いた篝への愛が、実は途切れていなくて、想いが受け継がれていたからです。









篝火のように、ただ惹かれていた

…でも俺は、どうしても篝に会いに行かなきゃ。
会いたいんだ。とても。
言われてみれば、不思議なことだ。
俺はどうして、こんなにあいつのことが気になったんだ…?

そういうものだ、と言い捨てるのは簡単だ。
だって本能なのだから。
でもこの気持ちは、どこか懐かしい…
ふと、胸の奥に埋もれたしこりを感じた。
過ぎた上書きが、心と体を解きかけていた。
だからそれが見えた。
自分という存在の奥。
魂の奥に、それは引っかかっていた。
意識の腕を伸ばし、つかむ。
取り出した拳を、開いた。


それが何なのか、正確には読み取れない。
先天的に魂に紛れていた異物に過ぎない。
なのに、涙が出た。
込められた願いを感じ取ることができた。


灯火に羽虫が吸い寄せられるように。
生まれる前から、篝を求めていたんだ。

――瑚太郎、咲夜(Terra)


心に小さな火が灯る。
ああ、これだ、と思った。
求めていたもの。
ぬくもりであり、導きだ。
価値あるものだ。
   そうさ、俺の恋は…これでいい。


――瑚太郎(Terra)

瑚太郎が取り出した黒くて四角い、読み取ることのできない塊のような異物。それは月にいた瑚太郎が込めた、「いつかまた篝に会いたい」というあのメッセージでした。その想いだけは、例え解読できなくても、ずっと胸に秘めていたのです。月での瑚太郎の愛する気持ちは、地球の瑚太郎にも確かに受け継がれていました。
瑚太郎が星を救うことができたのも、篝の願いを叶えたいというただ愛する気持ちが、星の運命さえ変えてしまったことになります。

月での瑚太郎は、どんなに知性を上書きしても、愛を理解することはできませんでした。
しかし地球での瑚太郎は、大切な人を裏切り、たくさんの人を殺して、最後には魔物の姿になって、それでも最後には、たった一つ求めていたもの、尊いもの、どんなに知性を上書きしても知ることのできなかったものを、ようやく手に入れることができました。ずっとそのためだけに瑚太郎は戦い、動いてきました。それは報われなくても、価値のあるものでした

そんな篝を愛し続けた瑚太郎は、衝撃的な結末を迎えます。でもそれもまた、篝を愛していたからでした。









ただ好きだっただけ、だからこれは呪い



「え…どうして…俺?」

自分の決断とは思えない。
俺はずっと、篝に会うために頑張ってきたのに。

「お見事」

ひどいことをしたのに、どうしてそんな笑顔なんだ。

「ありえない…これは間違いだ…」
「俺は、呪われているのか?」

「呪いではありません」
「祝福です」

「違う。これは呪いだ…俺を苦しめるための…」
「何人、こうやって殺してきたと!」

篝に会いに来たのだ。
彼女のために、世界に希望を残した。
けど、救済を止めるためには他ならぬ彼女を手にかけるしかなく…
こんなものが祝福であるはずがなかった。


――篝、瑚太郎(Terra)

瑚太郎は篝の望み通り、良い記憶を篝に見せることができました。

環境問題という見方からすると、篝を剣で貫いたことは、滅びは回避されたので、これは祝福と言えます。しかし愛という見方をするとどうでしょう。ずっと会いたいと思っていて、愛している人を殺してしまったのですから、これは呪いです。しかし篝が望んでいることは、救済を止めるために殺されることです。篝に喜んでもらうためにはそうするしかなかったのですから、こんなものが祝福なわけはありませんでした。

篝を愛していて、愛している人の望みを叶える、喜んでもらえるために、愛しているから殺したくはないはずなのに、愛しているから愛する人を殺す。瑚太郎が辿り着いた結末、篝を愛するための正解は、それはどれが正解だったのかわかりません。人類を愛する篝にとっては、これは祝福でしょう。しかし篝という個を愛した瑚太郎にとっては、尊いものを失った、これは呪いと呼ぶ他なりません。しかしながら、それでも篝が瑚太郎に向けた面持ちは、懸命に頑張った我が子を見守る母親の顔で――

環境問題という祝福、愛という呪い。その二つの思想が、二つの感情を生んでしまっています。皆さんはこれを喜ばしい場面(=祝福)、それとも悲しい場面(=呪い)、どちらに受け取りましたでしょうか?

「これで…良かったのか?」
「可能性は残されましたよ」
「そうか…」
「俺はただ、あんたが気に入ってただけなのにな」
「気に入っていた?」
「好きってことだ」
「決して、友好的とは言えない関係でしたのに」

「そういう好きもある」
「………」
「この暗い場所で、あんただけが、無条件に眩しかった」
「気付きませんでした」
「あんた、鈍感だからな」
「報われない想いなど、虚しいだけのはず…」
「それでもいいんだ」
「馬鹿ですね…」

抱擁が強くなる。
篝の声が震えた。

「…個体の、くせに」


――篝、瑚太郎(Terra)


瑚太郎にとっては気に入っていただけ、好きだっただけ。報われなくても良かったのです。でもこれはどうでしょうか。ずっと報われず、そして今でも報われないままです。今まで報われなくても、それは尊いから瑚太郎は満足していました。しかし今はもうわかりません。篝の願いを叶えた喜び、篝を失った悲しみ、そのどちらもあるのでしょうし、他にもいろいろな想いが瑚太郎の胸にあるように思えてなりません。もう瑚太郎は、ただ篝が好きだったと、それだけが事実として残ったのでしょう。

そんな瑚太郎に、最後に篝が個体に対して、愛を見せます。個体の、くせに――今までずっと人類のことばかり考えていた篝が、初めて瑚太郎という個人を顧みた、愛でした

人類にとって滅びは避けるもので、未来を切りひらくことは喜ばしいことで。しかし瑚太郎は、個人のためなら滅びさえ受け入れ、人類の未来が残されたのにこうして少し寂しそうに篝のことを思ってくれていました。
どんなに見返りがなくても、篝という個を顧みてくれた瑚太郎のことを、いつしか篝は不思議と愛おしいと思うようになったのかもしれません。

だから篝は最後に、瑚太郎の馬鹿みたいに純粋でまっすぐな、そんなあたたかいものが愛だったということに初めて気づいたことに、篝は涙を流したのかもしれません。








君と叶えた約束




『いつかまた君と会いたい 天王寺瑚太郎』



もしもいつか、空に辿り着く者あらば…

月にいる少女のことを、見つけてやって欲しい…

ただひとりで、うずくまっている彼女のもとへ…

立ち寄ってみて欲しい…

魂から…願う...


――Rewrite「CANOE」


このCGは、瑚太郎が月に行く場面です。詳しく言うと、オカ研のメンバー5人の力を借りて飛躍できるのは、月までだという話ですが。

月にいたときの瑚太郎の意志(メッセージ)は、地球へと移されても形は変わってしまっても消えずに残っていました。そしてそれは、魔物になってしまっても、変わらないままだったのかもしれません。偶然かもしれませんが、それは同時に意図されたことなのでしょう。この理論さえも、星の運命さえも変える伏線となったメッセージ。そして瑚太郎がずっと心に秘められたのは、このメッセージが伏線となっていたからでした。その最後の伏線となる約束を叶えるため、瑚太郎は月に向かっています。月でたった一人、孤独なあの子のもとへ――







やっと約束が叶った。

いつかまた、君(あなた)と――


――Rewrite24話「君と叶えた約束」



物語が迎える最後の結末、この場面はアニメ版でのファンサービスで追加されたものですが、月で孤独だった篝と再会する場面です。ゲーム版では代わりに芽の周りを取り囲んでいるCGがありますが、あの芽が篝です。どちらにしても、瑚太郎は篝との『いつかまた会いたい』という約束を果たすことができました。


ーー月でただ一人。孤独だった少女には、再び愛しい人が会いに来てくれるのでした。


それでは最後のまとめに入りましょう。この二人の再会はなにを意味しているのでしょうか。篝という存在は母で、星とその環境を体現しているように思いました。対する瑚太郎は、人類とその在り方、その縮図として体現しているように思います。
瑚太郎は、一度は篝を食いつぶしてしまいましたが、それでも愛していたのは本当でした。そして食いつぶして振り返らないのではなく、もう一度会いたいと思っていました。
だから瑚太郎は最後に、孤独な彼女の運命を『書き換え』たのでした。

極めつけはアニメ版ラストで、作者・田中ロミオさん原案の篝に会いにいくという結末をわざわざ追加したのも、ただ母親を食いつぶすだけではなく、愛する心の持つこと、その尊さをより強く示したいように私の目には映りました。
だからこれは、資源を食いつぶすというのは正解ですが、この作品のメッセージはそれだけでは何かが足りないのかもしれません。


「母なる星を食いつぶしてでも、人は広がっていかねばならない」。だけどただ食いつぶすだけではなく、そんな母を想い顧みて、“愛“する気持ちを持ってみてもいいのではないでしょうか。それが、私がこのRewriteという作品から受け取ったメッセージでした。


ーーーこれは、孤独な少女に捧げられた、愛の物語。














後語り

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俺たちは友達でも、恋人でも、家族でも何でもない。
それどころか、言葉だって通じやしない。

だけど......。
あまりにも細くて、今にも切れてしまいそうだけど。
それでもつながったんだ。


ーーRewrite(三杯のコーヒー)


というわけでいかがでしたでしょうか。この記事は筆者にとって初めてのゲーム考察記事になります。初めてということもありなかなか難しいなぁと思いました。力不足でした。とは言っても1週間で作成したのでまだまだですが。

さてここでは、感想も織り交ぜながら後書きを書いていければと思います。考察ももう終わりましたし、だらだらとしたことを書いていくので、あまり興味がなければこのあたりで読むのをやめても大丈夫です。

まず私がRewriteという作品を記事に選んだ理由というのは、最後まで読んでいただいた人には伝わったかもしれませんが、今までこの作品は環境問題というテーマのみが注目されてきました。
なので今まで見逃されてきた「愛」というテーマに注目することで、このRewriteという作品の新たな魅力を見出し、作品の可能性と魅力をお伝えしていけたらいいなと思い書きました。

環境問題というテーマにつきましては、この作品がずっと問いかけ続け、そして最後には意欲的とさえ思える答えを出したのですから、それだけでもこの作品は素晴らしかったし、そのテーマを考察した人たちはとても素晴らしいと思います。今この記事を書いている私ですが、初めてプレイしたときはなにもわからず、そういった考察記事を読み、そうしてようやく理解できるようになったのですから、今私がこうしてこの記事を書くことができているのは、そういった人たちの素晴らしい努力と功績があるからこそのものです。

でもRewriteという作品への理解が深まるたびに、愛というテーマには少数の人しか注目していないのに気づいて、とても感情を大切にしたこの作品を、単に哲学的で知的な作品とするのは少しばかり勿体ないと思い、あえて(本音を言うと全部を扱うと面倒くさいから)環境問題というテーマは一切取り扱わず、愛というテーマのみの観点でRewriteの考察記事を書いてみようと思いました。

結果としては、最後まで書けるものなのだなぁと思うと同時に、Rewriteという作品に込められたテーマのすごさには改めて驚かされました。この考察を書いた私もびっくりです。まさか最後まで書けるとは思っていませんでしたし、環境問題というテーマなしでもここまでの力強いメッセージを持っていたんだなぁって……。

そのため、ここまでの可能性を秘めたこの作品は、テーマ性の評価はつい異例のSSにしてしまいました。でもここまですごいのなら手放しに褒めてもいいのではないですかね?環境問題というテーマにしても、物語の最後まで突っ走れるわけですから……。

これは環境問題のテーマ性に対し本作の解答がもう神作品ですけれど、それだけではなく、そのテーマの無機質性を超えてさらに感情的で、その描写がまた熱かったりなけたりと、もう本当に心から納得したくなるテーマであるところもこの作品のすごいところなんですよね!

愛なしでは篝ちゃんの理論が完成しなかったように、愛というテーマを入れないとRewriteは語れないと思いました。
これほどの崇高な内容、たくさん泣かされたことを思うと、本当に素晴らしい作品だとしか思えないです......。

とまあそれはおいておいて、とりあえず振り返ってみての感想に入ろうと思いましたが、つまらなさそうだと感じましたので、先にわたし的Rewrite好き好き名場面Best3でも発表したいと思いますー。

・第一位「篝ちゃんと瑚太郎くんがイチャイチャする場面(アニメラスト)」

言葉はいりません。ただ尊かったです(語彙力)。少なくともアニメ版で追加されたこの場面がなければ、この考察は生まれませんでした。だから無条件で一位です。もう頭が上がりません。この場面は特に何か台詞があるわけではありませんが、本当の良さは言葉で語れるようなものではなくて、こうした尊いものなんだと思います(思考放棄)。

月を渡る場面からここまで、本当に涙が止まりませんでした。アニメで月へと渡る場面が動いたとき、それはもう鳥肌が立ちましたね。
そして月を渡り、篝ちゃんと再会して......その時にはもう、環境問題というテーマはもう完全に消えていて、愛という本当のテーマだけが、ただ1つだけが力強く...はっきり残り続けていて......。この瞬間、本物のRewriteという物語を見た気がして......この流れの全てにおいて、それはもう本当にたくさん泣きました。

それでRewriteという物語が最後にこのような終わりを迎えるということは、この作品の目指すところは環境問題を超えたうえで、本当はここなんじゃないかと思いました。

ずっと愛の高位概念という哲学部分は印象に残っていて、そしてこの終わり方を見せられたとき、これは繋がるのではないかと、そういう微かな気持ちがありました。
それに、篝ちゃんが最後に馬鹿みたいに純粋な気持ちを知り、涙を流す場面もまた愛で説明できるのではないかと思い、今までのRewrite観を180度変えられると確信して、新しいRewrite像をただ目指して書いていました。

でもそうして全てを書き終わったときに、「ああ、これだ...」と、あのときの瑚太郎くんと同じ気持ちになっていました。そうして、Rewriteという物語が本当に大好きになっていました。本当に満たされた気持ちでした。ささやかだけど、とても大切なものを見つけたような気持ちでした。とても素晴らしい作品に出会えたと思っています。

少なくとも原作の終わりだけでは、愛というテーマに確証を持てる部分が愛が超高位概念というところだけだったので、この追加はとてもありがたかったです。この終わりが無ければ、この感動も、この記事も確実に生まれませんでした。

ただ愛だけが残されたあの追加ENDが、そんな眩しい輝きに満ちた感動が、ずっと導いてくれました。

・第2位「篝の祝福と呪い(Terra)」

まあ……言うまでもなくこれは衝撃的でしたよね……。もともとRewriteという作品自体とてつもなく莫大な世界像の上に成り立ち、展開も頭おかしいのでは?と思えるくらいの予測不能な急展開ばかりでしたが、それにしてもこれは私には理解の遥か上を言っていて、初回プレイをしたときはあまりにも混乱してしまったのと、それで混乱しながらも3回くらい繰り返し見て、考察もしっかりと読んで、そうしてようやく自力で理解できるようになったかなって感じです。まあ、難しかったです。
この場面が特に印象的なポイントはもう考察でも充分書きましたが、祝福だという篝ちゃんは喜ばしそうで、そして呪いだという瑚太郎くんは深く悲しそうでした。しかしその後、どこか脱力したように笑い始めた瑚太郎くんと、最後に口付けをする篝ちゃんが涙を見せたところが、なんとも言えない尊さ、神聖さを想わせてくれました。少なくとも二人は愛し合っていたはずですが、その尊さを言葉にすることはできないのだと、この場面の複雑さからただそう思いました。この場面も撒く言葉にできないわけですが、本当に素晴らしかったです。

・第3位「瑚太郎が本当は星のためではなく、篝が好きだったことを告白するやつ(Terra)」

原作の評判はよく知りませんが、アニメだと迷シーン扱いされているやつですね。一言で言うのならゲーム史上これ以上ないくらいの壮大な告白大失敗だと思います。それでも私にはとても衝撃を受けた場面ではありました。篝ちゃんが無知であったときは無垢の神性、人のことを知り知識をつけていく過程でアホの子扱いを受けていきますが、ここで初めて感情を爆発させる場面させ、神性と崇拝とは異なる、(人らしい)尊厳というものを感じさせてくれる場面です。神聖なものほど不可侵だと思っていましたが、そもそも人自体でも不可侵でなければならないことを知らされました。
篝ちゃんの多を愛する感情だって本物なんだなぁと思わさせられました。それに対して個を愛する瑚太郎くんは、篝ちゃんにとってはとても異様に感じたのではないかと思います。その二人の愛の違いについては、これも言葉にすることは難しいっわけですが、それはとても考えさせられるなぁと思いました。そして篝ちゃんがこれを強く拒絶した理由、感情が生まれ始めていたこと、そして恥ずかしいと思っていたことから、本当は愛という考え方の違いだけではなくて、自分の新しく生まれた感情――個に対する愛を認めたくなくて拒絶していたのかもしれないなぁとも思いました。ただの推測ですので考察には書きませんでしたが。なんだかこの場面がとにかくすごいと思った私は決して物好きではないことを信じたいです……。

ちなみにここで流れるBGM「Scene shifts there」というのですが、そもそものこの曲がよかったというのもあります。Rewriteのアニメオリジナルエピソードでミドウさんの過去が流れるエピソードがあるのですが、そこでも同じ曲が使われています。このエピソードですが、私はすごく泣きました。
そんな曲が使われた、ということもあり、Rewrite自体がかなり印象に残った作品なのかなぁと思いました。

と、こんな感じになりますでしょうか。考察記事自体はMoonの内容を多く取り扱ったのに、好き好き場面は全てTerraの場面ですね。本当は愛の概念探求を入れても良かったのかもしれませんが、篝ちゃんの登場する場面のほうが印象に残りましたので……。
こうして並べてみるとRewriteはかなり衝撃的な名場面ばかりの気もします。エンタメ作品としてみても充分面白かったようにも思いました。

あとは地球という惑星、それは世界そのものを情報記録媒体のようにして、その代行者としての役割を篝ちゃんに与え、世界が良い記憶を記録として求めるのなら、人類は知性によってその記憶を供給しなければならないという哲学的世界構築についてもすごいと思ったことをいろいろと語ってみたいと思うわけですが、たぶん求められていないような気がするのと、読み手のことを想定するのが恐いのでここまでで一旦後語りは終わりとします。下からは、Terra編の感想などについてもう少しだけ書いています。








Terra編雑感

ここまで扱ってきたそれぞれの場面について、これから私の簡単な感想をば。





ミドウが世界を憎んだ理由

先程少しだけお話した、ミドウさんについて最初は話してみたいです。アニメ版の評価も入れていいのならミドウさんは一番好きな人物だったかもしれません。

まずミドウさんの過去については、色々なことがあったようなことが鳳ちはやルートでは言われています。(ちなみにここで流れるBGMも「Scene shifts there」でした。私的にRewriteでもかなり上位の名曲だと思っています)

なぜ俺たちは、こうして見下し、睨み上げる立場になっている...?
何が悪かったと言えば...。
こんな世界だ。

「あなたは、うらやましかったんですよね、瑚太朗が...」
「...俺が、だと?」
「.........」

「俺も...」
「てめえみたいな力があったら...」
「.........」
「くだらねえ...」

一瞬、涙が見えた気がした。
それは、炎中で蒸発し、消えてしまう。


ーーミドウ、瑚太朗、ちはや(ちはや√)


そして、マーテルには人生に悩んだ人が集まるという設定がありました。

ただ豊かな物質社会の中、精神的に蝕まれる者が増大傾向にある。
魔物使いの資質を持つ者は、潜在的にかなりの数にのぼる。
マーテル会が集めているのは、そうした人材なのだ。


ーーTerra


しかし、ミドウさんの過去については原作では一切語られず謎のままで、そのセリフも特に印象に残らなかったというのが正直な感想で。ですが、アニメ版で彼の過去については、はっきりと説明が追加されます。


ーーーーアニメを視聴済みの方は、ここでミドウくんのあの場面を思い浮かべてもらえたらーーーー


しかしほんと...こんなの泣くしかないでしょ...。マーテルに集まるのは世界に虚無感を感じた人たちですが、ミドウさんはそんなものではなく、世界を憎んで、そして絶望していたんだなって...。これを考えただけで、もうどれほど悲しくて泣いたのか分かりません......。何度見ても泣いちゃいますし、思い出すだけでも悲しみが込み上げて泣いてしまいます......。

「世界はいつだってそうだ。弱い奴から何もかも奪っていく。だからブッ壊してやるんだよ!!

この言葉、ようやく初めて彼が何を言っていたのか理解できました。彼の世界の憎しみは、彼自身が言うようにとても大きなものだったんだなぁと思うだけで辛すぎでした。

心も何もかもが狂ってしまった、愛とは正反対でかけ離れたような、狂人にしか見えなかったミドウさんでさえ、本当は愛に生きたかったわけです。ミドウさんにも守りたいものがあって、戦う理由がありました。

「見たかったなあ……クソッタレな世界がぶっ壊れるところをよぉ」

こんな口の悪い言葉に共感してはいけないのですが、彼の生きてきた人生のことを思うと、そんなのずっと泣いてしまいますもん...。悲しすぎて何度も涙腺を持っていかれました。

ミドウさんの本当の想いが明かされたことで、Rewriteの世界は本当に不条理を描いていると思いました。本来であれば敵であり、しかもこんな凶悪な人に感情移入してはいけないはずですが、そんなことなんてできないですもの......。

ミドウさんは主人公とはずっと殺し合いを続ける敵同士でした。しかし、ミドウさんは愛のために生きようとする瑚太朗くんに、最後には味方になってくれます。これがまたさらに泣けましたからね......。
何だか立場上理屈をつけて、利害関係で味方になったように見えただけのようですが、世界を憎むことしかできなかった彼には、こうすることでしか助けてあげられなかったのかなと思いました。

本当はミドウさんは、愛に生きようとする瑚太朗くんが眩しく見えたのかなと思ってしまいます。
瑚太朗くんには世界はいつだって裏切ること、ミドウさん自身の凶行をもって見せつけていますが、それはもしかしたら瑚太朗くんに絶望させたかっただけではなく、ミドウさんが瑚太朗くんなら美しいものを見せてくれるのを期待していたところもあるのかな、と思いました。

だって殺す相手に情なんて必要ないじゃないですか。それなのに、瑚太朗くんにあれほど世界の醜さを語るのって、もうそうだとしか思えないわけですよ。本当はミドウさん、瑚太朗くんに情を持ってしまっているようで......。

アニメでにミドウさんは瑚太朗くんに「鍵は世界を壊す。大事に守った果てに絶望しやがれ」と皮肉を吐いて、そして助けてくれるわけですが、これもまた彼らしいと言いますか......。

でもそうして助けた形になったうえで戦うミドウさん、何だかイキイキしていましたね。壊れることしかできない彼が、それでも愛に生きられた瞬間だったからでしょうか。

原作でもアニメでも最後には味方になるのも涙が止まらないですよ……三重で涙腺が崩壊しました......。このアニメでの追加ほんとに素晴らしいです、ミドウさんにどれだけ泣かされたことか......。

ミドウさんの最期を悲しむ人は作中では誰もいませんでしたが、むしろ狂人が消えたのだから喜ぶべきにさえ思えそうですが、それでもこうして大きな喪失感と悲しさがあったのは、ミドウさんが悪役と割り切れるような人ではなかったからだと思います。

しかしやはり、瑚太朗くんだけは違うように思いました。二人の間にあったのは敵対関係でありながらも、それと同時に何かもっと優しいものが架け渡されていたようにも思いました。もしかしたらそれは、瑚太朗くんと吉野くんとの間にあったものとほんの少しだけ似ているのかもしれないと思いました。

「...そうか、寂しくなるな」

『テメェと決着がつけられなかったことだけが、こんな身の上でも無念だぜ』

「決着はついた。おまえの勝ちだ」
「男ってのは、あとからついていった方が負けだからな」
「ただし今回の試合でだけだ。次は俺が勝つ」

『フッ、テメェに男を説かれるとはな...』
『なぁ、教えろよ。オレは...何かの役に立てたのか...?』

「立ったさ」
「おまえが受け入れなかったからこそ、俺は孤独でいることができた」
「わかるか?孤独でなくなったら、俺は人間関係に満足して、埋没してた」
「そこで立ち止まって、終わってたんだ」
「可能性を探る旅は、いつだって孤独なものなんだ」
「小さな関係の中にいれば、ささやかな幸せを得ることはできる。けどそうなったら、長い旅には出られないんだよ、吉野」
「適応してしまったら開拓者にはなれないんだ。人が選べるのは、どちらかひとつだけなんだ」

『複雑な話だが...なんとなくわかる気がするぜ...』
「だから俺たちは、永遠のライバルだってことだよ、吉野」

『永遠のライバルか...そりゃいいな...』
『サイコーに...マッハだぜ...』


ーー瑚太朗、吉野(大侵攻)


瑚太朗くんを最後には助けたミドウさん、ミドウさんの最期の言葉を思い返す瑚太朗くん。死闘の果てに得たもの、絆とは違うけれど、ただ争っていただけだけれど、二人は通じ合っていた部分もあるように思いました。

何ていうか本当にミドウさんいいキャラだった!彼がいなかったらRewriteの描いた世界についてそこまで深入りできなかったですし、ここまで泣くこともなかったですからね。単に悪役と割り切れないというか、良い悪役とは彼のことを言うのでしょうね。

それにこうしたそれぞれの登場人物のつながりですとか、世界設定とか、よくこれだけ緻密かつ莫大な感じに広げられたなぁと驚きました。そうしたひとつひとつになかされるのがRewriteのすごいところだなぁ......。

......このあたりアニメオリジナルだったので、アニメ未視聴の方にとっては「???」だったかもしれません。申し訳ありません......。ここからは原作の内容をなるべく忠実に話していきますので...。





Key20周年 キャラクター投票でのRewriteについて

(19.9.28追記)Key総選挙主人公部門にて、Rewriteの主人公「天王寺瑚太朗」くんが1位になりました。おめでとうございます!

人気投票ではRewriteのキャラはやっぱりランクインしませんよねーと思っていたら主人公がまさかの1位でしたからね。びっくりしました。こうして一生懸命考察を書いた一個人としては、かなり嬉しかったですね。ちなみに私は篝ちゃんに入れました。理由は後語りで魅力はいっぱい語りましたが、最後瑚太朗くんを慈しみ、想っている最後は感動的でしたし、とにかくとても魅力的でかわいかったと思うので。

今回はせっかくのその結果ですので、この後書きでは主人公「天王寺瑚太朗」くんについてもっと語れたらなと思い、ここからは大幅な追記をしています。
瑚太朗くんは篝ちゃんの愛のために、報われなくてもそれでもあそこまで馬鹿みたいに真っ直ぐであり続けましたからね。確かにカッコよかったと思いましたので、これまで書いてきた内容と併せて瑚太朗くんが作品で見せた、愛というものの在り方についても振り返りたいと思いました。







Moon編について

Moon編でまず気になりましたのは、瑚太郎くんがやけを起こして、本音を篝ちゃんに言うところでした。どうして篝ちゃんはあそこで瑚太郎くんに気を向けたのかな、と思ったときに、やっぱりこの瑚太郎くんは人間らしいなぁと思ったので、そういうことなんだろうって思いましたね。ただしこのあたりを説明するために言葉にするのはなかなか大変でしたが……。

そうして書かれたのが”現象としての天王寺瑚太朗“ですね。(すごく苦労しましたが)我ながらうまく書けたと思います。説明不足なところもあり納得できない!という人もいると思いますが、そういう方は同ライター作品の「CROSS†CHANNEL」をプレイしてもらえると、より分かりやすくて納得できると思います。この作品自体も名作ですので。
ただ改めて説明しますと、瑚太朗くんは篝ちゃんに何度も殺され、その度に元どおりに戻って自室のベッドで目覚めます。そしてそれは、時間が巻き戻るーー篝ちゃんの研究は常に進行しているためーータイムリープではありません。だから瑚太朗くんは決められた様式をなぞっている、自然現象と類似することからも、人間とは思えませんよね。それをこの作品では「現象」と呼んでいますということを伝えたかったです。

「あんた...以前の篝だった時の記憶は持っているのか?」

「否」
「この篝はこの篝であり、他の篝とは異なります」
「篝とは現象のようなものだと心得なさい」


ーー篝、瑚太朗(Terra)

「...勝手なもんだな」
「人間を軽んじすぎてる。命をそんな簡単にすげ替えるなんて」

ホモ・サピエンスの一個体風情が、自然現象に倫理を問うな」

いつになく厳しい口調で、ぴしゃりと言われた。

「それはヒトに間でのみ通用する、脆くはかない理想」
「ヒトの外に出すものではありません。わきまえよ」


ーー瑚太朗、篝(Terra)

瑚太朗くんが命の全てを燃やしてまで助けたいと思った相手、それもまた現象でした。現象なのに人間としての自我があること、そんな現象であり人間としての存在の瑚太朗くんに対して、篝ちゃんという現象が抱いていくことになる感情、現象存在を通して人間とはこういうものだと力強く示したかったのではないでしょうかと、そう思いました。

人間というものを尊いと思う瑚太朗くんと、現象としての高潔さを説く篝ちゃん。倫理とはヒトにおいての最高概念にして、ヒトの淡い幻想そのもので、失われれば霧散する、絶対的な法則である自然現象にも劣るものです。自然が、世界が、総体としての命を前にして、ただの一個体の倫理を天秤にかけられるものでしょうか。この2つの対立は印象的でした。最後の篝ちゃんの個体を顧みて愛したというのも、こういうことを伝えてみたかったです。


現象としての天王寺瑚太朗についてもう一言。

次に彼女の手が止まったのは、主観的には数ヶ月後だ。
長く同じ姿勢のまま立っていたため、足の裏が根を張りかけていた。
強引に引っこ抜く。
考えることさえ止まっていたらしい。
全身が凝っていて、バキバキと鳴った。
なぜか俺は両腕を天に突き上げ、自己陶酔したような表情になっていた。
爪の先から葉っぱが生えていた。

「俺は人間だっ」

そういうものを全部払い落とす


ーー瑚太朗(三杯のコーヒー)

瑚太朗くんは自分が現象かもしれないというようなことを言っていましたが、何ヶ月も居眠りしている間に樹木化してしまっても、それでも自分は人間だと主張しています。
この主張、瑚太朗くんが初めて自分で現象を否定する場面で、瑚太朗くんは現象としてではなく人間として在りたかったことが分かります。これはやっぱり、人間であることのために現象が対比として置かれたのかなと思いました。とても面白い設定でした。
そういえば瑚太朗くんの体はアウロラでできていて、それでリライト能力が使えるという設定もありました。ここから小鳥ちゃんには瑚太朗くんは魔物だとルートでは言われていましたが、そこでも瑚太朗くんは人間であることを主張していたこともありましたね。

「...証明できる」
「証明?」
「俺が魔物じゃないってこと」
「...そんなの、無理」

「おまえは魔物に、念じて命令を出してるだろ?」
「もし俺が魔物なら、おまえの願望に添った行動を取るはずだ」
「だからおまえの願望の反対を実行すれば、魔物ではないと証明できる」


ーー瑚太朗、小鳥(小鳥ルート)

現象であること、人間であること。私的には考察において、その線引きはとても大事だと私は感じていた部分です。


次に気になった場面としましては、瑚太郎くんのミラクル大冒険ですよね。やたら哲学的なうえに愛という言葉がたくさん登場するので、とても印象深かったです。これだけ愛というものがなんかすごい!みたいなことを言っているのですから、もしかしなくてもこの作品は愛のすごさみたいなものを必死に伝えようとしているのは一目瞭然でした。

このことは、愛がとても重要であることを意味する。


ーー瑚太朗(ミラクル大冒険)

ラクル大冒険のこの一言だけで、雷に打たれたような衝撃でしたね。書かなきゃ!と思いましたね。Rewriteの哲学部分で、ノーベル賞を超えてさらに上の概念として置かれた時点で、それのみでも充分考察に値するものでした。でもまさかここまで書けるとは思っていなかったのですが......。

…愛がない知性だけの命では、広がれない?
…ああ、自己犠牲の精神か…
…だが…
…そもそも、なぜ広がらねばならない?
………………
…そんな理由で?
…え、これって正しいのか?嘘みたいだぞ?
…そんな優しいものなのか?

〜中略〜

…でもそれが…真実?
…愛って、そうなのか?


ーー(ミラクル大冒険)

命の理論がどうしてあのメッセージで広がることができたのか。実はここにもう既に答えが書いてあったのですよね。愛がない知性だけの命では広がれない。それは裏を返せば、あそこで広がることができたのは、愛だからということになります。本作のライターさんがシナリオと、この哲学部分を通して伝えたかったのは、このことのように思いました。

しかし、愛というテーマに確証はこの時点では全く持てませんでした。だって今までずっと環境問題のことばかり言っていて、考察記事も全てが環境問題というテーマしかありませんでしたし、突然ここで愛を語られてもって感じですよね……。私が愛というテーマに確証を持てるようになったのは、Rewriteという作品をプレイしてからかなり時間が経ってから、アニメでのあの終わりがあったからでした。
超高位概念とアニメのラストの2つがあって、それでパズルのピースがはまったようにどんどんと繋がっていって、そしてこの考察はあります。どちらかが欠けてもこれは生まれなかったでしょうし、私自身ここまで高く評価することもなかったかもしれないくらいです。

それで本音を言うと、ここは書いていて一番楽しかったです。愛は理論で語れないことを表したくて頑張ったから支離滅裂な部分もあるかと思いますが、それでも何度も見直して書き直す必要のないくらいまで力を入れていましたね。とても楽しかったです。それにこの部分を考察の対象にした人は見たことがないですし、何よりここの文章のお堅さといい不思議な模様いっぱいの背景で送られた知性跳躍風景はなんだか楽しかったです。それもそのはず、こんなに難しく展開も面白いわけではないですから、流し読みされる程度でしょう。それを必死になって書いていたのですからそれはそれはとても充実していました。でも直感通りにやった考察において、ここはアクセルのような機能を果たし、一気にこの考察を力強いものにしてくれて、重要な転換点になってくれたのが一番嬉しかったですね。ここから一気に愛というテーマが加速して、見事に証明しきることができました。本当にやりがいがありました。
ここまで読んだ人で、考察のどの節または項目が面白かったのか聞いてみたいですね。それがこのミラクル大冒険のところだったらちょっと嬉しいかも。


あと瑚太郎くんの上書き能力はかなり良い設定だなぁとも思いました。守りたい人のために体を強化することもできますし、こうして知性跳躍もできる。いろいろなことができるからこそ、主人公には何を選ぶかの選択が与えられますよね。主人公がこの能力をどう使っていくのか、その決断一つ一つが面白かったと思いました。

このミラクル大冒険で瑚太郎くんが帰り路を見失ったときに、篝ちゃんのひらひらリボンが腰に巻きついているのを見た時には、それはもう鳥肌が立ちました。愛を見失った瑚太郎くんが、ここで篝ちゃんの愛?に触れるのですから。それを哲学で解き明かそうとした直後、というのもうまいです。これは神場面だと思いましたし、この時点で神作品だと確信しまして、もう篝ちゃんのひらひらリボンのあたたかさに感動してもういっぱい泣いていました。

親和数について。この数学的な対象を物語に取り込もうと思ったそもそもの発想がすごい、というのが率直な感想なのですが、ここで初めて照れちゃう篝ちゃんがかわいすぎでした。
主観時間で3か月とこれほどの時間を要したのも、親和数という概念自体は篝ちゃんは瞬時に理解したのでしょうが、感情に乏しい篝ちゃんはこれをなかなか理解しなかったということを表しているように思いました。逆を言えば、3か月という時間を要しても、それでも理解できた篝ちゃんという存在は、理解不能ではなく弱々しくも未発達かもしれませんが、それでも自我を持つ現象として、瑚太郎くんにとって誰かとなれる可能性を示していたように思いました。なんにしても、対話能力と感情に疎い篝ちゃんへ数学という論理で論理以上の感情共感的な接触を試みた瑚太郎くんナイスアイディアでした!




絶対的に、誰もが美しいと思える、そんな美はあるのか?


美しいものについて。我々は普通(というか私もそうだと思っていましたが)、自然は美しいーーそれは自然とは絶対美であると信仰することでーーと思っていると思います。しかしRewriteでは、その価値観は否定されます。

地球は汚い。
誰が言った、美しい地球だなんて。
うつくしくねーよ。よく見ろ。
どいつもこいつも利己的で。

ーー瑚太朗(対話)

このRewriteという作品では「利己的なもの」を醜いものと定義します。そうすると美しい自然でさえ、そうではないのだとこの作品では排斥されます。Rewriteの自然観では、自然も植物も美しくはないのです。


そう言われてみればそうだと納得できる事例があります。救済が起こった世界は美しい反面、同時にグロテスクでもありました。人を蹂躙するかのように植物が成長する様は、植物ーー延いては生命そのものが醜いことが示されています。

そんな中で美しいものとは何でしょうか?もちろん自然ではありません。しかしここまでのRewriteを読んできたみなさんなら、簡単に答えが出せるのではないでしょうか。

Rewriteの答えは自然などではなく、むしろ醜いものだとすることで排除しています。だからこそ相互作用、調和ーーそれは心や愛として、人間だからこそ見出せる尊いものだと言われています。美しさは自然に見出すのではなく、尊ぶ気持ちからというのがこの作品の美への価値観だと思います。
ちなみに私はこの答えをとても気に入っています。それはライターが独自の美への価値観を持ち大変興味深いということもあるのですが、それは唯一で、利己的ではなく法則さえも無視できる超高位概念だからーーつまり誰が見ても美しいことを否定させない絶対美のように思ったからです。愛を見出すーーそれは価値判断に依拠するため相対的なものですが、愛自体は絶対美だということになりそうです。

人が何を美しいと思うか。それでも自然は美しいと思う人がいるように、それは人それぞれです。つまり美とは絶対的なものではありません。でも自然の美は絶対的なものではないことになってしまいました。

しかし、愛というのは絶対的に美しい、愛こそ絶対的な美というわけです。愛は誰もが追い求めますし、それが美しくないことだと否定できる人はいるのでしょうか。

Rewriteの結末、瑚太郎くんは篝ちゃんを突き刺しています。たくさんの人を犠牲にして、それでも会いたいからずっと頑張ってきたのに、です。
瑚太郎くんは罪深く、どこまでも汚く、綺麗なものとはとても程遠いものでした。それ以前に樹木化する篝ちゃんも瑚太郎くんも見た目は不気味でグロテスクな光景です。
救済を起こす大いなる存在としての篝ちゃん、もはや人間ではなくなり化け物のような見た目になってしまった瑚太郎くん。二人はどこまでも不気味な見た目だったと思います。

しかし、それでも最後は篝ちゃんのために泣き、そんな瑚太郎くんを篝ちゃんは慈しみ、ずっと笑っていた篝ちゃんが最後には泣き出してしまう......それはどれだけ美しかったでしょうか。そしてその美しさは、誰が否定できるでしょうか。
誰もその美しさは否定できません。それだけ篝ちゃんと瑚太郎くんが見つけたーーーー知性跳躍では届かなかった超高位概念とも呼ぶべきーーーー愛は、尊いと思えるものだったのではないでしょうか。

それは、グロテスクな風景にありながらーーーーヒナギクが美しいようにーーーー二人の中には、とても尊いものがあったのではないでしょうか。

そんな二人だったからこそ、その2つの想いは大樹になれたのかなと思います。
これまで登場した自然が利己的で全て醜いと言われていたのに、この大樹だけはいろいろな人に愛されたのも、不可思議な成長をしたのも、そんなものとは違う尊さを秘めたものだからだと思います。

Rewriteでは自然も植物も全てが利己的で醜いとしたのに、篝ちゃんと瑚太郎くん...二人の想いの大樹には、その見事な対比にとても感動させられました!

絶対的な美、それは誰もが迷信だと思うようなことへの答えを、このRewriteは導き出せたのです
この作品はどんな哲学も、物語も及ばない領域まで来てしまっています。本気で驚きました。この作品はかなり難解だったと思います。しかしそれでも、この作品が求めたもの(愛)は尊く、哲学作品でありながらどこまでも馬鹿みたいに純粋で、たくさん笑顔になれて、ここまで泣かされるなんて完全に異例でした。まさしく傑作だと認めるしかなかったですし、心から好きだと思いました。





理論にメッセージを入れる云々は、愛というテーマの直接描写とはちょっと離れるので入れるか迷ったものの、(実は書いている途中で気づいたわけなのですが)後半の伏線になっていたこと、資源を食いつぶすだけで命の可能性と理論は広がったのではないということを示したくて入れました。あれほど停滞していた理論が、瑚太郎くんの愛だけであれほどまで広がるのですから、Rewriteの作者は愛がすごいものだと考えていたようですね。
正直私もこれを書いていて、愛でこんなことが起きちゃうんだ!?と驚きましたね。

篝ちゃんが瑚太郎くんたちを地球へと送り返す場面は絶対に入れないと最後の月へと行く場面と重ならないですから入れました。そうしないとそもそもの考察が成り立ちませんから。ここもなかなか印象的でした。「それを愛というんじゃないか」という一言で締めるのも、やっぱりこの作品は愛を扱っているんだなぁって思わせてくれるには充分でしたね。いろいろと省略しちゃいましたけれど、この作品は愛と同じくらい孤独についても言及しちゃっているんですよね。

もしこの宇宙に神というものがいるなら、そいつはとてつもない苦痛の中に生きているはずだ。
知性とは自らの孤独を浮き彫りにする。
絶望と、物理の無情から目をそらせなくする。

――ミラクル大冒険


それなので、愛と対をなすテーマ“孤独”についても焦点を当て、この考察の副題は、「孤独な少女に捧げられた、愛の物語」にしようという考えはかなり初期から固まっていました。孤独という概念については冗長になりすぎるのであまり掘り下げませんでしたが、知性というものが感情さえ物理としての説明で神聖さを失うこと、つまり究極の知性は孤独に直結するということが、篝ちゃんの孤独なことについての言及なのだろうと思いました。超高密度の情報を口から鳴るように発する篝ちゃんは、受容者の理解を遥かに超えることは猛毒となるために、孤独であったのだろうと思いました。そして瑚太郎くんのミラクル大冒険では、孤独に耐えられず寒さすら感じていましたが、その感覚をなくすためには、篝ちゃんのようにそもそもの寒さを感受する自我が未発達であればよいということになります。そして自我は、他者自我と触れることで成長するのですから、孤独が孤独という概念像を曖昧にしてくれているのでしょうから、孤独が孤独というものの救済を行っているのかもしれないなーと思いました。ただしそんな篝ちゃんでも、地球の人たちに愛着を持っていたのですから、希薄でありながらも自我はあり、孤独を感じていたのかもしれないとは思いました。だから篝ちゃんの救済は孤独にではなく、愛にこそあるのではないかと思います。

対する瑚太郎くんについても孤独の言及はいっぱいあった気がするのですが、いっぱいいっぱい過ぎて何だか忘れちゃいました。ただ一例として、瑚太郎くんも篝ちゃんに愛の告白をするときにこんなことを言っちゃっていますね。

排斥され続けた俺は、普通の人生じゃもう満足できなくなってしまったんだ。
小さな幸せ、ささやかな幸福、そんな綺麗事じゃ我慢できない。
だから人が滅ぶことに抵抗はない。
命が惜しくないわけじゃないが…諦めてもいいのだ。
同時に、人から認められたくも思う。
果てしなく認められたいと願望する。承認欲求とかいう感情だ。
俺は欲深い。
欲深くなった。
得損なった分、それ以上に得たいと思った。
そのためには人とは異なった人生を歩まなければならない。
単なる例外程度では、とうてい充足は得られない。
だからガーディアンやガイアでは、俺は満たされない。
唯一無二の人生だけが、俺を慰める唯一の可能性になった。
孤独をこじらせた結果、そうなってしまった。


――瑚太郎(Terra)


あまりにも痛々しすぎて考察する気も起きませんでした……。すっぱりカットしてしまった……。ただ、こう言う瑚太郎くんですが、本当はささやかな幸せで良かったんですよね。星のことは本当はどうでも良くて、篝ちゃんが好きでいられたら充分でしたから。月での瑚太郎くんも、そう言っていましたから。

「好きな奴ができて、そいつに好きになってもらえりゃ、不安なんて消し飛んだ」
「そういうちっぽけな心しか持たない俺は、不幸だったのかな」
「でもな、どこかの誰かになった俺は、後悔なんてしないんだ」

「充実してしまったら、後悔なんてしなくなる」
好きなヤツのためなら、他のことなんてどうでもいい。世界が…」
「世界が滅びたって…」


――瑚太郎(対話)


瑚太郎くんはずっと孤独で、それでTerra編ではいろいろ言っちゃっていますけれど、本当はどこかの誰かになれるだけで充分だったのですよね。だから瑚太郎くんは篝ちゃんのためにとんでもないことをいっぱいしていますけれど、本当は篝ちゃんとの関係も、このようなささやかなことを望んでいたのかもしれません。話が何だかずれましたけれど、瑚太郎くんも孤独についてはいろいろ想うところがあり、このRewriteという作品が孤独についていろいろと触れていたことだけ伝わっていれば大丈夫です。


ではここからTerra編について語っていきたいと思います。





愛とは何か

ここでは愛については、これも考察するのがとてもしんどいので省略しましたが、愛についての言及は他にもありました。それは、マーテルという、愛に飢えた人を誰でも愛するというその思想についての瑚太郎くん自身の想いが言われています。

マーテルは親愛を重んじる。

だからここでは誰もが歓迎される。
独身の中年女性や、生きるのに疲れた若者。
孤独な少女や、生きるのに疲れた若者。
親のない子や、重い事情を抱えた人々。
環境保護にさほど関心がなくとも、マーテルは来訪を拒まない。
疲労のていにあった者の多くが、マーテルに入会すると溌溂さを取り戻す。
熱烈な人間関係が彼らを癒すためだ。
ここでは誰もが、唯一無二の存在になれる。
…本来の人間的資質とは別に。

会に恭順を示せば、家族とはうまくいくだろう。
だけどマーテルの愛は、誰だろうが受け入れる愛だ。
…誰でも良いのだ。
それが俺には、少しきつい。
たとえ打ち解けたとしても、俺には秘密がいくつかある。
UMA狩りとか、超能力のこと。
秘密を抱えたままでは、誰とも打ち解けられない。


――瑚太郎(Terra)


……とっても痛いです。と同時に、実はとても深いことを言っています。誰でも愛することは、それは確かに愛ですが、これは瑚太郎くんが篝ちゃんに求めたものとは違いました。

まず愛とは、無条件であることが月では言われていました。そしてここで求められているのは、多に対する愛ではなくて、個に対する愛でした。そう、篝ちゃんの人類愛と、瑚太郎くんの個への愛です。愛とはそれだけで高位概念ですが、なぜ個に対する愛のほうがより高位の愛のように思えるのでしょうか。それについて多くは語られないのですが、それが人生の充実だから、という感じなのではないでしょうか。

生まれる前から、篝を求めていたんだ。
目の前の男を見つめ、問いかける。
あんたにはそういう人はいなかったのかい?


――瑚太郎、咲夜(Terra)


命を賭けてでも、何を投げ打ってでも、それでも愛せる。これこそ利己的善行とは大きくかけ離れた無条件の愛で、だからこれが求めていた最も尊いものだったのかもしれないと思いました。だけどやっぱり人は臆病で、それは瑚太郎くんも同じで、そこまでしたいと思える相手は限られてくるのでしょう。だから尊いということで、その尊さは多にではなく、個を特別に想う感情から生まれるのかなぁと思いました。まあ根拠のない推測でしかありませんが。
もしかしたら見逃しているだけで、もっと良い該当箇所があるかもしれませんので、もしも見つけた人がいれば、もしよろしければ私に教えてください!(切実)

余計な話をしましたが、尊い愛とは無条件で、個に対して向けられるものでした。そしてそれは崇拝とも違う。それに限らず一方的に押しつけるものでもない。尊い愛ということを示すだけで、もうこれほどまでの条件が示されてしまいました。いったい愛とは何なのでしょう。結局愛とは高位概念ですから、こうして言葉で捉えようとすることそのものが愚行なのかもしれません。だからこうして言葉にできたのは、尊い愛という概念のその一部でしかありません。
それでは尊い愛とはどのようにしたら得られるのか?それは概念にしたら難しくても、たったの一言で説明できちゃうほどシンプルだったりします。

「この暗い場所で、あんただけが、無条件に眩しかった」


――瑚太郎(Terra)


あまりにも抽象的すぎますが、瑚太郎くんが最後に篝ちゃんへの想いを伝えるときに出た言葉はこれだけでした。それは好きでいること、それだけで充分だったんです。そこに概念も理由も、そんなもの自体が不必要だったんです。だから知性で愛を解明しようとしてもなかなか難しくてできないけれど、気持ちとしては単純なものだったんですよね。

ばかだな…
愚直すぎるんだよ…
それを…愛と言うんじゃないか…


――瑚太郎(誰も知らない真実)


「馬鹿ですね…」


――篝(Terra)


これだけの単純で、虚しささえ感じるような想い。それはまさしく馬鹿だと言われても仕方のないことなのでしょう。けれど馬鹿だと思えるくらいの純粋さ、それが尊い愛だったのかもしれません。こうしてみると真理は複雑で、そしていつだって単純なことだったんだなぁって思います。

俺には乏しい知性しかないけれど。
長い迷路を抜けることだけはできた。
いつだってそれだけが唯一の、尊さだったんだ。


――瑚太郎(ミラクル大冒険)

瑚太朗くんは、ずっと篝ちゃんのために、自分が尊いと思えるもののために、あそこまで頑張っていたのでした。

篝を見つめる。
こいつのために、命だって賭けてもいい...と思った。
たまに疑問に思う。
いろんな人を裏切ってまで、やることだろうかと。

「...なあ篝」
「なんです?」

「俺は、尊い仕事がしたい」
「誰かがやらねばならないことがしたい」
「それがせめてもの、俺に与えられる褒美なんだ」


ーー瑚太朗、篝(Terra)

瑚太朗くんにとってそれは、(反作用としてではありましたが)表出した現象存在だったから、2つの組織に身を置くことができたから、そして何よりそれが約束だったからと、瑚太朗くんにしかできないことだったのは間違いないですが、それが尊いと思えること、これを最後に近づくにつれて見せてくれるのは、やはり感動しましたね。


では最後に、なぜ個体への愛が尊いと言えるのか?マーテルの親愛...つまり博愛は、誰にも向けられるものでした。それは救われた人もいる以上とても良いことなのは間違いないのですが、でもなぜ瑚太朗くんにとっては尊くはなかったのでしょうか。
それもまた、瑚太朗くんが人間だったからです。

瑚太朗くんには上書き能力が使えて、いかにも最強で無敵かのように見えますがーーーーそれでも万能ではありませんでした。

命さえあれば、俺はどんなものにでもなれる。
遺伝子の外に捨てられた、さまざまなガラクタさえ、自在に加工できるんだ。

だけど悲しいかな、俺の命の総量は人間ひとり分。
だからここまでしか、できない。


ーー瑚太朗(Terra)

瑚太朗くんの命の総量が人間一人ぶんしかないように、愛のために人生を賭けられるのも、一人ぶんの愛程度のものだったように思います。そんなちっぽけな存在でした。
だからこそ、一人の人間として、一人ぶんの愛のために人生を賭けたのではないでしょうか。博愛に生きられないのなら、ただ馬鹿みたいに愛に生きる。でも、自分に出来る限りの全力を尽くせたのだからこそ、そんな小さな愛が瑚太朗くんの人生にとって、尊いものだったのだと思います。

そしてやはり、マーテルの博愛のような優しいだけが本当の愛ではないからだと思います。瑚太朗くんが篝ちゃんにやっていたこと、叱って怒鳴りつけたり納得できない命令には背いたり......一見愛とはかけ離れた行為ですが、でもそれは、篝ちゃんのことを想って、そして本当に愛していたからこそのことでした。
本当に愛してるとは、マーテルの博愛のような誰でもただ表面で愛する優しさだけではなく、心の奥から愛する尊さそのものでした。そんな最も尊い愛を見つけたからこそ、瑚太朗くんは人生を賭けられたのだと思いました。
親愛ではなく、本当の愛を探す物語、それがRewriteだったのかなと思います

実際にそのちっぽけな愛で理論の可能性を広げ、星の運命を変え、世界を変えて、篝ちゃんの気持ちさえ変え、ただ交わした約束を叶えるためだけに会いに行き、永遠に孤独の運命さえ変えてしまいました。
......こうして振り返ってみると本当に壮大な物語ですね。世界設定や環境問題というテーマの物理的壮大さだけではなく、愛というものの可能性の力強さを完璧なまでに見せつけられました。


『やり直すんだ…もう一度』『書き換える事が出来るだろうか…彼女の…その運命を…。』

......瑚太朗くんは確かに、ささやかな愛で、最後には彼女の運命を“書き換える”ことができたのでした。



さて、まあ一通り説明し終えたでしょうか。それではここからは考察記事で特に取り扱わなかったところの感想でも言っていきたいと思います。





月と地球の夜会


指先を絡めて、くるくる回る。
地球と月みたいに、エレガントには行かないが。

俺たちは踊る。
俺たちは回る。
生きる者なき街並みで、いくらだって楽しんだフリをする。
意味のない時間を過ごしたい。

これは反逆だ。
何も知らない人々に対する、俺たちからのささやかな復讐。
湖面に映る月にも矜恃があるのだと。

救われる人々は、俺たちの存在になど気づかないだろう。
時空の内側にいる限り、気づくことはないはずだ。
そのことが、少しばかり腹立たしい。
篝があまりにも報われないから。


ーー瑚太朗、篝(静かな海の蜜の月)

(このダンスの部分はアニメ版のほうがかわいくてときめいたかも......)

ここでは一体どんな復讐をしたかったのでしょうか。楽しんだフリをするとは、ここでの誰も知らない時間、それが知らないなんてあまりにももったいないくらい尊いものであることを信じていたから、空想の観客にも、時空の内側にしか存在できない人々にも、知らずに見せつけたかったのかもしれません。

意味のない時間を過ごしたいとは、ただ命の理論を完成させるという、ただ人々のために二人が自我を捨てた現象であったというだけではなく、二人の間には尊いものがあったということを、もし知ったら羨ましくなるようなことがあったことをしてみたかったのだと思います。

ここでもやっぱり、瑚太朗くんが篝ちゃんのことをどれだけ想っていたのかを窺い知ることができます。誰にも知られず、愛されず。それでも...だからこそ、瑚太朗くんただ一人だけは愛していたのかなと思いました。

でも一番印象的だったのはそこではなくて、篝ちゃんのかわいい一面が見られるここでしたね。

ダンスの法則を篝はたちまちのみこむ。
そして延々と規律的に動こうとする。
でもそれはつまらないから、俺は邪魔をする。
アレンジを加えることで、不意打ち気味にリズムを崩す。
篝はあせる。あせあせする。
それが愉快で、自然と笑みが漏れた。

「うわっ!?」

突然、軸足が切り替わって俺はつんのめった。
かろうじて転倒を免れ、チョコチョコと小走りに体勢を整える。
紳士淑女たちも笑っていた。

「.........」

仕掛けてきた篝は、すました顔で踊っている。
...やってくれる。
仕返しをされたのか、アレンジも含めてひとつの法則として学習されたのか。
そんな疑問はだけど、無粋だろう。


ーー篝、瑚太朗(静かな海の蜜の月)

理論の研究しかしなかった篝ちゃんが、さっきの瑚太朗くんの想いに応えるかのように楽しんでいる?みたいでかわいかったです。もうそれだけで涙が出そうになるくらいステキなものが見られたと思います。現象同士の二人でも、このような尊さを見せてくれたことが感動的でした。

余談ですが、このダンスで心に残ったのは、アニメではヒナギクに歌が付いた「Innocence Eye」が流れてとても良い曲だと思ったことですね。あまり長い時間は浸れませんでしたが、Rewriteアニメを高く評価する理由ですね。





人間の対立と共存

Terraが始まったときにいきなり戦場から始まるのびっくりですよねー。
瑚太朗君は戦場で争うガーディアンとガイアをたくさん見て、弱い者をただ虐げる世界というものを見てきました。人は良い記憶を生み出す知性を持つはずなのに、それは争いと傷つけ合いを生むばかりでした。

ヤスミンが細々としたことを引き受けてくれた。
魔物使いと超人が属するグループだ。
ある者たちが言うように、両者が決して相容れないということはなかった。
ガイアとガーディアンが対立するのは、単に復讐の連鎖や利害の問題であり、さらに噛み砕いて言うなら人間だからなのだろうと思った。


ーー瑚太朗(Terra)

しかしそんな戦場でも、ガイアとガーディアンが仲良くすることもできるということを、瑚太朗くんは戦場でみることができていました。人間だからこそ争いも生まれますが、同じ人間同士だから相容れないということもありませんでした。それが瑚太朗くんが戦場で見た、もう一つの世界の真実でした。

Rewriteではガイアとガーディアンというなんだか小難しい共同体としての組織が登場するからあまりその設定が好きになれないという気持ちもありました。でも、その2つの組織はガイアではだれでも良い愛、ガーディアンでは差別と弱い者を踏みにじる者で、どちらにも瑚太朗くんが居場所を見つけられないということを描くために用意された設定のように思います。
しかしそれだけではなく、この2つの組織を通して、瑚太朗くんに大切なものを見せてくれたように、もう一つの意味があったように感じました。こんなふうに世界の不条理さと、そして愛おしさを同時に表しているのだとしたら、この2つは世界そのものなんだなぁと感動する部分もありました。








不完全だけど、それが愛おしさ


美しいとか、可愛いとか、そういう観点ではない。
原始的な信仰心に似ていた。

―中略―

まばたきすることのない瞳には、知性らしきものは見いだせない。
だから神々しい。
知性とは不純物だということを実感した。

人は日数を重ねるごとに、不完全に近づいていく。
そして神性とは、無垢だ。


――篝(Terra)


赤子のような無知と無垢の神性からの、神々しい篝ちゃんの図です。

「...だんだん頭悪くなってきてないか、あんた?」
「...そのようなことはありません」



「篝に良い考えがあります」
「超人より戦車が圧倒的に強いというなら、それを入手すべきでは?」
「…」

いつものこととはいえ…

「戦車を用いて、地球を支配するのです」
「この国では、戦車の個人所有は法律で認められてはおりません」

「では法律を変える作戦ではどうでしょう?」
「これはかなりの盲点では?愚民には及びもつかない絡め手と言えましょう」
「篝…」

「なぜ頭を撫でるのです」
「同情だ。あまりに思考が可哀想な人みたいだったからな」
「侮辱はやめなさい」

リボンにぱしっと手を払われた。


――篝、瑚太郎(Terra)


人のことを知っていった結果、アホの子になっちゃった篝ちゃんの図。戦車に書かれた名、明日へ突撃号という表明がこの作品らしくて眩しいと思いました。


無垢とは神性、知性とは不純物、人は日数を重ねるごとに、不完全に近づいていく。でもその不完全さが、愛おしさなのかなぁと思いました。それは知性とは、愛おしさなのだということになるのでしょう。
でもさっきまで馬鹿という話をしていたような?と思った人もいるかもしれませんが、そのことについて真面目に語り始めると本題から離れるうえ難しくて長くて哲学的で冗長で誤るかもしれないというデメリットばかりなので、これ以上の言及はどうか許してください。ただ少しだけ書くと、地球での初期の無知だった篝ちゃんが神性で、今の篝ちゃんが愛らしくて、月での究極の知性の篝ちゃんがどうだったのでしょうか。それが私自身が今持っている答えです。

それは置いておきここで私が言いたいのは、愛おしさとは不完全さからではないかということだけです。Rewriteでは知性をつけていく、赤子が成長していくことを最初は悪いことのように言っていますが、愛おしさはこうして生まれるのだとしたら、それは喜ばしいことなのかもしれないと思いました。アニメ版で追加された戦車篝ちゃんについて語りたかっただけですはい。すごくほほえましかったです。だからこの愛おしさは、単に不純物の蓄積なのではないと思いました。知性活動とは、赤子の成長とは、そして人とは愛おしくて尊いものなのだと、そう思いたくなりました。





世界を裏切るほど、どうしようもなく惹かれる

居場所について考える。
境界線上でいまだどこの何者でもない者が俺だ。
だから選ばれた。だから。
そんな者がたまたま鍵と縁を持って、今この場にいる。

偶然か?
そんな偶然...あるものか?
運命論など興味はなかったが、今は信じられそうだ。
確かにこの仕事、俺にしかできない。
俺だけに与えられた選択肢だったんだ。

それは...何者かであるということ。
どこかではないが、誰かではあるということ。

「あんたと俺で、星の死、止めてみるか?」
「...もとより、それが願いです」

裏切りは濃度を高めた。
人生の苦痛はもっとひどくなりそうだ。
なのにその方角にこそ、篝火が明々と灯っている気がした。

胸をおさえる。
熱く甘く、高鳴っている。
篝という超自然の存在に、俺はどうしようもなく惹かれる。


ーー瑚太朗、篝(Terra)

瑚太朗くんはここで、世界を救うという大仕事にとても大きな高鳴りを見せますが、どうもそれだけではないことがわかります。
どこかのだれかになりたい。篝火のように惹かれる。瑚太朗くんを動かした衝動は、省略してしまいましたが実は最初から、そして最後まで貫いていたように思いました。




感謝も義理もなくても、助けたい

「なぜ思い通りにならないのです」
「それが世界というものだからだ」
「みんなそれで苦しい思いをしてる」

「俺だってそうだ」

「俺を信じてくれ。俺はあんたを裏切らない」
「当たり前です」
「裏切りなど、あってはならないことです」
「...はは」

どうやら計画が達成されたとしても、篝から感謝の言葉はもらえなさそうだが。
...まあ、いいが。


ーー瑚太朗、篝(Terra)

世界は思い通りにならない。それでもそんな世界を相手に、たった一つの想いのために瑚太朗くんは、ずっと人生を賭け続けていましたよね。
そしてその想いは感謝されない、報われないことを瑚太朗くんはどこかで知っていたのかもしれません。それでも篝ちゃんのために生きるという決意をした瑚太朗くんはすごいなって思いました。


瑚太朗くんは小鳥ちゃんと、お互い篝ちゃんを守ってきた者同士として、こんな会話もありました。

「ねえ、どうして篝を助けるの?」
「なんのお金にもならないし、誰にも褒めてもらえないんだよ?」

「どうしてかな」
「瑚太朗君だって、篝にはなんの義理もないはずでしょ?」
「正義の味方をやりたいわけじゃないんでしょ?」

「...そうだな、正義の味方に憧れているわけじゃない」


ーー小鳥、瑚太朗(Terra)


小鳥ちゃんにとっては両親と引き換えに篝を守っていました。それは篝のためではなく、両親との大切な時間のためでした。そんな小鳥ちゃんにとって、瑚太朗くんが篝ちゃんを守ろうとする姿は不思議に映ったんだと思います。

ここではあまりはっきりと語られたわけではないのですが、瑚太朗くんは正義の味方になりたかったわけではなくて、ただ篝ちゃんのことが好きだっただけなんだろうなぁと思います。

「報われない想いなど、虚しいだけのはず…」
「それでもいいんだ」


ーー瑚太朗、篝(Terra)

この瑚太朗くんのたった一つの想いが最後のあそこにたどり着くなんて本当に感慨深いです。
そんな瑚太朗くんだからこそ、世界と人類だけだった篝ちゃんが、最後に個体として、そして瑚太朗くんを一人の人間として尊く思ったのかもしれません。それはもうこの結末なんて涙なしでなんて見られませんでした。





争いと愛、良い記憶と環境問題の関係性

「ヒトはそこまで瞬時に連携するのですか?」

「当たり前だろ!素人じゃないんだ!」
「歴史の中で、何度も鍵を殺してきているんだ。ノウハウがある!」
「人間の異物を見つけ、狩り立てる力を見くびるな!」

「...」
「篝にはわかりません」
「なぜヒトはそこまでの感受性を持ちながら、こうも停滞してしまっているのでしょう?」
「これだけの知性で、良い記憶が残せぬはずはないというのに」

「...人間はどうしても争っちまうからな」
「それは、ほんと、どうしてだろうな...俺にもわからないよ」


ーー瑚太朗、篝(Terra)

ここで篝ちゃんが言いたいのは、人間には良い記憶を見つけることは充分可能であるということでしょうね。それなのに見つからないのは争うから、それは愛とかけ離れているからとも考えられそうです。命が広がるのも、良い記憶を残すためにも、このような概念がとても大切だということになるのかもしれません。





心配だから怒っている

「あんたを狙っている連中のふところに飛び込んでどうする!」
「...篝に敵意を向けてはならない」

俺の怒鳴り声に、リボンが反応して大きく展開する。

「心配で怒ってるんだぞ!」


ーー瑚太朗、篝(Terra)

篝ちゃんは怒り=敵意と、それは単純な感情として受け取ったようです。好きだからこそ怒るーーみたいなことを考察で話した気がしましたが、本当の好きとはこういうことなんでしょうね。そしてかつての現象としての瑚太朗くんが好きを知らなかったように、現象の篝ちゃんにもわからないものだったのでしょう。

それにしても、リボンという刃物を目の前にしても、それでも怯まずに強い意志を見せつけた瑚太朗くんはすごいですね。ここまで篝ちゃんのためを思ってくれる瑚太朗くんはかっこいいかもしれないです。





瑚太郎くんの篝ちゃんへの告白と壮大な失恋


瑚太郎くんの篝ちゃんへの告白と壮大な失恋についてはもう充分以上に語ったのでもうこれ以上は何も語れないですが、この前後でRewriteは展開が大きく動くわけですから、この場面は入れたほうがよいと思いました。瑚太郎くんは本当は星ではなく篝ちゃんのために動いていたこと、そして篝ちゃんが好きなこと、これは二重の意味で告白だったと思いました。

ここはtop3に入れるくらい好きだと言ったので、もう少しだけ語ってみたいなと思います。ここはずっと現象存在としての意識であった篝ちゃんが、まさかの感情を宿してしまう場面で、篝ちゃんもまた、現象でありながらも心を持てることを見せるという、話の転換点ともいうべき、実はちょっとすごい瞬間だったのではないかと思っています。


「ちょっとした縁でも、できれば壊したくないと思ってるからかな」
「ちょっとした縁のために星が滅びます」

「その時は...」
「滅びを受け入れる」

「愚かなホモ・デメンス。あなたがたは狂ってしまっています!」
「...言葉もない」
「あなたがそのような態度では、どうあがこうと、良い記憶など得られるはずもありません」
「...面目ない」

黙りこくる。
不思議な長さ。
俺は表をあげた。

「ひどい...」

泣いていた。

「あなたたちには、生き残る気さえなかったのですか...」
「なら何のために生まれてきたのです!」
「篝...あんた、感情が...」

人に触れて人を学ぶ。
短期間で言葉を学習したように、篝は人間理解を一段深めた。

感情的に叫ぶ。

「この星から一歩も出ぬまま終わるつもりですか?」
「小さな個の幸せばかり追い求め、大きな可能性を放棄してしまうというのですか!」

ここでは、瑚太朗くんが何を今まで求めてきたのか、それがよくわかると思います。星の運命はやはりどうでもよくて、それよりも大切にしたいと思っていたものがあったのです。
篝ちゃんの問い「何のために生まれてきたのか?」。それはもうここまで書いてきた以上簡単に答えが出ますよね。それは人類全体の永続の幸福だったのでしょうか。瑚太朗くんにとってはそうではありませんでした。小さな、ささやかな幸福のためにずっと動いて、そう生きることを望んだ。それがどんなにちっぽけでの、それでもとても尊いものだからです。

もうひとつ、篝ちゃんは生命への執着(アウロラと再進化のお話です)は強くとも、人への執着はありませんでした。それは、命さえ存続すれば、人という形ではなくても良いということです。
しかし、ここの篝ちゃんはどうでしょう。ここで篝ちゃんが感情的に叫んでいたこと、それはまさしく人への愛着ではないでしょうか。人に触れて学び理解を深めていくうちに、感情と人への愛着から、そんな愛おしいものが滅んでほしくはないから、ここで初めて泣いて、そして感情的に叫んだように思います。現象だった篝ちゃんにも、尊厳はあるのでした。

篝ちゃんも瑚太朗くんも、ここで初めてお互いの信じる、愛というものをぶつけ合っていました。


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(頭で理解してても感情が......心が裏切る。それが人間なんだよ......篝)

二人はどちらも現象から始まり、人になって、そうして感情の末にこうなるのですから、衝撃とも思えました。これが本物の超高位概念なんだな、作者はこの素晴らしさを書きたかったのかもと思いました。うん......圧倒的すぎてこちらも涙が止まらないです......。

どうしたものか。
興奮の極みにある篝。鎮静剤にかわる行為はあるか?
攻撃すれば敵対と見なされる。
和解の道がなくなるおそれがある。
どうにかして味方だと知らせるしかない。

もっとも衝撃的な、好意を示す振るまい。それは...
隙を見つけて、篝の唇に吸いついた。


ーー瑚太朗、篝(Terra)

瑚太朗くんが篝ちゃんに示したかったもの、それは好意でした。裏切らないと誓った瑚太朗くんが、裏切りのようなことをして、それでも味方だという。感情が生まれた篝ちゃんにも、この意味と概念には到底理解が及ばないと、そういうことになるのでしょう。

この後に続く話は確か考察本編で書いた、星を救いたいからじゃなくて惹かれたから、崇拝ではなくて好きだという部分だったと思います。あそこは頑張って書いた記憶ですが、やっぱりこの部分の内容があまりにも濃かったですからね。

この部分は書いていて、瑚太朗くんさらっととんでもないことを言っていると思いました。Rewriteのテーマは星の運命だとする考察が今までの主流でしたが、このセリフで今までの考察を完膚なきまで超えることができました。そんなテーマは、愛の前ではどうでもよくて、愛こそ本当のテーマだと最後まで見せつけてくれました。ここまでの力強い感情には本当に感動と震えが止まらなかった...。
ここは自分が欲しかった言葉がいっぱいあって、この考察記事の他との違いを確固たるものにしてくれた部分だったと思います。この作品の壮大な設定を前に、更にそれを超えるこの力強い感情に、この強烈に感情的なテーマには、凄まじい完成度だととにかく驚嘆に値します。哲学や自然・生命観の枠を超えたとんでもないレベルの傑作でした。

そんなこと関係なしにこの部分での瑚太朗くんと篝ちゃんが好きすぎて......はい、とっても好きですっ......!




“篝火を追うもの”


さて、この後には告白失敗の場面があるのですが、ここからがまたすごいのですよね。普通ならこのように叶わなかった恋。見返りもない、報われなかった恋。これで終わってしまってもおかしくはありません。ですがここで、瑚太朗くんは大きな行動を起こします。

ずっと、どこかに属することばかり考えてきた。
居場所がなくなるだけで不安になる。
自分にさえなれていないからだ。
どこかの誰かではなく、何者にかなるべきだった。
俺というものになるべきだった。

なら、それは何だ?
いろんな人々の顔が脳裏をよぎる。
皆、自分で決めた人生を歩んでいた。

今宮は、学校の外で落ちこぼれスタートでも、立派に挽回してみせた。
長居も一度は脱落したが、新たな自分を見つけた。
ルイスは俺と出会った時にはすでにルイスだった。
江坂さんや、加島桜、あの洲崎や三国だって疑うことなく自我だった。

「俺は」

家まで出て、過去だって捨てた。
篝を手伝うと決めたはずが、どこかで守りに入っていた。

...じゃあ冷酷になれるのか。
知っている人たちを犠牲にできるのか。できるはずがない。
できると思っていても、実際にそういうことになったら迷いが生じる。
俺が支払うことのできるコストは、もうないのか?


ーー瑚太朗(Terra)

だから小鳥に操作を頼んだ。

「今後、俺が連絡したら、この場所に網を張ってもらいたいんだ」
「どうするの?」
「やっぱり篝を手助けする。嫌がられるだろうけど、やれるだけやる」


ーー瑚太朗、小鳥(Terra)

状況が動かないのなら、動かすべきだった。
それが篝の希望でもあったのに。
リスクを恐れて行動をためらっていた。

「その生き方は、もうやめだ」

おまえは何者だ。
自分に問う。
答えはすぐに生じた。

(俺は、篝を追う者)

くらやみの海で、遠くに浮かぶ篝火を追う、ひとりきりの船頭。
そういうものが俺だ。
過酷な道に、仲間は連れていない。
だからひとりだ。
もうこのビジョンを見失うまい。

知らず知らずのうちに俺は笑っている。
余裕などないはずなのに、心が落ち着いていた。


ーー瑚太朗(Terra)

ここからの瑚太朗くんの決意する瞬間は本当にかっこいいですね。もうここからは報われなくても、それでも天王寺瑚太朗はただひとり、その個体として、本当に好きだと思えることに全てを捨てる決意をします。
そうして天王寺瑚太朗は全てを手放し、全てを失い、全てを賭けていく。でもそれはたった一つの大切なものーー“愛”だけは決して見失わず、ただ追い求める。そんな「篝火を追うもの」としての人生を歩んでいくことになります。
ここは瑚太朗の中では全てが崩れて、全てが大きく失われた瞬間だったと思います。たった一つの愛に生きること、その重さが苦しくも全力で描かれていました。篝火だけを見失わなければ、他は何を見失ってでも、必死に追い求め続けていくことがたった1つのささやかな愛だったのです。
本当はここ、考察本編に入れたいくらいの力強い内容でした。残念ながら長すぎてうまく入れられなかったのですが、篝の決意と共に、瑚太朗も全てを賭けられる1つのものへの決意を固めたのでした。

篝火に導かれるとはただ惹き寄せられるだけではなく、自らの意志で人生を賭けてまで追うものだと瑚太朗くんは決めました。そうした瑚太朗くんの人生全てを賭けたものは、それだけ何にも変えられない尊さだと思いました。





江坂と瑚太朗の関係

それで話が結末に向かうにつれ、江坂さんは本当に良い人だったなぁと思いました。


「兵隊に求められる資質は、英雄のそれとはまったく異なる」
「超人は傲慢なものだ。英雄になりたがる。だが私は、兵隊として自分を鍛えた」
天王寺…英雄になるな。兵士であれ」


――江坂(Terra)


江坂さんの教えのとおりに瑚太郎くんはがんばり、戦争地帯でも兵士であり続けました。江坂さんの教えは、いつも瑚太郎くんの胸に生き続けていたのかもしれません。
それでも、ガイアとガーディアンの両方ともが鍵を狙い、愛する篝のために世界を相手に戦おうとした瑚太郎くんの姿は、私には英雄のように見えました。そう考えると、江坂さんと瑚太郎くんは本当に良い師匠と弟子の関係だったと、そう思いました。





良い記憶とは何か

切り開く力と、意志。
篝の求めた良い記憶がこれだ。
俺なりにベストを尽くした。
あとは時間の問題か。
今から変革で、間に合うか、手遅れか...

俺みたいな悪党は、神さまにはちと祈りにくい。
だから星に祈るしかない。
篝の腰を抱いたまま両手を合わせた。
こわばった背中に、額をつける。
全ての終わりまで、あと一日か二日。
どうか、この子を保たせてください。


ーー瑚太朗、篝(Terra)

良い記憶とは何か?環境問題を根底にした考察ですと、星を食いつぶしてでも人は広がっていかなければならないだと思われます。
しかし、プロローグでは「幸せとは何か?」という問いかけがありました。だからより根本的な答えは、良い記憶とは切り開く力と意志を持ち、幸せに生きるという人生観そのものだと思いました。

星を食いつぶすことはここでは登場せず、ただ切り開く力と意志ということだけが2度も登場しています。星を食いつぶすことよりも、このような人の愛おしさを強調しているように思いました

瑚太朗くんは篝ちゃんへの「愛」のために全てを捨てて、そして最後まで駆け抜けました。その未来を切り開く力と意志を持った人生は、篝ちゃんの目には「良い記憶」に見えたのかもしれないと思いました。
だからこそ篝ちゃんは最後に、個体として瑚太朗くんを、愛おしく思ったのかもしれません

そのため「良い記憶」とは、ただ食いつぶすということではなく、“何のために食いつぶしたのか”ということに注目してほしいです。それは、愛するために、ということです。
Rewriteでは最後の資源として命に手をつけます。そうすると、瑚太朗くんも命を資源にしていましたが、それで何を成し遂げようとしていたのでしょうか。それは全て、愛する篝のためでした。
愛が無ければ拡がれない、そもそも拡がる理由もまた愛であることは高位概念で示されていました。だから資源は食いつぶすけれど、それでも愛する気持ちも大切なのではないか、と思いました。

星が求めた良い記憶、それは命を賭けて愛に生きた瑚太朗くんを、篝ちゃんが最後には認めてくれたように、その良い記憶の本質はーー心(そして星も)を動かしたーー愛だったのではないか、と思いました。

ちなみに田中ロミオさんのライトノベル人類は衰退しました」の3巻でも良い記憶論が展開されるのですが、食いつぶすということは一言も登場しないのですよね。
ーーーーそれはあたたかいもの、つまり「愛」というものが、星にとっての良い記憶だという説明がその代わりに登場します。良い記憶とは、今まで言われてきたような食いつぶすという冷たいだけのものではなく、もっとあたたかいもののような気が私にはしています。


そして悪党だったとしても、大切に思うものはあるんだなやっぱりとここでも思いました。瑚太朗くんにとって篝ちゃんは、この日まであらゆる仕掛けを用意して、そしてその子のために祈りまで捧げるほど、その想いは熱いだけではなく、とても切実なものを感じましたね。





地球救済ハンター

これに続いて地球救済ハンターもなかなか卑怯です。瑚太郎くんが子供の頃に背伸びしてやっていた、魔物を刈るお遊びでした。ガーディアンに入った時に同じチームの今宮くんには、その地球救済ハンターのことをすごくバカにされていました。

でも大人になるにつれてもうそんなことはしないと言うようになります。
しかし最後の最後で今宮くんに裏切りがばれてしまい、その時におまえは何者だったんだ?と聞かれる場面があります。



天王寺、よくも長いこと騙してくれちゃったりしやがりましたね?」

「聞きたいことしかねぇくらいだけど...時間ねぇしな」
「おっ死ぬ前にひとつだけ教えてくださいよ」
「...おめーいったい何だったの?」

そんな質問を、ずっと昔、自分自身にしたことがある。
笑ってしまった。

ーー今宮、瑚太朗(Terra)

その問いに対して、ここで瑚太朗くんがあの一言。


「俺は…地球救済ハンターだよ」


――瑚太郎(Terra)


なにこれすごくかっこいい......。子供の頃の夢は大人になるにつれて失っていくけれど、それでも本気で追いかける瑚太郎くんかっこよすぎるでしょうと本気で思いました。ものすごくかっこいい伏線でした。
アニメ版ではここでサイキックラバーの曲が入るのも、まさに愛する人のために戦う地球救済ハンター(ヒーロー)という感じがしてすっっっごくかっこよかったです!

愛というのは純粋さだと言いましたが、その愛のためだけに地球を救う。それは童心に帰るようなーー子供が持つ純粋さにも似るのかなと思います。この純粋に愛のためだけに生きる瑚太郎くんは、子供っぽいのぬあまりにも純粋で、それはもう泣けてしまいます。
ここでの遊び心に溢れたセリフはセンスありますね。アニメ版ではさらに凄い演出にBGMまで付くので盛り上がりが凄かったですよね。とても心に残っています。

そして裏切ったはずの今宮くんたちを今度は助けたときに、瑚太郎くんは何がしたいんだと聞かれます。

「マジで...何してるんだよ...おまえは」


ーー今宮(Terra)


「言っただろ、星を救うって」
「そうでないと、気を引けない女がいるからな」


――瑚太郎(Terra)


かっこよすぎますね。ここでも星を救うのは、好きな人がいるからだと言われているので、やっぱりこれは愛に生きた瑚太郎くんの物語でもあるのだと思います。

恋をしてしまった相手に対しては、もう誰の目から見ても何をしているのか誰にも理解してもらえず、本当に何をしているのかと奇怪に見えたに違いありません。
でもそれが、愛なのかもしれません。たった一人のために何かをするとは、全てを賭けるとは、こういうことなのでしょうね。この愛のためだけに星を救う決意をし、本当に星の運命さえ変えてしまうのですから、純粋な愛こそ真実だと思わされますね。そんな力強さを思い知らされました。





ポイントオブノーリターン

右腕からあふれ出るものは、もはや赤い血ではない。
鈍く灯る、赤緑の発光体...命そのものだった。
刃物であり蔓であるものが、関節をいくつも挟みながら何本も生え出てくる。



まだ命は残っている。わずかに、残っている。
それを汲み、飲み干す。
もうひとすくいほどしか残らない。
もう構わなかった。

ポイントオブノーリターン。
引き返せない一線など、とうに超えていた。


ーー瑚太朗、地竜(Terra)

地竜(↑のティラノサウルス・レックスみたいなやつ)戦で再び出てくる言葉「ポイントオブノーリターン」というのも、この作品が環境問題として引き返せない一線を越えたこと、そして瑚太郎くんの身体も気持ちもまた引き返せない一線を超えたというのも、この作品が環境問題と愛という2つのテーマのまさかのクロスポイントになっていて、交差して両立させていることにはとにかく驚かされました。
原作のここでサイキックラバーの曲が流れるのもいよいよ結末に向かっているという気持ちになれて良かったです。この作品Terra編に入ってからがすごすぎるでしょう......。

瑚太朗くんのこの決め台詞をここで言ってしまうことも、もう単純にかっこよかったです。それとここで瑚太朗くんから流れ出る液体はもう血ではなく、緑色の液体になっていました。
誰かを愛するという気持ちは、瑚太朗くんの体をとうとう人間ではなくさせてしまいましたが、瑚太朗くんはとても人間らしかったのではないかと思いました。愛に生きるということ、その重さを最後まで突き通す続けたのはお見事でした。

この後に続く「砕けろ、ガイア!」もまた、瑚太朗くんが単に地竜を砕きたかったというだけではなく、篝ちゃんの時間を縮めようとするガイアの思想自体を砕く、そしてそれは篝ちゃんに対しての気持ちがそうさせるのかなと思いました。
そう何かを思わずにはいられないくらいの力強い意志を感じましたよね。ポイントオブノーリターンに続いてセリフの固有さだけではなく、そこに込められている力強い想い、愛する人のためだからこそカッコいいということですね。

そしてここでさらに面白いのは、地竜と瑚太朗くんの対話なんですよね。これから決戦というところで、リライトを使用するためとはいえ少しの対話を行うところや、地竜が瑚太朗くんのリライトの使用を見抜いていながら、その対話に応じたり準備が整うまで待ってくれたりと、不思議とお互いの命への尊重みたいなものが一瞬とはいえあったのには驚きました。
この作品は「敵対」だけでは全ては語れないとは言いましたが、恋のためにここまできた瑚太朗くんと、知性を宿した魔物である地竜ーーそれはお互いに高みを目指した者同士の、そんなお互いを認め合うような想いがそこにはあったように思いました。

ここはとても熱い場面なのですが、それは不思議なつながり、そういったものを感じさせられたからだと思います。

というか、愛の高位概念と月での瑚太朗くんのメッセージでも思いましたが、さらに地球救済ハンターといい、さらにここのポイントオブノーリターンはもうこのライターさん天才か!?と思いましたね。
細かく丁寧でありながらも、異様なレベルの高さとこの印象深さ、そして感動の伏線回収には本当に驚きましたよね。





好きであること、愛してるということ

そうして最後にはヒナギクの丘へと導かれるように辿り着いた瑚太郎くんは、篝ちゃんのことを忘れてしまったのに、その名前を叫んでしまうのも魂の叫びみたいでかっこよいと思いました。
その愛する人の名前を思い出せたのは、圧縮された四角い塊を見つけます。それは月での瑚太郎くんが、「いつかまた君に会いたい」と残したメッセージでした。そして月での篝の姿を思い出し、さらに愛の概念探求で見た愛の概念をここでも回想しとうとう辿り着いています。あの圧縮されたメッセージと、知性跳躍で見つけた愛の概念は哲学的すぎてどうでもよいように思えますが、実はとっても大切な伏線だったことに震えさせられました。これは巧かったです。
その一方で非常に難解で狂気さえ感じてしまうような方法ではありますが、それでもこの愛に溢れた伏線回収は本当に丁寧で凄いですし、感動さえしてしまいました。さらに伏線以上に、込められたメッセージと回収が暖かく愛でいっぱいなことがステキでした!


篝ちゃんを手にかけてしまう場面では、「好き」であるということと、「愛し」ていることの違いみたいなことをちょっと思いました。

好きであれば、殺せると思う。


――最果てのイマ姉弟


好きであるからこそ、殺すことができる。それは好きな人の命に見合うものを用意できるからこそ、殺せるのかなというのが私の考えです。例えば瑚太郎くんが江坂さんとの戦闘で、次のような会話をしています。

「…俺の最後の仕事を、鍵に見せます」
「それで滅びを諦めてくれるなら、人は可能性を掴むことができるでしょう」

「そうか…それなりの考えは、あるということだな」
「ならば良しとしよう」
「敗北もたまにはいい。今まで認めがたいと思っていた、たくさんのことを許容できる」

「江坂さんたちのしたこと、みんなのしてきたこと、無駄にはしません」


――瑚太郎、江坂(Terra)


好きであるからこそ、殺せるというのは、この江坂さんとの会話が特に物語っているように思いました。瑚太郎くんは親しい人を殺すことはほとんどありませんでしたが、唯一の例外は江坂さんだったように思います。好きな人を殺したときに抱く気持ちは負い目のような罪悪感です。では、「好き」であることの次は、「愛し」ていることとの違いみたいなものについて、私の考えを書いてみます。


「瑚太郎になら、殺されてもいいです」
「できるわけ…ないだろうが」


――Rewrite 12話「滅びの歌」


アニメ版のセリフは原作と結構違っていて、もしかしたら間違いかもしれませんので、話半分程度に聞いてもらえたらと思います。

「愛し」ているのなら、殺すことなんてできません。瑚太郎くんは、それは自分の意志ではなかったように。そして愛している人を殺してしまったのなら、それは罪悪感のような乾燥したものではなく、深い悲しみという感情が身に浸されます。好きだという多への感情と、愛という個への感情は、尊さという見方からも二つは違う、愛は高位のものであることがわかります。ここまでがアニメからの考察です。この結論だけは、アニメからしか出せそうになかったので間違いかもです。

ただし、瑚太朗くんが最後に篝ちゃんへ起こした行動、そのときのセリフはやはり印象的でした。

自分の決断とは思えない。
俺はずっと、篝に会うために頑張ってきたのに。


ーー瑚太朗(Terra)

瑚太朗くんにとってそれは呪いで、そして自分の意志ではありませんでした。それは篝火に導かれた結果、それは叶わない恋だったように思いました。
「そんなことはできない」という強い主張があったのも、それが瑚太朗くんの意志ではなかったことへの強い裏付けのように思います。つまり瑚太朗くんの意志だけでは、篝ちゃんを殺すことなんて絶対にできないのだと思いました。

それは篝ちゃんへの愛なのか、それとも篝ちゃんの愛したものへ応えるためだったのか。そのどちらなのかは分かりませんが、別の強いものが加わった結果、儚い結果だったように思いました。





食いつぶすこと、愛すること

いよいよの結末で、月に篝ちゃんに会う場面。お恥ずかしいことながら、初めてゲームをプレイしたときにオカ研のみんなで白い道を歩くあのCGと、芽を取り囲むCGは「???」という気持ちで、何度見てもその認識は変わらずにずっとそのままにしていました。
でもアニメ版を見て、あーなるほどーと思いました。月に向かっていくこと、最後の篝ちゃんといちゃつく場面を見たときに、間違いなくこれは「愛」の物語なのだという考えがようやく確かなものとなりました。アニメのあのラストが無ければ、アニメのそれまでの過程が無ければ、この考察記事自体が生まれませんでした。
それで原作で特に印象に残った愛の高位概念と、アニメで印象に残ったラストを結合させて、こんな解釈もありますよ、程度の小規模の記事の予定だったのに、あれよあれよと壮大な記事になってしまったのは自分でも驚いています。
もともと篝ちゃんとのイチャイチャだけを書きたかったのですが、こういった既存の固定観念に捉われない発想ができたのは、私自身が単なる萌えゲーマーで、環境問題もいいけどとにかく篝ちゃんとのイチャイチャも最高ですよ!というしょうもない凡俗な考えが源流でした。
Rewriteには愛とは超高位概念で、そして萌えゲーマーとしての生き方を肯定されたように思いました本当にありがとうございますこれからも萌えゲーマーとして精進します!この考察を終えたときのやりがいと達成感はすごかった......。

アニメは荒削りで作画も悪いところが目立ち、出来が悪いと言われますが、それでも「愛」を持って作られたのは確かだと私は思います。あのラストが見られただけでも価値はありましたが、それまででもたくさん泣かされて本当に良い作品だと思いました。

この記事の最後のまとめの文で「母なる星を食いつぶしてでも、人は広がっていかねばならない」。これは、あーこれ書いちゃうのかーと言う気持ちでした。きっとこのRewriteという作品観すら変えかねないという確信さえあり、自分が間違ったことを言っていないかとても不安に思いました。でもこれを書かないとこの作品が愛の物語だということにならないのですから、最後はこの言葉で終わらせることにしました。今までの自然環境考察群とは180度違うことを書いたつもりですので、それにふさわしいかなと思いまして......ちょっと調子に乗りすぎたかもしれません......。
でも書いた後に思ったことなのですが、こうしてみるとRewriteは確かにそんな物語だったよなぁと不思議と個人的には納得できる気持ちもありました。

ルイスを思い出した。
彼の技を。

それはどこから来たのだろう?
意識が飛ぶ。
遠い、過去の記憶。
遺伝子の外に置かれた、ヒトの記憶。
半裸の男が、槍を持っている。
今の人間とは体格がまるで違う。
骨格、脳のサイズ、すべてが。
男の前を、巨鳥が悠然と横切っている。
高く、遠い。
とうてい届くはずのない距離。
だが、挑む。
歴史さえもはるかに超えた超過去。
記録されたこともない歴史のプロセスにおいて、誰もなしえないことに挑んだ者たちがいた。

彼はひとつの時代では数えるほどしかいなかった。
だが実在した。
時間の方向に沿って数えれば、驚くほどの数がいたのだ。
最初のひとりは失敗した。
二人目も。
百人目も。
千人目が初めて翼をかすめた。
飽くなき探求は続けられた。
成功したのは、数千年前という、歴史的にはつい最近のことだ。
獲得形質。
後天的技能を伝承する現象。
それを読み出す行為こそ、超人化の精髄に他ならない。
脳裏に技術がひらめく。脳の成立過程においてもっとも原始的とされる部位に、それは打たれる。

だから理屈では説明できない。
本能と感覚が体得するだけ。感覚的理解。
その奇跡の技能を、さらに超人の身体能力で実行したとき、超人的な技は超人の技へと昇華する。
いつしか俺の手に、小さな投げ槍が握られていた。
槍ではない…枝だった。
あたりに生い茂っている中から、最も槍に近い形状・重量のそれを、無意識に選別していた。
枝の表面を血が覆っていく。
手首から流れ出る俺の血…
自らの意志があるかのように枝分かれし、各部を補強した。
偶然にも民族的な赤い線状模様を描き、それは完成をみる。

「…ルイス、技を借りるよ」

構える。どう投げればいいかはわかっている。
皆が、教えてくれた。


――瑚太郎(Terra)


これは瑚太郎くんがルイスという人の技を借りる場面です。ルイスくんはTerraでの登場人物で、瑚太郎くんが外国で出会った良き戦友と呼べる存在でした。しかし彼は、瑚太郎くんを助けるために命を失っています。
瑚太郎くんはそんなルイス君のことをただ食いつぶしていただけなのかというと、こうして彼のことを思い出してあげていたようにも思いました。江坂さんについても同じで、ただ乗り越えるための存在というわけではなく、好きだった存在だと思います。

これを裏付けるために、自分では排斥され続けたと言ってきた瑚太朗くんが、これまで出会ってきた人たちについて、振り返ってみたいなと思います。





ルイスについて

まずはやっぱりルイスくんから。ルイスくんは戦場で出会った初めての戦友で、何かあったときは必ず瑚太朗くんを助けてくれて、異国で言葉が通じない二人は助け合う仲でした。

アニメ版追加での余談ですが、戦場で初めて人を殺した瑚太朗くんの描写は原作ではかなり淡白に書かれていましたが、アニメでは瑚太朗くんがそのことに強い嫌悪を持っていたことが補足されています。瑚太朗くんは愛を裏切るような行為はできなかったのですね。

ルイスくんについては、サッカーの試合で高い身体能力を発揮したことから、この戦場に連れて来られたという過去が話されます。主人公も似た境遇だったと意気投合する場面でした。

「...昔、友達を殴ったことがある」
「ちょっとしたケンカで」
「友達は、それで死んでしまった」
「次の日、黒服も男たちが来たよ」
「サッカーのテストなんて嘘さ」
「それも、年下の友達だった」

「...そう」
「ここに志願したのは、自分を痛めつけるためさ」
「けど、もうこの生き方はやめる」
「停滞するのはもうやめだ」

「俺も...そうしようかな」


ーールイス、瑚太朗(Terra)

しかしルイスくんは瑚太朗相手に嘘をついていたということになります。でもそれが瑚太朗くんへの裏切りだったのかというと、そうではありませんでした。それが、戦友だったということです。そしてルイスくんだって、大切だと思っていたことのために自分の意志で、この戦場に立っていました。

ルイスくんは戦場でのピンチで、主人公と子供たちを逃がすために、敵を槍で撃ち落とす過程で、命を落としてしまいます。

「走れ!」

手を振ると、ルイスが首を横に振った。
手をあげた。別れの挨拶をするみたいに。
...笑っていた。
直後、爆炎がルイスのいた一帯を埋め尽くした。
膝が折れる。

「そういうの...やめろよ...」


ーー瑚太朗、ルイス(Terra)

理性ではわかっていることも、体はなかなか理解してくれない。
全身から冷や汗が噴き出していた。
遠く工場施設は炎に包まれていて、いつかテレビで観た遠い国の戦場を彷彿とさせた。

遠い国?
まさにこの大地のことじゃないのか。
戦争?
まさにこのことじゃないのか。
しばらく打たれたように立ち尽くしていた。
立ち直れたのは、守るべき者たちがいたからだ。


ーー瑚太朗(Terra)

そんなルイスくんを見て、ルイスくんの命のぶんまで生きること、そんな静かな決意を与えてくれた人でした。初めての戦友で、下位の者を卑下する戦場において得難いものであっただけに、その喪失はやっぱり悲しいと思わずにはいられませんでした。





加島桜について

好ましい人ではなかったのに入れる必要はあるの?と思ってしまいますが、書きたいこともあるので......。

加島桜はガイア主義マーテルの聖女で、悪役っぽい人でした。月での篝ちゃんとあらゆる生命の可能性すら根絶しようとしたので、あんまり良い記憶はありません。
ただ、そんな加島桜もまた、自我が憎悪に侵食される恐怖に苛まれているようなエピソードがアニメで追加されていたことからも、そう簡単なものではないというのがRewriteという作品なのでしょうね。尊厳というものを考慮するのであれば、彼女を悪役と見なすわけにもいかない部分もあるのかもと思いました。

でも、Moonでは加島桜との出会いで瑚太朗くんの想いがはっきりするところもありましたね。ミドウさん同様、この作品では「敵対」を、ただの一言で語れないところが深いと思いますね。




大西について

大西くんとは主人公とは超人の会で一緒だった人でした。よく憶えていませんが。それで三国班というエリートの人たちの集まりの1人でした。ちなみに三国くんは同期の中で一番の才能を持っていましたが、ある作戦で魔物に一人で挑もうとした結果、命を落としています。

そんな大西くんですが、モブっぽくもありますが結構重要な設定があり、瑚太朗くんも少し特別な思いが語られています。

柔道でも能くするような大柄な男が、勢いよく頭を下げる。
篝をも見通せるという、認識かく乱耐性を持つ超人。
『目』とも呼ばれる。


こいつとは、私語を叩かないことに決めた。
...気に入ってしまったら、殺せなくなるだろうから。


ーー瑚太朗、大西(Terra)

大西くんは篝ちゃんが見えるということは、篝ちゃんの敵になってしまうことはわかりきっていますね。ただそうだとしても、気に入ってしまったら殺せない。愛する人を守りたいという気持ち、でも情を捨てきれないという想い、その2つが瑚太朗くんの生き方をよく表していると思います。
瑚太朗くんは愛に生きることを決めていますが、それで全ての人を愛せるわけではなく、愛するために裏切らなくてはいけないことも、なかなかに複雑であることがわかります。





ヤスミンについて

ヤスミンちゃんは戦場で出会った子供のひとりですね。戦争の日々の中で、その地の子供たちと遊ぶ時間は、瑚太朗くんにとって癒しだったように思いました。

日本に戻ってからも、瑚太朗くんはヤスミンちゃんとパソコンを通じてやり取りがあって、瑚太朗くんの作戦をずっと影で支えてくれていた子でした。

『こうなるとは思っていましたけど、今、少し泣いてしまいました』

『今までありがとう。何年も犠牲にさせてしまって、すまない』

『そんなことないです。やりがいのある仕事でした』
『みんなそう言ってました。私もそう思います』

〜中略〜

『さようなら愛しい人。あなたが良き星を見つけられますように』


ーーJasmine2015、koko1010(Terra)

ヤスミンちゃんは瑚太朗くんが残してくれたメッセージを、最後にみんなに伝えるという、大きな役割をはたしてくれますが、そのときのヤスミンちゃんの一言ひとことの演出は好きでしたね。

アニメ版では登場場面が増えたせいか、とても印象に残っているのに、本編から抜き出せるセリフは思ったよりも多くなかったです...
あの子は原作の終わりで見せ場がありますが、アニメでは瑚太朗くんと過ごした日々がいっぱい伝わってきて、それが良かったなぁ......。

アニメではこういった立ち絵も用意されないけれど大活躍するヒロインたちの絵があってそれが良かったです。
RewriteはTerraに入ってからも面白いのに、CGはかなり少ない気がするのはちょっと残念でしたね。展開を印象づけるCGでもっと感動に浸りたかったので、アニメには少し救いを感じました。





小鳥について

小鳥ちゃんはTerraでは何気に結構活躍しますよね。共通や個別のときとは違い、幼少のときには結構性格が違っていたことにびっくりしました。

最初は子供らしくない小鳥ちゃんとは険悪だったのですが、傷ついたペロという犬を助けたことを通して、少しだけ通じ合えたところもありました。

「教えてやるよ」
「人類の可能性、星が人に期待することをさ」
「いいか。それは地球を大切にすることじゃないんだ」
「リサイクルや、緑化や、エコじゃなかったんだ」
「唯一の可能性、それは良い記憶を示すこと」
「星に、人類の可能性を証明することなんだ」
「可能性って、つまりなーー」

「そんなのどうでもいいのっ」

「あたしは...あたしが言いたいのは...そんなんじゃない...」
「約束...」
「約束?」

「まだ、一緒に遊んでもらってないっ!」


ーー小鳥、瑚太朗(Terra)


ここでの約束とは、瑚太朗くんが戦場に行く前に二人がであったときに、また会えたら一緒にお祭りに行こうというものでした。
瑚太朗くんにとって地球環境や星の運命が、愛という前では大きな問題ではなかったように、小鳥ちゃんにとってもそんなことは約束の前ではどうでも良かったのです。小鳥ちゃんだって、大切なもののために生きたいと思っていたのでしょう。

俺にとっては小さな約束。
だけど子供にとっては、世界そのものと同じくらい、大きな...
だけど、その気持ちには応えられない。
なぜなら俺はもうじき...

「...似たもの同士だな」
「俺も、おまえも、そして篝も」
「篝も...?」
「そうだ」
「篝も、ひとりぼっちなんだ」

ずっと前から、そのことを知っていた。
そんな気がする。

「おまえには同情しないでもないけど...でも悪いな」
「俺は篝を選ぶよ」

銃を抜く。
フルオートで三発ずつ、ご両親の頭に撃ち込んだ。


「どうしてっ!どうしてこんなこと!?」
「いつか、こうしてやるつもりだった」

心の中で、おふたりに詫びた。

「やっと眠らせてやれた」
「...なんで、いつも...」
「実はな小鳥」
「おまえのこと、ずっと邪魔に思ってたんだ」

少女の泣き顔が停止する。

「本当に鬱陶しかったぜ」
「でもこれでせいせいしたよ」
「.........」
「憎たらしいガキだったからな、おまえは」
「ざまあみろ、だ」

「...あんたなんか」

決然と俺を見上げた。

「あんたなんか嫌い。死んじゃえばいい!」

だっと走り去るのを見送る。
もっと早くこうしているべきだったと後悔する。
市外に逃がしてやれれば...
いや、どこにいても同じだ。
俺のプランが吉と出るか凶と出るか、それまで篝を守れるか、それだけなんだ。

世界の命運と、じきに繋がっている感覚はこわい。
どこかで心の支えを必要としていて...
だから拒絶を避けて...
今の今まで、先延ばしにしてしまった。

でももう、はじまった。
すべてを裏切ることになる。
組織も、人々も、人類さえも。
篝の味方をするとは、そういうことだ。


ーー瑚太朗、小鳥(Terra)


ここでの小鳥ちゃんの気持ちを思うとすごく切ない......。瑚太朗くんにとって小鳥ちゃんの好意、それだって簡単に得られたものではないですし、篝を守るという共通の目的を持って行動を共にしていたところもあるのでしょうから、情が移らないはずはありませんでした。
それでも、そのためにはこうするしかないと、小鳥ちゃんの一番大切なものを殺めてしまうという選択はもう決定的な小鳥ちゃんへの裏切りでした。そのために悪そのものを演じた瑚太朗くんのことは見ていて辛かったです......。誰かを愛するために、こうして裏切り、見たくもない少女の泣き顔を見ることになるのですから......。

でもそれだけ小鳥ちゃんにとっても約束が世界そのものだったように、そんなことは関係なしに瑚太朗くんにとっても心の支えだったということがやはり心に残りました。瑚太朗くんはカッコ良いと思うと共に辛すぎます......。





井子さんについて

井子さんはもう忘れられてそうですけれど、マーテルにある児童養護施設の先生です。Terraでは幼い朱音ちゃんを通じて知り合っています。マーテルに居心地の悪さを感じ、瑚太朗くんは同じくマーテルにいる親と喧嘩ばかりで、そんな瑚太朗くんに優しくしてくれていた人でした。親にぶたれたときに気にかけてくれる場面は印象的でした。

そんな井子さんですが、ガイアの聖歌隊としていたこと、地竜のために命を吸われ失いかけていました。瑚太朗くんが地竜を踏破してまでやり遂げようとした末に見たもの、それは死んでしまっていた聖歌隊、そして加島桜でした。
瑚太朗くんは篝ちゃんのためにガイアを止めようとしていたのにも関わらず、です。

「結局...」

俺がなしとげたことなど、まるで無意味なのかもしれない。
聖歌は滅びを誘発する。
まだ現世が無事なのは、篝の意志のたまものだ。
だが...
果たして間に合ったのか、どうか。
亡骸を見ていくとひとつだけ息があった。
それは井子さんだった。


「...話せますか、井子さん」
「...あなた...瑚太朗...くん?」
「あなたたちを止めに来ました」
「あら、そうなの?でももう...みんな...」
「井子さんは頑張っていた。なのに、どうして?」

「だってうちの子たち...未来がないんですもの」
「ほとんどの子が一生...拙いままで...」
「それを見ている方こそ、つらいものなの...」
「...体は健康でも...心が...いつまでも赤子のままで...」
「何十年も、赤子のまま老いていくのよ?」

「...私...殺してしまった...」
「え?」
「最初は事故だった...ドアに挟まって...」
「でも静かになったそのご遺体を見ていたら...まるで...救われた気がして...」

井子さんは唇と鼻から血を流す。
やけに薄い、さらさらの血。
命の色素が抜けた、水のような血。

「そしたらもう...止まらなかった...」
「私、おかしくなっちゃったの」

「朱音はでも、少しずつ育っていたはずだ!」
「あの子は...桜さんに目をかけてもらっていたから....」
「あの人は...心を写し込む...」
「...だから殺せなかった...あの子だけは...」

「朱音は今どこに?」
「石の街に、送って...」
「この世界を滅ぼして、一部の人々だけを生き延びさせるってのか?」
「加島桜が、本当にそんなことを見逃すと思うんですか!」

「.........」
「ねえ、教えて。世界はどうなってるの?」
「空はどんな色をしている?」

「まだ青い!」
「まだまだ青くて、汚れていて、悲しくて、残酷な世界だよ!畜生!」
「もう何もかもが涸れる寸前だ。けどもう一世代だけ、送り出す力を残してる!」

「...失敗...かあ」
「朱音ちゃん...こっち側に...連れ戻しといた方がいいかなぁ?」

井子さんは突然、身を丸めて低く呻いた。
体をぴんと支えていた力が失せ、張力に引き寄せられるように、きゅっと縮まって震えた。
...死んだのだ。


「...ふざけんな...ふざけんな、ふざけんな、

ふざけんな!

そんな暇ねーんだよ...クソ、

クソクソ!

俺にも篝にも...そんな暇...!」

「あああああああああああっ!」


ーー井子、瑚太朗(Terra)


あれほど打ち砕こうとしたガイアの、その聖歌隊の中に、幼い頃に優しくしてくれて、そして鈴木凡人としても朱音ちゃんを通して、一緒に過ごす時間も少なくはなかった井子さんが、そんな中にいたら、瑚太朗くんはどう思ったのかはもう説明するまでもありません。

そんな人が自分の身勝手に起こしたことに朱音ちゃんを巻き込んでおきながら、朱音ちゃんを助けてあげてほしいと伝えて、そのまま身勝手に死んでいくのですから、これほど身勝手なことはありません。
......それがどんなに身勝手だったとしても、それでもそんなかつて優しくしてくれた人の頼みだったら、あれほどの時間を過ごしてしまった人なのだから、そんな大切な人の頼みだったらどれだけ身勝手だったとしても、そんなの断れるはずなんてないじゃないですか!
しかもそのうえ身勝手に生きてきて、そして優しくて、そんな人が最後に助けてあげたい子がいるという美しいものをもっているのですから、それはさらに残酷です。そんな身勝手、どうしたら断れるのでしょうね。

瑚太朗くんが井子さんに対してどんな想いだったのか若干説明不足でわからないのですが、それでもここまで悔しそうに憤るというのは、井子さんがもう大切な人になっていたというのは間違いないのだと思います。

彼女は世界に希望は無いと思っていましたが、瑚太朗くんの世界はまだ生きていることを聞いて、朱音ちゃんの生きたいという希望を信じ切れていなかったことに、最期にちょっと残念そうにしていました。

そんな井子さんの死を見届けなければならなかった運命には、とても悲しいのだろうと思わされます。

篝ちゃんにも瑚太朗くんにもやらなければならないことがある。時間はない。それでも断れない。それが情だから。もう情なしではいられないくらいの人になったから。それは死んでしまったとしても変わらない。

そして朱音ちゃんだって、迷子になってはかつての地球救済ハンターのように、魔物を昆虫と勘違いして昆虫採集をするおかしな子でしたから。それに何度も森で出会い、命を何度も助けてしまって、今さら見殺しにもうできないですよね。

そんな子を井子さんの身勝手な優しさで助けなければいけなくて、篝ちゃんとの愛に生きて何もかも切り捨てることにしたのに、それが今さらですからね。ぐちゃぐちゃになって叫びたくもなるのでしょうね。ほんとにすごい作品ですねこれ......。





津久野について

津久野さんはガーディアンで主人公と同じ落ちこぼれチームにいた女の子です。しかし才能の限界を感じて、途中でガーディアンを辞めてしまいますが、瑚太朗くんが一緒に過ごした仲間です。

その後に名前が長居に変わり、ガイアの養護施設の先生になっていて、またまた朱音ちゃんを通じて再会してしまいます。しかしガイアの脱退と共に記憶は消されてしまい、瑚太朗くんのことはもう憶えていませんでした。

石の街で、井子さんの遺言と言いますか頼みどおり、朱音ちゃんを助けに行くわけなのですが、周りの人は何だかんだと言っては朱音ちゃんを渡そうとしないのですよね。この人たちは井子さんとは違い、真の利己性からの身勝手でした。そんな人たちへの瑚太朗くんの怒鳴りがこんな感じでした。

「警告する」
「...あんたら、向こう側に戻ったほうがいい」
「加島桜は絶対に罠を仕掛けているぞ!あの婆さんは、生命の存在を認めていない!」

答える者はいない。

「現世の滅びとともにここも消滅するか、あるいは永遠に世界との繋がりを断たれるか...」
「まだ世界はある!もう少しだけ、あの世界は保つ!」
「まだ生きることができる!」

「生きてどうするんだね?」
「どうするって...これは罠だ!」
「我々は、罠でも構わないと思っているよ」
「それでは自殺だ!」

別の者が前に出た。

「私たちは罪人です」
「向こうに戻って、秩序に裁かれるのはご免だ」
「ここで静かに死にたい」

男、女、若者、老人...
人々は唱和する。
滅びの賛歌に聞こえた。
終末を救済と考える者たちの、哀切の声だ。


ーー瑚太朗、ガイアの人々(Terra)


「...誰も...いないのか?」
「生き残りたい者は、誰も?」

小さなざわめきが起こった。
群衆が揺れ、大人たちの間からひとりの少女が飛び出してきた。

「...あ......あ...!」

すぐに周囲の大人たちが少女を抱え、奥に連れ去ろうとする。

「その子を離せ!」

立ちふさがる男に、刃物を突きつける。
死を恐れないのか、まったく怯まない。

「ダメだ!この子は私たちに安息をくれる存在だ!」

「その子は今、生きたがったろ!」

「聖女なのよ!」
「そうだ、聖女を奪うことは許されない!」
「ここから出て行け!」

「ふざけるな!自滅したいなら、自分の責任で自滅しろよ!」


ーー瑚太朗、朱音、ガイアの人々(Terra)


ガイアの人たちは、生きることに虚無感を抱いた人の集まりでした。そんな人たちの生への執着の無さに瑚太朗くんが抱く感情は、ここまでやって来て、そしてわざわざ篝ちゃんの時間を削ってまでした警告なので、聖歌隊を止めに行ったのと同様の、それは虚無感でしょうねきっと。

ただし、その生への執着の無さと虚無に、生きたがった朱音ちゃんを取り込もうとしたときはどうでしょうか?聖女ですとか、安息ですとか、そんなの理由になるのでしょうか?
ガイア思想の人たちに向ける感情が虚無でも、未来を切り開く意志と力を持つ朱音ちゃんまでにもその思想のすがる対象として植え付けることに対して持った感情、それは怒りでした。

瑚太朗くんが怒鳴ったこと言葉、誰かを大切に思うとはどういうことなのかはっきりと分かりますね。この人たちは井子さんのような優しさではなく利己であり、それに侵食させようとしたことへの怒りでしょうね。
どんなに身勝手だったとしても、ガイアの人たちと同じ思想を持っていたとしても、それでも朱音ちゃんを大切に想っていた井子さんへ向けた怒号とは、怒りの対象が違うことが分かります。

聖女だから神聖なのではなく、人間として生きる意志を持つことのほうが神聖なんです。

群衆の中に飛び込む。
少女を奪い、胸元に抱えた。
無数の悲鳴が上がる。
反転し、来た道を引き返す。
背後から足をつかまれる。
ひとりふたりならどうということもないが、何人も追いすがってきた。
髪がつかまれ、裾が引っぱられた。
構わず前に出ていく。
門が近づく。
だがあと一歩のところで、人々の力が勝った。
目の前で門は閉じていく。
加島桜の罠は、人工来世と現世を切り離し、泡沫世界とすることだった。

「...行かせてくれ...俺は...俺たちは...」

「まだ生きることを諦めちゃいないんだ!」


俺の絶叫の裏で、朱音も言葉にならない叫びをあげていた。
その声は、命そのものみたいに頼もしくて力強くて...
だから奇跡は起きたのだろうか。

誰かが、俺を後ろから押した。
三人分の力だった。
僅差で俺は向こう側に弾かれる。
門の空間が持つなんらかの作用で、人々の手が振りほどかれた。
振り返った。

閉じゆく向こう側に、父と母、そして津久野の顔を見た。


ーー瑚太朗、津久野、父、母、朱音(Terra)

............。ここでまさかの津久野さんの登場ですよ驚きました。

と、その前に父と母について。ちょこっとだけ登場しますが、ガイア思想の二人と瑚太朗くんの考えはいつも合わず、ケンカばかりして、とうとう家出のような形でガーディアンに入り、そこから会うことはなく通じ合うことさえずっとありませんでした。
もう登場することはないと思っていたのに、最後でここで背中を押してくれるんだ...と思うと、それでも絆はあったのかもしれない、なんて思ってしまいました。ガイアとかは関係なく、最後で親子というものを見せられました。とても感動するしかなかったです。こんなことが起こるなんて......。

そしてさらにここで登場するのが津久野さんです。両親がここにいるというだけでも奇妙なのに、運命のような巡り合わせを感じましたね。
津久野さんは記憶すらも消えていて、瑚太朗くんのことはもう認識できないはずです。それにもうガイア思想に染まってしまっています。それなのに、まさかここで背中を押してくれるのは......もう奇跡だとしか思えなかったです。この三人目の文字が飛び出て来たときには、それはもう泣けました。こんなことがあるなんて、ね......。

この作品の伏線は驚愕に値しますよね。ミドウさんのときも話しましたが、公式ページで紹介すらされないような人たちをここまででかなり紹介して、しかも全員が重要な活躍をしていますよね。この人々の繋がり、想い、そうした愛しいと思えるものがここまででどれほどあったのでしょうか。
単純に愛と惑星環境のダブルテーマに愛を哲学と形而上的にと文学にまで書ききったそのうえさらに、ここまで愛と想いのつながりができる作品なんて他にそうそうないでしょう。この作品は凄すぎました......。

この場面はすごくよい場面だったのに、アニメではさらっとカットされているんですよね。ここも映像付きで見たかったかもですね。

まあー何にしてもありえないです。ここまででどれだけ感動させてくれるんだろうという気持ちでした。愛というものがどれだけ複雑で、尊くて、美しくて......それをここまで書いているこの作品は圧倒的にすごいですね。本編考察ではTerraの内容をほとんど入れていませんでしたが、こうして胸に秘めるには充分すぎた内容でしたね。





咲夜について

咲夜さんは瑚太朗くんにだけ冷たい人でしたが、ちはやルートでは瑚太朗くんの特訓相手になってくれたり、Moonでは駆けつけてくれて一緒に戦ってくれたりと、意外と最終的な印象は悪くなかったですね。

「...最後があんたと二人ってのも、皮肉な話だな...」
「三人ですよ」
「あなたの愛しの眠り姫がいるでしょう」
「...それもそうだ」

槍状のオーロラを飛ばし、数体の恐竜を串刺しにする。

「...瑚太朗君」

引き裂く。

「んだよっ」

切り払う。

「いつか、あなたは私の運命だと言ったことがありましたね」
「...んな昔のこと、もう忘れたね」

咲夜の手刀と、俺のオーロラが同時に恐竜を四等分に断つ。

「あなたは私の運命を超えていった」
「...運命線のその先まで塗り替えていくのが、あなたでしたね」
「.........」
「私にはできないことが、瑚太朗君の力には秘められている気がします」
「私にはこの場に立つことも、新たな可能性を創造することも出来なかった」

押し寄せる魔物たちを相手にしながら、途切れ途切れの会話を続ける。

「...大層な話するね、あんたもさ」

同じ能力。
同じ運命。

「...俺のほうが後期型だからじゃねえか」

獲得形質。
俺と咲夜の関係は、その上に成り立っているのかもしれない。

「...また、来ましたね」
「上か」

赤い、無数の光点が空の一角を覆う。
止めを刺しにきた。

「さて、打つ手はありますか」
「.........」

断言できる。
確実にない。

「やれるだけやるしかないんだよな」
「ええ、その通りです」
「では、やれるだけのことをやりましょうか」
「......あんたのさ、その減らず口とむかつく笑みさ」
「はい」
「何とかしてくれそうな気になるんだよな」

「考えてみりゃ、俺さ...」
「なんだかんだで、お前がいるときって、いつもお前を頼りにしてた気がする」
「そうですね。私もいつも、あなたの手助けをしてきた気がします」

「......へへ」
「.........」
「なんかやってくれるんかい、大将」
「もちろん、瑚太朗君ごときには及びもつかない方法で」
「...頼むよ、兄弟」

「任せておいてください」
「...兄弟」

そうだった。
...いつかの最後の別れだって、こうして二人で笑いあって。
変わらない。
たとえ全てが幻でも...。

「.........」

いや。
あいつは俺が呼んだものじゃない。
...ということはつまり。

「...まさか」

咲夜は言った。

『全ての認識を持ってこの場に』。

「.........」

言い換えれば...。
あらゆる咲夜という認識を持つ意識体は、ここを帰結点としている。

轟音が響く。
一本の木が、周囲の森を飲み込むように覆い広がっていく。
...魔物としての咲夜の、最後の姿だ。
あれまで持ち込んでるってことは。

「馬鹿野郎...」

あいつの全ての運命はここに繋がる。
いかなる可能性の中でも、ここへ辿り着き、そして朽ち果てる。
可能性の世界がどれだけ広がっているのかは分からない。
ただ、咲夜という存在は、間違いなくここに帰着し、そして終わる因果を生んでしまった。
ここに立つために、あいつは自らの運命を閉じたのだ。

...咲夜の枝が......豪腕が、高空の魔物たちを捕らえる。
かつてはただ佇むだけだった巨体が躍動する。
やがて、腕が崩れる。
魔の身体が崩れ...一本の巨大な樹へ、枯れかけた桜の樹へと形を変える。
それでもなお、葉が魔物たちを飲み込み、枝がからめとる。

「.........」

目的を遂げた桜は...。
崩れていく...。
葉を散らし、幹をはがし...。


咲夜という名の存在が、ここで消えていく。

ここでの結果が影響を与える世界には、これから広がるあらゆる可能性の中には...彼は、未来永劫に存在しないのだろう。
閉じた世界の中にしか、彼は存在しえない。
永遠と言う言葉では足りないくらい、今生の別れだった。
...散る桜の運命を、彼は自らの意志で背負ったのだ。

(...俺は覚えとくよ)
(今ここにいる、俺だけは...)


ーー咲夜、瑚太朗(滅び)

ここで二人が兄弟と言い合うのがステキでしたね。二人が似ているのはその能力だけではなく、その運命も...それは好きな者に全てを賭けてしまったというところでしょうね。

そんな瑚太朗くんのために実は咲夜は、シミュレートでしかない命の理論から全ての認識をもって、意識体としてここまでしてくれました。可能性をすべて終着点を確定させたことで消失させてしまうほどで、もう永遠という表現には内包することさえ不可能というほど会うことはないことになってしまいました。

そんな空虚さだけであっても、それでも永遠ではなくても。今の瑚太朗くんには確かに覚える、忘れたくない兄弟だったと思うとちょっと感動的でもありました。

だがこの命、あと数分ももたない。
一瞬で篝のもとに移動することはできない。
どうせ尽きる命ならーー

「いいんですか?」

あんたは?

「先駆者ですよ」
「それより、ここから先は地獄ですよ。いいんですか?」

だって俺にはもう、時間がないもの。

「あなたという個体にとってはそうでしょうが、先駆者になるということは、次の誰かがあらわれるまで履歴が上書きされないということ」
「それはとてもつらいことですよ」

...つらい...こと?

「ええ、この上なく」
「最後の一人になってしまえば、未来永劫の孤独が待っていますよ」
「それは恐怖に違いないでしょう?」
「本当にいいんですか?今ならまだ引き返してもいいんですよ?」

...でも俺は、どうしても篝に会いにいかなきゃ。
会いたいんだ。とても。

目の前の男を見つめ、問いかける。
あんたにはそういう人はいなかったのかい?
男はかすかな笑みを浮かべた。

「...そうですか。ならもう止めません」

そいつが手を掲げる。
俺も片手をあげてーーちゃんと人の手だったーー打ち付ける。
交替!

「行ってらっしゃいませ、瑚太朗君ーー」


ーー瑚太朗、???(Terra)

もう会えないはずだったのに、そう思っていたのに、なぜここで!?と思ってしまいます。正直に言うとさっきの哲学的なやり取りよりこちらの方が解釈理解に難しいですね。でも、認識意識が隔絶されても、通じ合い認識意志結合をすることがここで叶ったのかなと思います。だって兄弟なのだから。なんでしょうね、すごくいい展開でもう感無量でした。

たくさん特訓してくれて、ずっと先生みたいだった咲夜。今度は瑚太朗くんが咲夜さんの説得に、むしろ瑚太朗くんのほうが説得で返すという成長ぶりに鳥肌がすごい......。かっこよすぎる......。

最後の二人で交わしたハイタッチ、これは意識世界でのことなのだと思いましたが、二人が兄弟らしくていいですね。瑚太朗くんにとってはもう名前も覚えていないのに、自然と昔からの知り合いのように言葉とハイタッチを交わすのなんて......瑚太朗くんの深層認識の中には、名前はなくても覚えていたんだと思うと、瑚太朗くんと出会い、理論世界で共に生きて、夜の集まる月で共に力を合わせて守ったこと、そんなことを思い返してもーすごいです......。

「覚えている」。この言葉、篝ちゃんとの約束だけではなく、こうした通じ合いの本物を見せられたのは感動いっぱいでしたね。この二人は最後にまで最高の絆を見せてくれました。






命は理論としてだったのか

この作品の構成構造といいますか、要は個別ルートは命の理論としてのシミュレートでした。だからただの可能性としての映像断片を見せられたのだと、脱力してしまった人もいるかもしれません。

捉え方の違いですが、本当にそれだけだったのかなぁと私は思います。シミュレートだったとしても、それでもやはりあれほどまで物語があり、そこで一生懸命に輝きをもって生きた命だってそう簡単に割り切れるものではないのかもしれないと思いました。そこで生きた命は、シミュレートだとか関係なく、そこでの精一杯の答えを探していましたから。これもやはり尊厳に関わるお話とはまた違うお話になるのですが、それでも信じてみたいなと思えることでした。一緒にいられた時間が、ただの時間の浪費だとは思いたくはないですね。きっとなにかステキなものだったと思いたいです。

咲夜にしてもそうですが、もしあれが本当にただのシミュレートだとしたら、Moonで一度は崩壊したオカ研が再編成されて、力を合わせて全員で戦うという、そういう感動はなかったと思います。
瑚太朗くんをはじめ、全員の命は確かに生きて、そうして得られたものがあるからこそ、最後の最後で全員が瑚太朗くんの背中を押してくれるのだと思いました。ただのシミュレートだったとしても、それが命であり、意志であることには変わりありません。と、そう思いたいですね......。


こうしてみると、瑚太朗くんが大切にしたいと思った人、大切にしてくれた人はたくさんいたことが分かります。
それだからこそたった一つの愛に賭けるものは、その大切なもの全てを投げ打ってでも追いかけ続けたもので、次の言葉にも重みがあったのではないでしょうか。




「何人、こうやって殺してきたと!」

決して、人を愛せる人間じゃなかった。
だからって、すべてを憎んでいたわけでもない。
分かり合えた人たち。
好ましいと感じた人たち。

すべて裏切って、すべて犠牲にして、ここまで来た。


――瑚太郎(Terra)


あまりはっきりとしたことではなくて申し訳ないのですが、瑚太郎くんはこうした人たちのことを顧みないような人だったとは私には思えなかったのです。それはもうここまで書いてきたうえで、この言葉が言われるわけですから、きっと瑚太朗くんの心象にはそんな人たちがずっといるのではないかと、そう自分の中では確信しています。

もし顧みないのであれば、ルイスくんに対する気持ちも、犠牲にしてきた人たちに対する気持ちも、乾燥したものでありそうに思えましたから。瑚太郎くんはずっと顧みていたように私には見えました。だから愛というテーマにした以上、食いつぶすだけという寂しい答えで終わりたくないという、私の欲望と願いでした。瑚太郎くんの気持ちが、枯れ果ててほしくはありませんでしたので、ただ愛という、その先の答えを見てみたかったのです……。

あともう一つ、最後に書き足した言葉には、同ライター作品の「最果てのイマ」からも着想を得ています。
最果てのイマでは上位概念として私が存在していて、細胞群はその下位概念とされています。しかし、その細胞群に対して我々は愛してあげるようにと伝えています。そのため最果てのイマとのメッセージに適合させて、母を食いつぶすだけではなく、たまには顧みて、そして愛してあげてもいいのでは、という終わりの言葉にしてみたという側面もあります。憶測も強いのですが、案外これがライターの本意だったのかな、とも思います。



最後の“上書き(リライト)”


気がつけば、ものすごい勢いで街の上空を飛んでいた。
跳躍している。
数百メートルの高度を、ひとっ飛びでまたいでいる。
自分がどういう姿をしているのか、わからない。
ここまでの能力だと、もう人の形ではないんだろうなと思う。

ハンサム顔に未練はあるが、まあ仕方なしとしておこう。

ああ...気持ちいい...風だ...
どこまでも飛んでいける気がした。
命さえあれば、俺はどんなものにでもなれる。
遺伝子の外に捨てられた、さまざまなガラクタさえ、自在に加工できるんだ。
だけど悲しいかな、俺の命の総量は人間ひとり分。
だからここまでしか、できない。

だからその技術は、皆に託そう。

世界にーー


ーー瑚太朗(Terra)

アニメの1話あたり(Moonでの月光散歩に該当)ですまし顔で空を飛んでいた瑚太朗くん、自分のことをハンサム顔だと思いながら飛んでいたのかと思うとちょっとクスッときますね。

(アニメではちょっとだけグロい絵が登場しますので念のため割愛)

でもここでは、とうとう顔までもが樹木化して怪物みたいになってしまった瑚太朗くんに、命尽きる前に篝ちゃんに会っておきたいと最後に思って上書きした瑚太朗くんには、そんなことない!本当にかっこよかったよ!とつい言わずにはいられませんでした。ここまでの感動がとにかくすごかったです!瑚太朗くんはここまでよくやりきったなぁ......と思います。

今までの上書きはいわば、篝ちゃんを守るためにありました。篝ちゃんのため、懸命に戦うため、運命に抗うため......
しかし最後のこの上書きは、ただ篝ちゃんに最後に会うために使いました。少年は命を使い果たしでも、最後の最後まで恋に全てを賭けたのです。
そして最後は純粋に、ただ篝ちゃんに会うために、そんなささやかな願いのために、今まで世界を変えてきた力を最後に使うのは本当に鳥肌モノでした。これはステキすぎて泣きが止まらない.....。





空っぽだったポケット

ある時、何も持っていないことに気づいた。
家族と決別し、仲間と組織を裏切り、師すら手にかけた。
友達を泣かせ失い、慕ってくれる者達にも背を向けた。
そして自分自身すら切り捨てたんだから、当然だ。
でも空っぽだと思っていたポケットには、たった一つだけ残っていたんだ。


覚えているけど、覚えていない約束のために、俺は書き換える。
永遠に一人、孤独に生き続けなければならない、彼女の運命を

アニメで追加された詩です。プロローグの対応になっていますが、これでよりこの作品が何を求めていたのか分かりましたね。

瑚太朗くんが追い求めたものは何か。それはプロローグーー青春とは?ーーで語られているように、人生の幸せでした。それがこの作品の最大の問いかけだったように思います。

幸せが詰まっていると錯覚したポケットには、薄っぺらなものしか詰まっていなくて、それは無と...空っぽと同義になるのでしょう。

しかし今回、そんなポケットに詰まった幸せのようなものを、瑚太朗くんは自ら手にかけて捨ててしまいました。それでも空っぽになったと、空っぽだったポケットには、一つだけ残っていました。だからこれが、瑚太朗くん自身が出した幸せへの答えです。

この答えのために、これまで篝ちゃんのためにしたことを見てきたので、ここでの瑚太朗くんの言う言葉には深く入り込んでしまいました。ここまでの瑚太朗くんが一生懸命になって追い求めたもの、それは見ていてとても良い記憶だったと思います。





「渡りの詩」と 「CANOE」

https://m.youtube.com/watch?v=cDMtDtHZFiQ&feature

(YouTubeのこのRewrite動画好き)

Rewriteを代表する曲といえば、MoonとTerraそれぞれのEDテーマになっているこの2つの曲ですよね。実はどちらの曲も“旅”がモチーフになっています。

私はそれぞれの歌が、篝ちゃんと離れてしまう歌と、会いに行こうとする瑚太朗くんの歌ーーそれは旅のように思いました。
約束を交わし、そんな約束を叶えるための長い旅。そんな歌詞には無い意味みたいなものも感じましたね。

でもCANOEの3番でようやく現れる歌詞「君に届けたい」とは、なんのために食いつぶすのか、切り開くのかということを強く示しているように思います。
それは愛する君に届けるため、そんな愛を込めているように思いました。


そんな2つで1つの歌は合わせて、愛のために生きた瑚太朗くんと篝ちゃんが再び会える、そういう旅の歌なんだなと思うととても感動できました。






Rewriteから見た作者像

では最後に、Rewriteと愛というテーマについて思うところを書いてみます。私はRewriteの作者のひとりである田中ロミオさんの過去作をやっているのですが、その人の哲学の特徴というのは、自我と他我との境界線を引くことで、それが絆だというのが特徴です。つまり、絆をテーマとした作品が特徴だと思っています。

ふたりの間に引く線について探りたい。
線が引かれることで、やっと人は安心できる。


――瑚太郎(対話)


しかしその他者論哲学だと特異性、それは個人に対する感情というものがまるで説明できません。だいたい可能、相手は誰でも良いということになります。そのことについて、この作者さんはずっと悩んでいたように思います。そしてそれと同時に、過去作ではそのことに対する答えを出すことはできていませんでした。

「大切な友だち。それはただ、君たちでなければならないのか、と」

「でも問題は解決していない。君たちだけが唯一無二の友達である必要性……」
「そんなものは、ないんだ」


――最果てのイマ(デート(仮)~甘酸っぱい何かのために~)

つまり、田中ロミオさんは今まで絆について書いていましたが、恐らく愛については書くことができていませんでした。彼の過去作は、(別に批判ではなく、どれも完成度自体は素晴らしいです)愛ではなく絆とか友情についてばかりしか書くことができていないように思いました。それは多とか、代替可能なものについてばかりで、特定の個については哲学できず、書くことができなかったという印象です。個人の尊さと愛は、哲学できないということです。それはエロゲ―にも関わらず、です。それが今回のRewriteではどうでしょうか。見てもらったとおりに、もう吹っ切れたものさえ感じました。私にとってこの作品には、とてもとっても驚かされました。

透明の絆が、俺たちの間に渡されていた。
それは蜘蛛の糸よりも細く、今にも切れてしまいそうだった。


――瑚太郎(三杯のコーヒー)

絆と愛、つまり「好き」と「愛する」の違いとは何か。好きというのは、線引きを行う、それは心の距離を規定するということです。それに対して愛は、このように線が渡されること、心のつながりということのように思います。今までのこの作者さんなら、ずっと他者関係を線引きだけで説明していました。だから私にとって、この時点で激しい違和感がありました。糸のよう、と言われるつながり、それが好きとは違う、愛の芽生えなのだと、この作者さんはそう表現することにしたのかもしれません。


そして好き(=絆)とは、心の距離を規定する線引きという、心のシステム様作用、そのような物理的干渉現象として哲学的にとらえることにより、他者との距離があることが親しさにつながるのだと、その距離を大切なものとしていました。しかし愛は説明できません。だから線引きや、物理的干渉という理論のさらなる上が求められたのかもしれません。それが、愛の超高位概念という答えだったように思います。絆はシステム的な説明をすることができなくもありませんが、愛はそれすらできない。絆は線引きという現象だとしたら、愛は理論を超えた超越的な高位概念とすることで、絆や好きという感情の上にある高位の感情としたように思いました。

でも、超高位概念という答えを出して、そのまま手放しにしているのかというと、そうではないところがRewriteの素晴らしいところだと私は思っています。そのような超高位概念を、この物語では篝火として喩えています。つまり愛とは、暗闇の中で灯る篝火のようなものだ、と結論付けているように思いました。だからこそ選択肢に篝火が灯るという演出をもって、愛というものを受容者に感覚的な理解を与えようとしたのかもしれません。その眩しさだけがあれば、瑚太郎は生きていけたように。

篝火のように導いてくれるもの、それが愛だったということです。愛は人を救う。だから瑚太郎の人生に篝火を灯すもの、それが篝という名前無き現象だったことでした。人生の幸福を、他者論に愛の概念で塗りつぶしたようでした。現象も理論も超えた、愛というものの尊さ、完璧だと感じたとともに、衝撃を受けました。人生の幸福に規定された答えがないように、答えがないのなら、探すことで、表現することで、確かなものとして示すことができるというように思いました。それは哲学と文学は、一体にして高次元へ至る可能性を秘めているということを感じさせられました。

私が初めてRewriteを遊んだ時に抱いた感想は、今までの哲学と違うがゆえに、正当に評価することができませんでした。それは期待していたものと違う、肩透かしのようなものでした。でもそれは、好きと愛が違うから、今までの作品との哲学と違うのだということが理解できました。だから今までと同じものを望んでも、そこにはないのは当然でした。むしろ高位概念へと至るために、過去の哲学をほぼ捨ててしまったその姿勢と、新たな哲学の創出と、その愛の可能性に私が気づくことができた時、もはや称賛しかありませんでした。この作者らしくはなかった、いいえ、この作者は高位概念へと至る挑戦をしたことで、まるで別物のようなものを生み出せたことに、ただただ驚きしかありませんでした。


ここまでちょこっと難しい話だと感じさせてしまったのなら申し訳ありません。要約すると、あの恋愛の書けない田中ロミオさんが恋愛ゲームのシナリオを書いたの!?ということを私は言っていました。そして愛についてテーマにすることは難しいということについても言っていました。だからこれは素晴らしい作品だと思います、というのが私の意見です。




ここまで書いてきて思うのは、やっぱりすごい作品だったなぁと思うことです。この作品では辛いと思った人、絶望してしまった人、そんな人がたくさん登場します。
もちろん、そういう人たちの人生には共感できるものが多く、どれだけ泣かされたか分からないくらいですが、それでもたった一つの尊いものを求め、そういった人たちに見せた瑚太朗くんの生き方は、とてもすごい感動があったのではないでしょうか。

傷ついた人がどれだけいたとしても、世界がどれだけ不条理であったとしても、それでも愛を信じて全てを賭けて、そうして生きた瑚太朗くんの人生には、それはもう力強く、そして尊いものを感じた人も多いと思います。それがこの作品の「感動」だったのかなぁと私的に思います。

Rewriteは原作50時間+アニメ12時間もありましたが、間違いなくそれに見合うものがありました。伏線・展開・物語の構成、その全てが芸術的で、主人公の純粋すぎる真っ直ぐさをとにかく最後まで書こうと思った意欲には恐れ入りました。最後まで信念を貫き通すことは難しいことです、だからこの作品は心から賞賛できると思いました。

報われないと分かっていても、それでもたった一つの想いに、ただ馬鹿みたいに純粋に、これだけの長さの中でも最後まで駆け抜けた瑚太朗くんには感動させられました。

愛というものを書くのはどこか躊躇してしまいますが、最初から最後までここまで追い求められてしまうと、どこか清々しいものさえ感じました。

「愛」というものを求めた作品としては、Rewriteは相当すごい作品だと思います。ここまで馬鹿正直に純粋に書くのですから、その信じられない真っ直ぐさにはやられてしまいました。最高の作品でした。愛についてここまで書いた作品は他にありません。愛とこの作品は素晴らしいなと思いました、本当にありがとうございました。

ジャンルが恋愛アドベンチャーというのはVisualArt's20周年記念作品にしてはあまりにも手抜きすぎでは?と思いましたが、終わってみるとああっ!あああーーー!という気持ちでしたね。実はすごく凝ったジャンルの設定だったのですね。

とても良いものが見られて、とてもステキな作品に出会えてよかったです。ありがとう、良い記憶でした。


初めての考察記事でしたのでいろいろと至らない点などがありましたら申し訳ないです。そのときはコメント等でご指摘していただけると幸いです。
改めて読み返してみると、文章力も低いですし、後半からの感想は特にアニメ感想板と大差ないような幼稚な感想をお見せしてしまったのではないかと思います。お恥ずかしい限りです。

そしてここまで読んでくださったことに感謝します。本当にありがとうございました。


……皆さんの明日にも、どうか良い記憶で満ちていることを願っています。